勇者ですが何か?(37)モンカプ使いですが?
タロウとアイリーンは二人を見ていた怪しいフードの男を見つけて村の外まで追いかけた。二人の追跡に耐えられなかったのか村を出て5分ほどのところ、拓けた場所で立ち止まり膝に手を置いて肩を動かし息をするフードの男。
「はぁ、はぁ、お前何者だ? 昨日のレオベアはお前のしわざか?」
タロウの問いにフードの男は息を吐きながら振り返る。30代ごろと思われる男の顔がフードの中から垣間見えた。
「クク、俺が何者かだって? 答えてやるのが世の情けってなぁ! 俺はモンカプ使いのナレート! 昨日のレオベア? あぁそうさ! 俺の魔獣さ!」
そういってナレートと名乗る男は身を包んでいるマントの中に手を突っ込み一つの球体を取り出す。そしてその球体をタロウ達へと突き出して口を開いた。
「勇者タロウよ、お前にはここで死んでもらう!」
ー勇者ですが何か?ー(37)
手を突き出したナレートに対して、アイリーンは剣を構える。しかしタロウは剣を構える素振りを見せず、興奮したような眼差しでナレートが持っている球体を指さして震えだす。
「お、お前……、それは"モンスターカプセル" じゃねぇか!」
タロウの言葉にナレートは鼻で笑う。アイリーンはタロウがなぜ興奮しているのかが分からないでいた。
「タロウ? モンスターカプセルがどうしたの?」
「アイリーン! お前、モンスターカプセルだぞ!? 王国じゃ全然持ってる人はいなかった!」
モンスターカプセルとは、魔獣を捕獲することが
「……まさか羨ましいの?」
アイリーンの言葉にキィィとジャージを噛んでいるタロウを見てナレートは勝ち誇った笑みをこぼす。
「哀れだな、勇者タロウよ! モンスターカプセルの前に打ち砕かれるとは……、俺とモンスター達の絆を前にさらに絶望するがいい! そして死ねぇ!」
ナレートは大きく手を振ってモンスターカプセルをタロウ達に向けて投げる。モンスターカプセルは空を舞い、やがて光と共に蓋が開いた。そして更なる光がすぐ近くの地面へと伸びて行き、そこにはモンスターカプセルに入っていたのであろう恐ろしい魔獣の姿があった。
「こ、こいつは!?」
その魔獣は身体中に粘液を纏っていた。伸縮を繰り返しながら、その粘り気のある身体を地面に引きずるように動いていた。
「……スラッグ?」
それはナメクジの魔獣、「スラッグ」だった。ナメクジが腰の大きさほどになっているものをスラッグという魔獣扱いになっている。
「貴様! 俺のナメンチュをなめるなよ」
「お前、他にはいないのかよ? なんでスラッグ?」
タロウの質問にごもっともだというように、頷いてナレートは事の始まりを話し出す。
「……話せば長くなるが、俺は将来カプセルキングを目指している! だが、この世界は馬鹿なことに俺にその権利を与えようとしなかった! やっとの思いで捕まえたスライムが一瞬でつぶされる気持ちが分かるか? 強い魔獣が欲しい! そのためには魔王に復活してもらい、より強い魔獣を世界に増やさなければならない!」
力強く握りこぶしを作り、熱く語るナレートに冷めた目を見せるアイリーン。黙々と剣をスラッグに向けて構える。
「付き合ってらんないわ、触りたくないけど、時間も無駄だし、あのナメクジたたっ斬るわ」
アイリーンはスラッグに向かって勢いよく跳躍してそのまま真っ二つになるように剣を振り下ろす。
「はぁぁぁ!」
スラッグはノソノソと動いているが傍から見るとどこが動いてるの? という状態だった。そしてアイリーンの剣が振り下ろされる。
だが、ナレートは落ち着いていた。むしろ口元は笑ってるようにさえ見えた。
ーーズダンっ!
剣の衝撃から土煙が舞い、やがて煙は晴れていく。
「なんで……?」
アイリーンの口から静かにつぶやかれた。
タロウも土煙が晴れていく中で見えてくる。アイリーンの前には斬られたと思われたスラッグが何事もないように生きていた。
「おい、アイリーン、お前まさかナメクジすら斬れないのかよ」
タロウは少し小馬鹿にして笑う。だがアイリーンはいつものように反撃の口を開かなかった。
アイリーンは確かに剣を当てていた。そう確信していたのだが。
「まさかーー」
アイリーンがあることに気づきもう一度剣を振ろうとしたその時。
「スラッグ! 破壊ビームだ!」
ナレートの言葉と共に、スラッグの口部分が開き、物凄い勢いで光が収束されていく。
「ア、アイリーン! 逃げろ」
アイリーンも振ろうとしていた剣を咄嗟に前に広げてガードの体勢をとる。それとほぼ同じくしてスラッグの口からは超高濃度の魔力がビームとなって吐き出された。
「うあぁぁぁ!」
アイリーンはなんとか剣でビームを防ぐもその勢いに耐え切れず吹っ飛ばされてしまう。すぐにタロウが駆けて行き、大丈夫か?と尋ねる。
「く、何なのあのナメクジ!」
剣で防いだおかげで大きなけがなどは無かったようだった。
「くく、驚いたか? 俺のスラッグは破壊ビームを撃てる! 最強なのだよ!」
笑うナレートにタロウも頷き、剣を抜く。スラッグは開いた口から硝煙のような煙を出していたが、ゆっくりと口を閉じていく。
「確かに、馬鹿にしてたのは訂正しないといけないかもな」
アイリーンも立ち上がり、剣を握りなおしてタロウの横に並ぶ。
「そうね……本気でぶっ倒す」
タロウとアイリーンは左右に分かれるようにしてスラッグの方へと飛び出していく。そしてスラッグが体の向きをどちらに合わせるか判断できていないことを確認してアイリーンがまた近づいていく。
「さっきは縦に斬り落とそうとしてダメだった! それなら横から払えばどうなるかしらね!」
アイリーンはスラッグの地面に貼っている身体めがけて横薙ぎに剣を振るう。剣は確実にスラッグの身体へと当たった。
「よし! これなら!」
しかし、スラッグの身体中から出ている粘液により、斬るどころか傷も付けることができないまま、徐々に滑ってゆき、アイリーンの剣は何も斬れずに粘液だけを付着した状態で振り切る形となってしまった。
「くっ!」
一方、スラッグを挟んだ先のタロウは右手をスラッグの方に向けて魔法を放つ体勢をとる。
「剣がダメなら魔法ってな! ゲームではだいたい相場が決まってんだよ! "バーン"!」
タロウの右手の平から火球がスラッグめがけて飛び出していく。その球は見事に命中して弾け、小さな煙があがる。
「よし、これで丸焦げだろ、次はお前だ」
タロウは後ろの方にスラッグの後方に立っていたナレートに振り向く。ナレートの顔はいたって冷静な顔で何事も起きていないように立っていた。
「強がるなよ、モンカプトレーナーさんよぉ、お前の相棒は燃えちまったぞ」
タロウの言葉に小さく笑う。
「ーースラッグ、破壊ビーム」
ナレートの言葉のあと、タロウの目の前をものすごい勢いのビームが横切った。
「うぉ!?」
ナレートへ足を踏み出そうとしていたタロウはなんとかその足を止めて後ろに下がるように尻もちをつく。スラッグを振り返ると全くもって無傷であった。
「なん、だと……!」
タロウは急いで立ち上がり立て続けに2回、火球を放つ。どちらも命中して爆発するが、煙が消えるとそこには無傷な状態のスラッグが堂々と存在していた。
「スラッグは身体中に常に粘液を纏っている。これにより生半可な攻撃は通じないんだよ! いけスラッグ! もう一度破壊ビームだ!」
スラッグはまた口を開きビームを吐き出す態勢を作っていく。
「くっ、さすがに連続で撃たせすぎたか。だがもう少ししたら発射される!」
そうナレートが言い終わるころにはタロウに向けて破壊ビームが放出されていた。何とかそれを避けるタロウ。再び距離を取る。
「なるほど、連発していくと発射が遅くなるのか。その間に野郎をぶっ倒せば勝機がありそうだな」
タロウはナレートに向けてバーンを放つ。
「スラッグ! 粘液を飛ばせ!」
ナレートの命令にスラッグは口から粘液を吐き出す。それはちょうど火球にあたり相殺される。
「俺を狙ってくるのは良いがスラッグは破壊ビーム以外も覚えているんだ、攻撃が来る前に対処させてもらう」
くく、と笑うナレート。その横にアイリーンが来ていた。
「はぁ!」
スラッグに攻撃が効かなかったアイリーンはタロウの攻撃を確認して反対側からナレートに接近していたのだった。アイリーンはナレートに向かって剣を振るうもギリギリのところで気づいたナレートに避けられてしまう。
「くっ! 危ないところだった!」
そしてナレートはスラッグのすぐ近くまで走って逃げる。
「貴様ら、俺を狙うのは良いといったが常識はないのか!? 俺はモンカプトレーナーだぞ? 魔獣使うだけの一般人だぞ! この卑怯者ども!」
顔を見合わせるタロウとアイリーン。
「「卑怯もクソもあるか!」」
その返しにナレートはワナワナと震え始める。
「お、おのれ~、これが勇者か! 俺は怒ったぞ! 勇者タロウ!」
「知らねーよ! てめぇが吹っ掛けてきたんだろうが!」
ナレートはポケットをもぞもぞと当たり、飴玉を取り出した。
「俺はもう知らん、勇者め、後悔しろ!」
そしてスラッグに飴玉を食べさせる。
少し間があり次の瞬間、スラッグの身体中は光輝いた。
「な、なに?」
「なんだ!? 何が起きてる?」
タロウとアイリーンがその輝きに目をそらす。やがて光は消えてその場にはスラッグがいた。
正確にはすらっぐだった存在がそこにいた。
殻の被ったスラッグだった。
「な、なにが起きたの?」
アイリーンの言葉に返事をするようにスラッグはアイリーンに向かって破壊ビームを放った。そして放ち終わるや先ほどまでよりも早く、タロウの方を振り向き破壊ビームを放つ。
「うおぉぉっ、危ない!」
何とか避ける二人だが、すぐにまたビームを放ってくる。
「か、感覚が早い!」
「威力も格段に上がってるわ!」
ビームを避けながら話す二人にナレートは満足そうな顔で語りだす。
「スラッグに与えたのは進化のキャンディだ。 これを与えることで特定の魔獣は更なる姿を見せる! スラッグは今"スネイラー"となったのだ!」
スネイラーの破壊ビームは威力が上がったこともあり、平野でもある為に、被害が拡散されていた。
「くそ、このまま撃たせまくってたらこの一帯大変なことになるぞ!」
「どうするのタロウ! ナレートを倒せばもしかしたら止まるかもだけど、近づく余裕が持てないわ!」
タロウは避けながら考える。この状況を打破する方法を。
「あっ!」
ーーある! こいつを倒せるかもしれない方法!
タロウはあることを思い出し、スネイラーを見る。殻がついた状態のその身体。粘液を浴びているその身体。
「行けるかもしれない! いや、これでいけなければ勝てない!」
タロウは一か八かで背負っていた魔法のバッグを漁り始めるのだった。
※フードの男
ナレート・トシサ(30):男、魔王崇拝者
10歳のころにモンスターカプセルを手に入れ、スライムを仲間にする。将来はカプセルキングの称号を得るために必死に鍛えていたがスライムは即つぶされ死亡。
絶望して引きこもりになる。勇者と魔王の特番を見た際に、魔王が復活して魔物がはびこる世界になれば強い魔物をゲットし放題、カプセルキングの称号を手に入れることができると思い至り、魔王復活を願うようになる。そしてレオベアという気性の荒い魔物を入手したナレートは魔王復活に邪魔な勇者を倒すことを目論む。
ーーレオベア、ゲットだぜ!ーー byナレート、レオベアをゲットした時の一言




