勇者ですが何か?(36)旅には塩が大事ですが?
チックの住んでいる村に到着したタロウ達はチックと別れて宿で飯を食べながら不自然なレオベアの出現について話し合っていた。
「まさか旅が始まって早々にこんな不可思議なことが起きるなんてね……、これもあんたの影響なのかしらね?」
「知らねーよ、むしろハプニング起きすぎてもうすでに心折れてるわ、帰ってゲームしたい」
タロウはコリャ・ソウダを飲みながらため息を一つ吐く。
「まだ旅は始まったばかりなのに、全然上手く進まねぇ……」
魔王のいないこの時代に勇者としての務めなんて何もない、簡単だろうと思っていたのに蓋を返せば町で戦闘が起きたり食料を盗られて死にかけたり前途多難な現状になっていた。アイリーンもきっと想像とは違う旅で落胆してるだろうとタロウは思っていた。
「なんか、悪いな……別に俺が謝ることでもないけどさ、こんな旅の出だしになってさ」
「別に気にしてないわよ、ニュースで見た時からダメダメな勇者だって分かってたしね。それに……、私も全然ダメダメだしね」
アイリーンは水を一口飲んで食べ終わった皿をまとめた。
「どうする? 村の周辺調べてみる? レオベアの件もそうだし、チックが話していたフードの男も気になるわ」
「そうだな、明日は食料の買い出し兼ねて調べてみるか」
ーー翌朝
タロウとアイリーンは宿で朝食を食べ、旅の食糧を求めて村を散策していた。村の中央付近に長屋があり、そこで商人たちが定期的に持ってくる食材や生活用品を販売していた。
「日持ちするもの多めで買おう、あと調味料が大事だ! 塩! 塩がめちゃくちゃ大事! どんなものも火を通せば大体食べれるけど、味はごまかせない! そこに塩があれば一気に美味しくなる!」
タロウは唐突に塩に対する熱意を伝えながら各地の塩と立札の置かれたコーナーで、袋詰めされた塩をいくつもバスケットに突っ込んでいた。
「呆れた勇者ね~、塩分過多で死んじゃうわよ? 健康にいいのはお酢よ!思った以上に安いし買い溜めしておかないと」
アイリーンもまたお酢をポイポイっとバスケットに入れていた。二人の買いっぷりを見て店番をしていたおばさんも半ば呆れた顔をしつつも楽しそうで何よりと野菜をいくつかサービスしてくれた。
買い出しをしつつタロウとアイリーンはレオベアがこの近辺に生息しているのか、また最近目撃した情報などあるかを聞いて回った。しかし特にレオベアを見た人はいなかった。
「レオベアを目撃した人はいなさそうね……まぁ、本来であればこの近辺にいるはずないから当然ではあるけど」
村の端にある休憩所のベンチに腰を下ろし、昼ご飯として購入した村の野菜サンドを食べるタロウとアイリーン。
「うーん、レオベアについてはもう良い情報は出てこないかもな。あの洞窟に近づいていない限りそうそう見る可能性はなさそうだしな」
そう語り昨日のことを改めて考えるタロウ。
「昨日、チックは花を摘みに洞窟にいったんだよな、そしてレオベアに襲われた」
「洞窟に行くことを勧めたのはフードを被った男の人って言ってたわよね、特に買い出し中は見当たらなかったけど村の人ではなさそうね」
「なんで洞窟に花があるって分かってたんだろうなぁ? 普通あんな場所に行かなくないか?」
タロウのふとした疑問を前に二人は目を合わせ思うことを語りだす。
「村人でもないのに村の近くの洞窟の情報を把握している? 誰かに聞いた、もしくは洞窟の中に何があるかを確認していた? レオベアがいたらあまりにも危険だし騒ぎになっているのに問題なく村に現れてチックに洞窟を進めたのは、その男が連れてきたから?」
「うん、もしかしての話をするけどさ、フードの男が良からぬことを企んでいたって感じするよな。でもここの村に対してなんでそんなことをする?言ってもとりわけ裕福な村ってわけではないのに」
「この村が目的じゃない……、タロウ、多分だけど目的はーー」
「……俺たちか!」
アイリーンは頷く。
「確証はないわ、でもタロウは"勇者"、色々な可能性が考えられるのは不思議なことじゃない」
タロウは頭を掻きながらため息を吐く。旅が始まってからつくづく問題にぶつかってしまう状況に落胆する。
「うーん、もし俺たちが狙いなら案外近くにいるかもな、例えばだけどレオベアを引き連れていて俺たちを襲うために洞窟に潜ませたとかな」
「そこにさらに母親のためにと考えていたチックをそそのかして私たちをおびき寄せた? 助けに来ることを想定して?」
「可能性だけどな、洞窟にレオベア連れてきたときに花が生えていたことも把握したのかもしれない」
二人の考えが一致した。フードの男の行方を改めて調べようと思い、ふと遠くから視線を感じたタロウは座っていたベンチの後ろを振り返る。
「あ?」
すると後方の方にいくつかの民家があったのだがその民家の一つの建物の後ろからフードを被った男がチラチラと見ていることに気づいた。相手もタロウが気づいたことを把握したのか、一瞬ビクンと肩を震わせてさっと立ち去っていく。
「おい! 待て!」
タロウは勢いよくベンチから立ち上がり、残っていた野菜サンドを頬張る。アイリーンもあわせて立ち上がり「見つけたの?」と問いかけながらタロウの見ている先に目を向ける。
「あっちだ! 追うぞ!」
二人はフードの男の後を追いかける。フードの男も追いかけられていることに気付いているようで早歩きから駆け足になり、やがてダッシュするようになった。
「逃がさねぇぞ、おいこら!」
タロウとアイリーンの追跡に耐えられなかったのか村を出て5分ほどのところ、拓けた場所で立ち止まり膝に手を置き、肩から息をするフードの男。タロウ達もダッシュしたため息が切れていた。
「はぁ、はぁ、お前何者だ? 昨日のレオベアはお前のしわざか?」
タロウの問いにフードの男は息を吐きながら振り返る。30代ごろと思われる男の顔がフードの中から垣間見えた。
「クク、俺が何者かだって? 答えてやるのが世の情けってなぁ! 俺はモンカプ使いのナレート! 昨日のレオベア? あぁそうさ! 俺の魔獣さ!」
そういってナレートと名乗る男は身を包んでいるマントの中に手を突っ込み一つの球体を取り出す。そしてその球体をタロウ達へと突き出して口を開いた。
「勇者タロウよ、お前にはここで死んでもらう!」




