第五話「あーん」
「お兄ちゃん、クッキー作ったよ!」
「んへっ、ありがとう、リンカちゃん!」
「食べさせてあげるね!あーん!」
「あーん!」
「おいしい?」
「うん、おいしい!」
相沢が一人部屋で美少女ゲームを楽しんでいると、近くに置いていたスマートフォンが鳴った
「あ、電話だ!ちょっと待っててね!」
相沢はスマホを手に取り、通話ボタンを押すと耳元に当てた
「もしもし、あぁ、倉田か、どうした?」
電話の相手は倉田だった
「ほう…へぇ…なるほど…そうか…」
相沢はうんうんと二つ返事でうなずくと
メガネを光らせて「了解した」と返したーーーー。
静かな住宅街に「ピンポーン」という音が響いた
コウタは倉田の紹介で訪れた家のインターホンを鳴らしていた
「すみません、相沢くんはいますか?」
「どちら様ですか?」
スピーカーからは年配女性の声が聞こえてきた
「僕、佐々木コウタと言います。相沢くんと同じ学校の……」
「あ、ちょっと待ってください……」
音声が切れるとしばらくして
ガチャガチャと忙しなく扉が開き、中から男の声が響いた
「……入れ」
「おじゃまします」
コウタが家に入ると
そこには相沢が立っていた
「上がれ」
コウタが靴を脱ぎ、家に上がると
相沢の部屋へ案内された
「倉田から話は聞いている
この聖地に踏み込んだからには
揉まれる覚悟はできているんだろうな?」
コウタはコクリとうなずいた
「言っておくが俺の指導は厳しいぞ
友達を助けたからといって生ぬるい覚悟で望んでいるなら、すぐにでも出ていってもらうからな」
「わ、わかった」
コウタがうなずくと相沢はゲームの電源を入力し、コントローラーを手に取った
「よし、じゃあまずは手合わせからだ
お前の実力を試させてもらう」
「よ、よろしく頼む」
コウタは緊張で手が震えていた
「えっと、対戦モードを選んで……と、チャット機能は…まぁオンでいいだろう、世界中の奴らにも俺の強さを存分に見せつけてやろう」
相沢は手をワキワキとさせながら
コントローラーを握った
ステージ選択とキャラクター選択が画面に表示される
「キャラクターIDはあるか?」
「あ、ちょっと待ってくれ…」
コウタはズボンのポッケに手を伸ばすと
中から一枚のカードを取り出した
「なんだお前、アーケードでやってるのか」
「う、うん……」
コウタはぎこちなくうなずいた
「キャラクターID
キャラクリで作ったキャラクターのIDコードだ
これをゲーム上に入力すると作ったキャラクターが他の媒体でも使えるようになる。」
「アーケードの場合、キャラクターのコードが書かれたカードが貰える。手動入力だけでなく直接カードを投入口にさすことでも使用が可能だ。」
コウタは心の中でキャラクターIDの解説をした
画面にはコウタの作ったキャラクターと
相沢の作ったキャラクターが表示された
「コウ9(ナイン)?変な名前だな
キャラもデフォだし、口内炎みたいだ」
相沢のキャラクター名には
アルファベットで「CARISUMA」と書かれた文字が表示されていた
「カリスマなのか…?」
「そうだ」
相沢はうなずくと画面を見て不敵な笑みを浮かべた
「今からお前にBランクの恐ろしさを存分に味わわせてやろう」
二人がキャラクターを選択すると
ゲーム画面にチャットが表示された
「お?始まった」
「キタァーーーー」
「カリスマさんだあぁぁぁぁ!!」
相沢のキャラクター「CARISUMA」が入場するとチャット欄が沸いた
「人気なんだな」
「ふん、当然だ」
続けてコウタのキャラクター「コウ9」が現れるとチャット欄が不穏な空気に包まれた
「うわ、こいつ荒らしじゃん!」
「本当だきっしょ」
その反応にコウタの体はぴくりと動いた
「またこいつかよ…」
「聖地汚すなよ」
「消えろ荒らし」
「シネシネシネシネシネシネシネシネ」
荒れるチャット欄
「なんだお前、荒らしなのか?」
「いや、挑戦者モードで遊んでたらいつのまにか荒らしにされてた」
「ふーん」
画面にはVSのマークが表示される
「やっちゃってくださいカリスマさん!!」
「用意はいいか?」
「あ、うん、……?」
戦闘開始と同時に
コウタはあることに気がついた
「相沢、格好が変だぞ、それじゃまるで女だ…」
「ふん、わかってないな素人は…、こういうクリエイティブ要素の高いゲームは美少女を作成するのがデフォだ、それにな、ゲームは自由だ、現実のしがらみに囚われる必要はないのだよ」
「そ、そういうものなのか…」
コウタは相沢の言葉に戸惑いつつも
コントローラーを握り、戦闘へ入った
「どこからでもかかってきていいぞ」
コウタは相沢の言葉を聞くと遠慮なく間合いを詰めてパンチボタンを入力した
すると相沢は後ろへ回避して素早く前へ詰めるとコウタをアッパーで上に吹き飛ばした
「なに!?攻撃が当たらない!!」
「ふ、驚くのはまだこれからだ!!」
相沢は素早く上に飛ぶとコウタにキックとパンチの連打を浴びせ、回し蹴りで遠くへと吹き飛ばした
「く……ッッ!!」
体制を立て直そうとしたコウタはボタンとコントローラーのスティックをガチャガチャと押した
ようやく立ち上がったコウタは
迫る相沢にすかさずパンチを見舞おうとした
しかし、相沢は後ろへ避けてまた前に進み、距離を詰めてきた
「なんで当たらないんだ!?」
「ふ、のろいのろい…まるで亀さんがのんびりとお散歩をしているようだぞ?さて、そろそろトドメと行こうか」
そう言うと相沢はコウタのパンチを屈んで回避し、下段蹴りを見舞うと必殺技を使い、コウタの体に無数の連撃を浴びせた
「や、やばい…!!逃げないと…!!」
コウタはボタンをガチャガチャと押した
「無駄無駄!!必殺技中は回避できない仕様だ!!お前は無様にやられるしかない!!」
コウタの体力ゲージはどんどんと減っていき
やがて赤く染まると、ゲーム画面にKOの文字が表示された
「ぐっ…うあああああ!!!!!」
コウタは天井を見上げて叫んだ
「ふっふっふっ、想像以上に弱いな貴様、流石Cランク、いやそれ以下だ」
「くっ…ぐふっ…」
コウタはガクッと肩を落とした
「うおおおおお!!!!」
「さすがカリスマさん!!!!!」
「おめでとう!!!!!」
「やっぱすごい!!!!」
「888888888888」
二人の対戦を見て
チャット欄は大盛り上がりとなっていた
「よわっ」
「もう格ゲーやめろよ」
「何しにきたんだこいつ…」
コウタへは激しい批判が向けられていた
「(やっぱり僕には才能がないんだ……)」
コウタは対戦に負けたショックと
チャット欄の罵詈雑言により完全に戦意を喪失した
「笑止!」
その時、聞こえてきたのは相沢の声だった
「プレイヤーの価値を上手いか下手かで判断する奴にプレイヤーを評価する資格などない!!」
「積み上げてきた努力と情熱、結果に対する喜びと感動、それさえあれば皆いっぱしのプレイヤーなのだ!!」
それを聞いてコウタはハッと相沢の方へ顔を向けた
「佐々木コウタよ、俺がお前を最強のプレイヤーに育ててやろう、覚悟しておくがいい」
そう言うと相沢はコウタに手を差し伸べた
コウタは相沢と握手を交わし、その瞳には光が灯った
そこからコウタは相沢と共に数時間対戦を楽しんだ
「なんでだよ!そこ避けたじゃねーかよ!!」
コウタは相沢にやられるたびに奇声を発した
「なんでもいいんだけど、騒ぐのはやめてくれないか?人ん家で……。」
コウタと相沢の特訓が始まったーーーー。




