ある日の口論
これはBLに入るのだろうか……。
ーー 思い当たる節はあれしかない。多分あれのせいだ。あの日、人生に疲れきって首を吊って死ぬ瞬間願った事が、こんな事態を引き起こしたんだーー。
目の前には睨み合う3人がいる。それぞれがそれぞれ特性を持っており、何かとわからない事だらけの異世界で、主人公の事を手助けしてくれた、掛け替えのない仲間であり、恩人であり、そして親友だ。
この3人に付き従う部下達を入れた大所帯パーティーになった今でもそれは変わらず、大人数で組んでいるパーティーの中ではトップクラスに入るほど雰囲気が良いだろうと、主人公は常に思っている。
ただ毎週この時間だけ、頼れる親友達は額に血管を浮かべながら、聞いているだけで怖気を振るうような罵詈雑言を互いに吐き続ける。
「今日は私が主人公の隣に寝るって話だったろう!!!」
ロインががなり立てる。
故郷では至宝と呼ばれ、本人も気を使っている光り輝く銀髪を振り乱し、美しい顔を歪ませ、白い肌は怒りと興奮で真っ赤になっている。
「はっ!今日ずーーーーーっと主人公の隣陣取ってたくせに何言ってんの!?作戦会議の時だって耳打ちなんかしてさ!今日主人公と1番口聞いてないの僕なんだからね!!」
元々小生意気なデーレはこの時もあまり変わらない。
だが、栗色の癖っ毛を掻きむしりながらイラつくその姿は、かつて救世主と呼ばれた大賢者だとは思えない、年相応以下の振る舞いだ。
「うるせえ……ロインもデーレも今日は主人公の側で依頼をこなしてたろうが!!遠征してた俺にいっ、一緒に寝る、権利が……!!」
最後の方は真っ赤になりながら、ニアが呟く。普段は寡黙で、どちらかというと他人を優先しがちだが、この時ばかりは譲らない。
各々主張しきり、3人の目線がガッ!と一点に集中する。口論の原因であり、3人が心から愛する男は、途方も無い気迫で怒鳴りあう親友達の姿にガタガタと震え、目には涙を浮かべながら心からこう思った。
——この3人が、女の子だったら嬉しい喧嘩なのになあ……。