勇者ですが何か?(27)ギズベル到着ですが?
「……これでよしっと」
ふう、と一息吐いて空を見上げるタロウ。ダルキヨ達を縄で縛り終えたタロウは、武器屋の老婆に呼んでもらって駆けつけた警備兵達にダルキヨ達を連行してもらうことにした。
「これで終わりじゃねぇぞ? 頭が到着したらお前らは終わりだよ」
ダルキヨはタロウを見てニタリと笑う。警備兵が縄を引っ張り歩いていく後ろ姿をタロウは見つめた。空には雨雲が出来ていた。
「……どうするんじゃ、これから」
老婆が近づいてきて尋ねる。
「奴らの仲間がこの街に来るんなら止めるしかないだろ? 勇者二日目にしてこんな事に巻き込まれるなんてな……」
タロウはフッと笑い老婆を見る。
「もう少し剣借りるわ、ちゃんと返しに来るから」
そう言ってタロウは老婆と別れ、歩き出した。
「一旦あいつのところに向かうか……」
ー勇者ですが何か?ー(27)
「おらおらぁ、まだ生きてるかぁ? あぁ?」
インバスはグッタリと倒れているアーシャの上で笑い、腫れ上がったアーシャの顔をペチペチと叩いた。アーシャはか細く呼吸をしていたが、それ以外の反応はほとんどなかった。
「もう、やめて……、もうやめてぇ!」
レベッカはインバスに向かって叫んだ。だがその叫びを聞いて止めるわけもなく、インバスはさらに口を開けて笑う。
「安心しろ、そろそろ終わる。終わったら次はお前をいたぶってやるからよぉ、楽しみにして待ってろよ金髪の嬢ちゃん」
「ーー終わるのはあんたよ」
「ーー!?」
突然の後ろからの声にハッとするインバス。振り返ろうと横に向けた顔のど真ん中に模造剣がメリメリと鈍い音を立て食い込んだ。そしてそのままの勢いでインバスをアーシャの上から突き放す。
ばたりと倒れたインバス。大柄な男に剣を振ったのは後ろから近づいていたアイリーンだった、
「アイリーン……!」
レベッカは安堵の顔を見せる。アイリーンはふうっと息を吐き膝をついてアーシャを見る。
アーシャの顔は晴れ上がり、鼻と口から血を流し、少女の顔とは思えないほどひどい状態だった。
「……アーシャ」
微かな呼吸音を聞きアイリーンは目を瞑る。そしてすっと立ち上がり、今倒したインバスの元へと進んでいく。
「よくも……、私の友達を……!」
「ア、アイリーン……」
レベッカはアイリーンのいつもとは違う雰囲気に竦んだ。アイリーンの目は明らかに険しく、怒っているのが分かるものだった。模造剣を持つ手が力みすぎて震えていた。
インバスに近づいていくアイリーンを見てレベッカはだんだんと悪い予感を感じて首を横に振る。
「ダ、ダメよアイリーン! それ以上はダメっ!」
レベッカの声には反応せずに、アイリーンは倒れているインバスの側に立ち、模造剣を構えた。
「……殺してやるっ」
アイリーンの確かな声を聞いて、より強く制止しようと声をあげるレベッカ。
「殺すのはダメよっ! 法に則り裁くのっ! あなたは騎士になるんでしょっ!? 騎士は怒りと憎しみだけで剣は振るわないわっ!」
「分かってるっ! 怒ってるから殺すんじゃない、危険だから殺すのよ!」
「もう気絶してるわ! 縛るのよ! 警備兵たちに預け、正式な刑を与える……騎士としてするべきことよ!」
アイリーンはレベッカの方をチラリと見る。レベッカが懇願していることが目を見ればすぐに分かる。
ゆっくりと気を失っているインバスの方を見下ろし、剣先を徐々に首元に向けて動かしていく。
「……分かってるわよ、でも、それでも、私はっ!」
そして勢いよく肘を引いたアイリーンは鋭く剣を突き刺した。
レベッカは目をギュッと閉じ、友を止めることが出来なかったと唇を噛んだ。
「ハァ、ハァ」
「アイリーン……」
ゆっくりと目を開けるレベッカ。
「だから私は……っ!」
アイリーンの突き刺した剣はインバスの首ではなく、その隣の地面を抉っていた。
「騎士としてのっ! 責務を……果たすっ!」
アイリーンはそう言ってレベッカを見つめ、レベッカも安堵して肩の力を抜き、二人は笑いあった。
「ーーなんだ、インバスを殺らねぇのか」
新たに聞こえた声に、アイリーンとレベッカは振り返る。もう悪い予感しか二人はしていなかった。
そしてその予感は当たってしまう。
「よぉ、昨日ぶりだな、ログウェルの娘」
「あんたは……っ!」
そこに立っていたのは眼帯を付け、後ろには大勢の野盗どもを引き連れた男、ギズベルだった。
「あの小僧は? 一緒じゃねぇのか?」
「アイリーン、知ってるの?」
ギズベルとアイリーンがお互いを知ってるそぶりを見せたため、レベッカはゆっくりと立ち上がり、アイリーンの元へと駆け寄る。
「……昨日の夜の事よ、この男と戦ったのよ……歯が立たなかったけど」
「はっ、自分の弱さを認めたか嬢ちゃん、俺はお前に興味はねぇ、昨日の小僧を出せ! そしたら命は助けてやるよ」
ニヤッと笑いながら語るギズベルの後ろで男たちはギラついた目を光らせていた。中には涎を垂らしている者や、笑っている者も。
「頭もひでぇ男だ……命は助けてやるなんて……ひひひ」
アイリーンは一歩だけ前に出る。疲れ切ってはいるが、弱ってるようには見えないように、凛とした姿でギズベルを正面に見据える。
「タロウはここにはいないし、どこにいるかは知らないわよ、もうこの街にもいないんじゃない?」
「そうか、それは……残念だ、あいつがまだいると思って早めて来たのによぉ」
「……?」
ギズベルは後ろの男たちの方へと振り返る。
「野郎どもっ! 好きに暴れてこい! 全てを壊し、俺たちの街を手に入れるんだ!」
「ウォォォォォォォォ!!」
男たちは雄叫びと共に、一斉に散らばっていく。
雨はだんだんと激しさを増していた。
「くそっ、雨が強くなってきた! それに街の中がどんどん騒がしくなって来てる!」
タロウは雨の降る街の中を走り抜けていた。ダルキヨの言っていた通り、ギズベル達が街を攻撃しているなら、止めなければならない。
それが勇者なのだから。




