おまけ3
えー……、PVめっちゃ動いた……? て動揺を込めたおまけです。
プシュッ
電車に揺られながらライトアップされた姫路城を遠目に眺め、マンションに帰宅して、なにはともあれネクタイを投げ捨て缶ビールのプルタブを開ける。あー、疲れたぁー。ゴクゴク喉を鳴らし、半分ほど一気飲みして缶を乱暴にテーブルに置いて、僕はベッドに仰向けに寝転んだ。
「うん、ただいま」
天井からも壁からも、葵が僕に微笑み労ってくれる。落ち着く場所は家の中だけだな。
ったく、テレワークが増えてイライラが治まらない。僕が出社して葵が在宅ってふざけんな。彼女が自宅でする仕事なんてなにがあるんだよ。彼女は僕に会いに出社してるって見れば分かるでしょ。生き甲斐を奪うなよクソ社長。
頭の中でムカつくアイツの髪をむしってバーコードにしてからQRコードに魔改造して鬱憤を晴らし、シャツのボタンを外しながら起きてデスクに座り、PCを起動する。早くシャワーを浴びたいけどその前に日課を片付けないと、裸足にシューズくらい気持ち悪い。
いつものルーティン。葵のアカウント名を入力。パスワード入力画面を前に、僕は思考する。
彼女のことはなんでも知ってる。スマホやPCの扱いは普通。つまり、セキュリティの万全なパスワードなんて設定するはずがない。だから絶対、絶対に、自分の名と生年月日を組み合わせた単純なパスワードに決まっている。機種変の時に楽だから、とかって理由でね。しょうがないなぁ。そういうとこも可愛いんだけど、無防備すぎて心配だから結婚したら僕が設定してあげなきゃクフフ。
とはいえ、一通りの組み合わせは試したのに間違っていた。本人のセキュリティレベルによるけど、三回以上連続で間違えると本人のアカウントに通知がいく可能性も少しはありえるから慎重に、一日二回試してかれこれ十日は経つ。まだ組み合わせのパターンはあるか? 名と生年月日を一字ずつ交互とか? そこまで凝らないでしょ。
やはり……、そういうことか? 僕は数字をひとつ変えた。
SNSによると彼女の誕生日は一月二十日。でも多分君、山羊座だよね? 本当は一月十九日じゃないの? 星座の話はしたことがないけど、君、運勢占いの話題を呟いた時の内容が水瓶座じゃないんだよね。
aoisagara119
「ビンゴっ、ふぅーーー。クックック、アーハッハ、生まれた年はつけないんだ? 誕生日は覚えてないとスネるくせに何歳かは詮索されたくないって、女ってそういうとこあるよねー。わっかりやっすー。イヒヒ、ついに入っちゃった、あ、ヤベ、でちゃう」
椅子から立ち上がり鼻息荒い息子を鎮めながら残ったビールを一気飲みしてクールダウン。落ち着け。ここからはゆっくり、一枚一枚、彼女の服を剥いでいこうじゃないか。
「まずは……、そうだな、動画閲覧履歴なんて覗いてみるか。君のお気に入りはなんですかぁ?」
高評価の連続は同じ配信者か。シューク・ベリーム? 誰だよこのふざけたVtuber。中身は陰キャのクソ野郎に決まってんじゃんなに引っかかってんだよクソがっ、死ねっ、死ねっ、今すぐ脳卒中でクリームぶちまけて死ねやぁぁぁ!
「えぇー……、お前……、えぇー……、マジか」
突然背後から聞こえた声にビクっと痙攣して、首の筋を痛めても気にならない速度で振り返ると、ベッドに人外が腰掛けて下ネタで盛り上がる配信を見下すアンチみたいな目で蔑んでいた。遥か未来のCGとしか思えないような、現実離れした外国というか異世界の美貌の青年。なんかちいさくてかわいいやつがプリントされたピンクエプロンを着ているのがかえって悪夢感。
なんだコレ、絶対人間じゃない。神か、死神か、邪神か、もっとヤバいなにかか?
そっとスマホで通報━━、壊れた?
「ああ、今時間止まってるから騒ぐな時間の無駄だって時間無ぇっつーの」
あ、分かった。こんなありえないシチュエーションがありえる可能性はひとつでしょ。
「僕、死ぬんですか?」
「あー、ある意味そうかも? 知らんけど」
なんでお前が知らないんだよ。お前がなにかすんだろーが。いや違う異世界のイケメン神がすることはひとつっ!
「ファンタジーっスか?」
「テメェは今踏んじゃダメな地雷を踏んだ。踏んでいい地雷はないけど。毎日チャリ漕いで最近ガチめに道路交通法キツくてもう政治家全員いやがらせの性転換してやろーか真剣に悩む今日このごろ、こんなにファンタジーに抵抗している俺に向かってよくその禁句が言えたないいご身分ですねぇてかなんだよこの部屋キッッッモ、同じ女の盗撮系自作ポスターだらけってドラマや映画でしか見たことない究極の変態ムーブかますヤツ現実にいるとかむしろテメェのほうがファンタジーじゃねぇかビールを飲むならスルメは用意しとけよスルメもないのにイカ臭いってそういうことだよね俺ここから一歩も動けない意味分かってんのかテメェの億を超えるニートオタマジャクシを一匹残らずウシガエルに変えてやろうか」
えぇー……、なにコイツ? マシンガントークでバズーカ連射してきた。
「この流れで異世界転生じゃないと?」
「どの流れで異世界転生できるつもりなんだよコッチは目の前に謎のATMが現れてウキウキでタップしたら無一文の全裸で東京に飛ばされたわ世の中ナメてんじゃねぇぞカエル小僧ぉ」
「えっと、じゃあ、どういうご要件で?」
「一応、一応な? 間接的にでも俺と関わることによって、昔始末した真祖と同類のナニかが絡んでくるかもだし、常軌を逸した悪意が向けられたら伝わるようヘビーリスナーたちには網張ってたんだよ。なんでストーカーがかかるんだよリリースの前にキャッチもしたくないからひとりで海にお還り土左衛門」
内容は理解できないけど、ここまで滑舌良く立て板に水で死ねって言われたの初めてで感動すら覚える。おっとそれより。
「失礼な。僕はストーカーじゃありません」
「ストーカーは全員そう言うんだよ」
「ストーカーじゃなくても全員そう言うでしょ」
「お前ストーカーだろ、て俺も普通の人も言われねぇわ」
「僕と葵は愛し合っています」
「ハッ、のわりには異世界転生の可能性にはしゃいでたなぁ? 今世に未練もなく人生二周目行ってきまーす、てか」
「ちっ、違うっ。アニメのようなチカラがあれば僕だって彼女から頼られて」
「寝言は寝て言え。愛ってのは、見返りを求めねぇんだよ。大切な人の幸せを、笑顔を最優先にできて初めて愛っつーんだよ。テメェの寝言は愛じゃなく自慰っつーの覚えとけ、魂に刻めるかは疑問だけど」
魂? 何を言ってる? あ、ああ、そんな、記憶が、全部、消えて。
「とりあえず自己愛が歪んだ他者への執着もろともゴッソリ忘れろ。来世に連れていくチカラはないけど、愚かな俺と同じく今世をスッキリやり直すチャンスくらいは与えてやる。あとはテメェ次第だ。グッドラック」
[残り二部隊]
[野良と神連携ヤバ]
[うわー、こっちきた]
「有利ポジとか少しは考えようよ見えた敵に反応するパブロフだからチャンピオンとれねーんだよざぁこざぁこ♡」
[需要ねぇー]
[うっわ近距離フォーカス?]
「ハハハ、フォーカスって遠距離からせーのとか声かけて撃つことじゃないぞ? それをフォーカスと言ってるようじゃ見込みなし。どの距離だろうと味方と同時に攻撃して、三対三ではなく、三対一を三回続けるのが戦術、立ち回りってやつだよ。味方がこの基本を分かってると楽だねー。ラッキー」
[ナイチャン]
[うまーい]
[gg]
「サッカー経験者なら理解できるだろうけど、味方と常に三角形を作るのがフォーメーション、戦術の基本じゃん? このゲームもまったく同じだよ。てかゲームから戦争までチーム戦の基本はトライアングルだね。分かってない人だらけだから俺とこの野良さんみたいなのが組むと余裕で勝つのさ。まぁ結局は神野良を引けるかの運ゲーか」
[おぉー、イキり散らかしとる]
[シュー君、聞いて?]
「あいよ、どしたー?」
[この前相談した職場トラブル、解決した]
「ほっほう、おめー。キモい同僚、左遷でもされた?」
[なんか入院して復帰は難しいとか]
「へぇ、そいつに人望あれば誰かが助けるだろうしなければドンマイだね、さっさと忘れちゃえ」
[やっぱシュー君の配信、運気アップぽい]
「おいおい古参が最近運気アップって俺関係ないって明言してんじゃんなんで褒められてんのに論破しなきゃいけないんだよコレなんの羞恥プレイだよー」
[www]
[ドンマイ]
[論破すんなよ]
「数ヶ月前、パスワードが間違ってますって突然スマホに拒否られてさ、乗っ取られたと思って俺半べそかきながら機種変して、結局大丈夫でさ、おニューのスマホで調べたら、電源ボタンと音量ボタンの二つで工場出荷状態に戻す裏技があるとか、それ先に教えろよーって崩れ落ちたわ。金運どこ? スマホ……、高っけぇ」
[そろそろ意地張らずにスパチャもらえよ]
[www]
[www]




