おまけ2
「うーん和歌ミステリー? まだなんかネタあったかなぁ、てちょっ、今狙うのはちゃいますやん」
いきなり空から一部隊飛んできてグダグダに撃ち合ってゲームオーバー。この音が聞こえない時がある不具合、修正される気配がまったくねーな。なんだかんだプレイ人口が過疎ってないからこれでも神ゲーでありがたいんだけど。
ちなみに最近PVPVEといって、オープンワールドを他プレイヤーとコンピュータの敵と争いながら物資を家に持ち帰るジャンルが流行ってて、俺も一回やってみたけどソっと辞めた。物資漁りは宝探しの感覚で楽しいけど、持ち物を奪う醜い人間しかいない、自分が奪う側になってももっと醜い。リスナーを不快にさせる要素しかないリスキーなゲームだった。これが流行るって、オンラインゲームにどんだけ終わった人間しかいないかが浮き彫りになっててコワ。
「あー、じゃアレいくか。万葉集の正体。現代人に伝わるイメージに置き換えると、日本のどこかにさ、日本中から日本人形を引き取って保管か供養をする寺ってあるじゃん? その寺のお堂にはたくさんの日本人形が並んでて、全部じゃないにしても、結構な数の、夜中に目を合わせたくない人形が混じってるじゃん? 約四千五百首を収めた万葉集がこれだよ。実は数百首の特級呪物が混じったヤベェアイテムなのです」
本来歴史の裏側に隠れてるはずなのに、ヤバすぎるから誰も処分できなくて表に出ちゃった。お絵描きアプリに検索しながら名を書き込んでいく。
有間皇子、大津皇子、長屋王、藤原広嗣、大伴家持。
「万葉集にいるこの人たち、冤罪で処刑された皇族と貴族。さらにえーと、古人大兄皇子、蘇我倉山田石川麻呂という、天智天皇に冤罪で処刑された人の娘、倭姫王、遠智娘、姪娘が天智天皇の皇妃になるんだけど、これ感性狂ってるよね? この皇妃たちによる、天智天皇が病に倒れて崩御寸前の様子を歌った歌も多数収録されてる。もう絶対ぶぶ漬けな言い回しでザマァって言ってるって読まなくても分かるでしょ。もしかして呪ってるかなって歌がそこら中に見え隠れするのが万葉集なんだよ。お堂に並んだどの日本人形が危険か見ても分からないように、こういう背景を知らないとなにも感じないだろうけど。一応紹介しとこうか」
天の原 ふりさけみれば 大王の 御寿は長く 天足らしたり (笑)
「天国を覗くとあの人の魂の尾が長く長く棚引いているわ、まだイケるっ、もっとガンバれ熱くなれよプププ。ダメだどう解釈してもカッコ笑いが見えるぅ」
人はよし 思ひやむとも 玉鬘 影に見えつつ忘らえるかも (笑)
「(こんなしょーもないクズの死なんて)世の人々はすぐに忘れるでしょうが、私には美しい髪飾りの如く忘れられないデスマスクいやっほぅ。ちなみに天智天皇のプライベートの名は葛城だから、玉は命、かづらとかけてるわけで、玉鬘はワレのたまぁとったりー、て副音声が聞こえる」
[いや紹介の時点で笑いをつけるな]
[悪意すご]
逆に言葉通りに皇妃たちが天智天皇を心配していたとか解釈する連中の知能が俺には信じられない。そいつらの想像力どうなってんの? 卵ドロボーに求愛ダンスするダチョウレベルじゃねーか。
「こんな風に、万葉集には表に出ることが不思議な歌人や歌がいくつも混じっている。そもそも万葉集とは誰が何の目的で世に出したかがどこにも記されていない謎のオーパーツなんだよ。ここを巡っていろんな説があるっぽいけど、とりあえず俺の得意なオカルト系の妄想小噺にもっていこうか」
うつせみの 世は常なしと 知るものを 秋風寒み 夜こそ更けぬれ
「この世は無常とカッコつけつつ風は寒いし夜は更けていくああ俺って俗物だぁ」
雪の上に 照れる月夜に 梅の花 折りて贈らむ 愛しき児もがも
「月明かりに照らされた雪景色に紅い梅、バエますなぁ。枝を折って彼女に渡したらキザすぎるか? こんな感じのナルシストな大伴家持が万葉集の中心人物なのは間違いない。四千五百首のうちの一割以上がこの人の歌。俺が思うにこの大伴一族が、呪いの人形を引き取る寺の役割を持っていた。表に出してはいけない危険な歌を保管していた。冤罪で処刑された貴族皇族の恨みがこもった歌なんて捨てればいいのに? あのさ、人形をゴミ箱に捨てられる? 捨てたはずなのに目を覚ますと枕元に立ってたらどうする? 呪いの人形ってそんなもんでしょ。歌も同じ。処分はできない。大伴一族は軍事担当ってことになってるけど、表向きの役職は地方の巡視って感じだったみたい。元々歌に限らず呪物の管理は物部一族の役割だったと思う。神道と軍事の担当だったから。でも蘇我馬子に滅ぼされて、大伴一族に代わった。この一族は地方に出張しては歌を詠んだりその土地の歌を集めた。呪いの人形だけ並べるのは怖いから、手作り人形もたくさん並べたれ、みたいなノリだったのかも? そんな日常はある時突然壊れた」
えーといつになるんだ? 年数とか全然頭に入らねぇ。
「七八五年、桓武天皇は、実弟の早良親王をリーダーとするクーデターを阻止、実行犯の大伴家持を国家反逆罪で処刑した。でも何がオモロイって、家持は二十日前に出張先の宮城県あたりで病死していた。なにをどう実行すんだよ。弟の早良親王も、ハナから権力は捨てて出家して、東大寺の責任者にまで出世していた。なのに犯罪者にされて、ブチぎれて、絶食という形で自殺、憤死した。もうどう見ても桓武天皇のひとりよがりな茶番。でも桓武天皇も間違えました御免なさいとか言えない立場だから、突っ走るしかなかった。大伴一族を斬首、家持の身分を庶民に落として遺骨は埋葬を許さず、早良親王の遺体は島流しにした。でもこれはアウトだった。呪いのビデオを全国放送くらいやっちゃダメなことだった。実は作り話の中で前例があった。とある仏僧の書いた本で、藤原四兄弟を呪い殺したことで有名な長屋王の骨を四国に島流ししたら、高知の民が祟りで死にまくった、だとさ。高知の民がなに悪いことしたんだよ仏僧が書いていい内容じゃねぇよ恥を知れコスプレハゲって話だけど、やっちゃダメなことって警告はあったのに、全く同じことをやっちゃった」
母と皇后の死。息子が病弱で血筋が絶えそう。蝦夷と戦争して負けた。
「こんな感じの不幸が次々押し寄せて、伊勢神宮だかに問い合わせたら、早良親王の祟りですって言われちった。これかなり恥ずかしいこと。お前が天皇のくせに祟られるような愚かな真似をした、って世界中に宣伝されたようなものだから。そんで遠回しに御免なさいを示すなんだかんだがあるんだけど割愛して、本題。大伴一族に任せていた特級呪物、大伴一族皆殺しにしちゃってどうしよう? 家持まで呪物の一員になって皇居に大量の人形が現れて笑ってるんだが? で、開き直って人形を全ての貴族に配った。それが万葉集です。柿本人麻呂の歌なんかが誰かを呪ってる匂わせがあってオススメ」
んー、時間はあるし、ガラっと変えてロマンチックな路線もいくか。
「日本人ってさ、こんな感じに宗教的な視点で歴史を考察するのが嫌いみたいなんだよね。俺は万葉集に大量の怨念を感じるんだけど、万葉集が日本文学に与えた影響がどうのって角度の話ばっかり聞く。例えば百人一首も同じ。現代は誰もが素晴らしい文芸作品、みたいな褒め方をする。明月記という日記で本人がハッキリ否定しているのにね。百人一首はベストアルバムではない、駄作もたくさん混じってる、分かって作った、ワシの意図が分からん有象無象は黙っとれ、てな言い方」
[意図分かるん?]
「妄想だよ。正解は永遠に誰にも分からない。宗教でも芸術でも主観の問題だもん。その上で俺の見解は、百人一首とは鎮魂歌、だね。核となるのはたった一首」
玉の緒よ 絶えねば絶えね 永らえば 忍ぶることの 弱りもぞする
「定家の十二歳、一回り年上の式子内親王の歌。寿命よ尽きるならさっさと尽きろ、これ以上本心を抑える自信がないの。定家が四十歳のころ、彼女は独身のまま亡くなった。最期の一年くらいは足繁く見舞いに通ってると日記にもある。この二人が報われない恋愛感情を持て余していたとか定説だけど、俺はそこまで浮ついてないと思う。てかいちいち恋バナに持っていく歴史は嫌いだね。信長と妹がデキてたとか、中大兄皇子と妹がデキてたとか、称徳天皇は道鏡に快楽堕ちさせられたとか、国文学者や歴史学者の語る恋バナは陰キャのファンタジーくらいイカ臭くてキモい」
[おぉー、バッサリいったな]
[今宵の虎徹は良く斬れる]
「俺のイメージはソウルメイトだね。魂の相棒。定家は歌に人生を捧げた天才で、それ以外の人付き合いとかは最悪だった。天皇に歌で喧嘩を売って蟄居させられたくらい破天荒だった」
さやかにも 見るべきやまは かすみつつ 我が身のほかも 春の夜の月
みちのべの 野原のやなぎ 下もえぬ あはれ嘆きの けぶりくらべに
「これのどこがアウトか未だに不明。定家と後鳥羽天皇、最初は趣味が合って次第に方向性の違いから仲違いってバンドみたいな関係の二人にしか分からない暗号があるらしい。主催した歌会でこの歌を読まれた天皇はブチギレたそうな」
ふぁっピーくらいのダメな秘密、解けたらオモロイだろうな。二つの歌の各句を入れ替えるとバカにした感じが出る気はするけど弱い。
「さらにヤバい話。承久の乱といって、後鳥羽天皇は、この時は上皇か、はクーデターを起こして失敗して島流しされたあと、定家に手紙を送った。そろそろ仲直りして歌の文通でもしない? これを定家は既読スルー。アイツ人のココロないんかっ、て上皇は発狂したらしい」
[ま?]
「ま。定家ってそんくらい我が道をヘッドスライディングしてたんだよ。生まれつき病弱で喘息持ちで肩肘張って生きて、やっと出会えたソウルメイトも同じく病弱で身体を壊して先に逝きそう。そんな彼女は亡くなる前に百人歌を定家に贈った。そしてもう一首」
生きてよも 明日まで人は つらからし この夕暮れを 問わば問えかし
「明日まで生きてるとは思えないから夕暮れには返事してよね。彼女が亡くなって三十年以上経って、出家して七十を超えてから作ったのが百人一首、そこに入れた晩年の定家の返事の一首」
来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ
「藻塩というのは古代の塩。海藻に海水をかけて乾燥しては海水をかけて、塩分マシマシになったら燃やして灰にして、水で煮て作るらしい。アルカリでエグみがとれるとかかな? 知らんけど。夕暮れに赤く染まる穏やかな海を一望する漁村を見下ろし思う。来るはずのない待ち人を待ち続けてワシもそろそろ火葬のお年頃、散々泣いたこの身体が灰になったらしょっぱいのかのぉ。エグみ、とれたかのぉ。他の歌は、彼女との思い出の歌、それでいいじゃん」
しれっと後鳥羽上皇の歌も入ってるとこがツンデレポイント高い。




