#11 戦闘訓練
「………これは………」
彼らが求めていたものの、カタチ。
人非ざるものを生み出し、人の持つ力を越えるもの。
それが今生まれ出たことを彼らは知った。
それと同時に畏怖を憶えたのだ。
人の身で届くことのないものと思われていたものは、
こうして今、我々の手の内にやってきたのだ。
「これは………まるであの連中と同じだ。同じものを扱っている」
「間違いなく魔術だ!」
“戦闘人形計画”の第二段階へ移行するための試験。戦闘訓練において彼女たちがどれほどの力を示すことが出来るのか。それ次第ではホムンクルスの戦闘実用化が一気に進むことになる。今日はその試験日で、用意された標的に対し彼女らはそれぞれの遠距離属性攻撃により、その標的を破壊してみせた。トーレスは常に彼女たちの魔力量をモニタリングしている。起きて立っているだけで魔力を消費するようになっている体の仕組みが、魔術を行使することによってどれほどの消費量となるのか。自分自身の存在を危険に晒すような魔力消費をしていないかどうか。それもまた実用化に向けた重要な情報であり、出来るだけ精密にモニタリングを行っていたのだ。
「スゴイ………まさか本当に作り上げていただなんて」
「これは使える」
「あれはどういう原理なのか?」
二階のフロアからその様子を見ていた者たちは、一同唖然としながらその様子を見ていた。特殊戦術部隊の中には実際に帝国軍の魔術戦部隊と遭遇した者もいる。それと同じものを目の前で、しかも人間ではない人の手によって生み出された人形が同じ攻撃を繰り出したのだ。それが分かるや、兵士たちはその能力の高さに驚きつつも喜びを表した。事情を深く知らない者からすれば、当然といえば当然のことだろう。自分たちに代わるものが、人でないもの、操り人形であるのだから。
「攻撃停止。………トーレス、どうだい」
「っ………うん、三体はいずれも問題ない。大丈夫だ」
一瞬トーレスが驚いた表情を見せたが、すぐに元の表情に戻しアレックスに報告をした。魔術の発動により通常活動よりも多くの消費が見られたが、それによる影響は彼女たちには表れていなかった。これが連続使用をした場合にどの程度削られるのかは、今後の訓練を重ねて検証が行われる。
「これは素晴らしいものを見せてもらったよ。確かに有用ではありそうだねえ。しかしアレックス少尉、戦いは魔術のみですべてが終わらせられるものでもあるまい。実戦はどうなんだ、実戦は。」
「それはつまり、体術ということでしょうか」
「ああもちろんだとも。優秀な兵士は魔術が使えるだけではない。かつての君のように、剣も弓も槍も上手く扱えることだ。まあそのすべてに精通している必要はないが、いずれか一つは我々を上回ってもらわないと」
「――――――――いいでしょう。ご覧いただきます」
兵士として優秀な素質を持つこと。魔術師と対抗し得る力を持つこと。その条件は既に満たされていた。彼女たちが扱えるのは魔術に限らず、戦闘行動においても人並み以上のものを有していた。それを示せというのであればそうするまでのこと。参謀本部の高級士官たちが、ホムンクルスと相手をする兵士を名指しで指名した。相手役に選出された兵士と彼女たちには木剣が与えられ、簡単なルールで競わせる。相手の手から木剣を失わせるか、頭か胴に直撃を一度与える。兵士たちが基礎訓練で行っている試合形式で、彼女たちを相手にしても同じように行われた。
「お前、言葉は聞けるのか?」
「―――――――――――」
「だんまりか、そうかい。じゃあいくぜっ!!」
一人目、フランカーを相手に選ばれた兵士は一度彼女に話しかけるが、彼女は全く返答をしなかった。彼女らが言葉を交わし命令を受ける相手は、研究者たち三人のみ。今のところはそのようにしか従属させていないので、他の兵士や上官の命令にも従うことはないし、言葉を交わすこともない。お互いの間合いは10メートルほどから始まる。アレックスより勝利するための条件を聞き、その命令を遂行する。ただそれだけの指示で始まった戦闘行動は、僅かに10秒にも満たなかった。細々しい身体に見え、とても剣など振るえるものかとすら思わせるその姿。だが、実際に戦闘が開始になるとその太刀筋はあまりに鋭く、かつ強力なものであった。
「――――――――――――!?」
戦場である程度の経験を積んでいる兵士ですら、呆気にとられる結果だった。一人目のフランカーは相手兵士と数回剣戟を交えると、その手に握られた木剣を弾かれて試合終了となった。ほんの数秒程度しか立ち合いは行われなかったが、与えた印象は強烈だった。その身体からは想像もつかないような剣の振りは、特に素早さにおいて相手を凌駕するものであったのだ。
二人目として対戦したエミリアは、立ち合いの開始直後は相手兵士の猛烈な攻撃をひたすら防御した。右へ左へ、斜め上から降ろされるあらゆる剣戟をすべて反応し、相手の連続攻撃で疲弊した隙を見逃さず、一閃。これもあっという間に終了してしまった。特殊戦術部隊の兵士たちに力量が無いわけではない。殆どの兵士が幾度かの戦闘を経験していて、新兵や経験の浅い兵士が配属されるような部隊ではない。少数の部隊員で本隊とは異なる行動、戦果を要求される部隊。二人の見せたその力量は部隊の兵士たちにも期待が出来るものであったことは間違いない。ただ、その力を純粋に信じることが出来ないのも事実だ。何しろホムンクルスは人間とは動力源が異なる。もし彼女たちが魔力量の回復が出来なかったとすれば、ただの使い物にならない道具になる。そういう意味では生きた人間よりも信頼が置けないというのは無理もない話だ。
「中々の力を有しているようだねえ。正直驚かされたよ」
統合作戦本部から視察に来た上官たちも、そのホムンクルスの出来にそれなりの評価と満足を得たようだった。二階のフロアから響き渡るその声にアレックスは静かに頭を下げた。魔術行使、戦闘行動、いずれも稼働試験から訓練までの工程を経て最初の評価に至った。
「本当の実力が問われるのは魔術戦部隊を相手にしたときだと思うが、その点どのように対するつもりかね?アレックス少尉」
「実戦の機会があれば、まずはそこへ投入を。それを受けて改良型を作れればと思います」
「そうだねえ。人形は所詮道具だし、使いやすいものに置き換えていくのは大事なことだ。ではそのようにお願いしよう。ここにいる諸君らも聞くがいい。特務部隊の戦闘配置については諸君らの指揮官に委任するが、投入する戦線はこちらで決める。ホムンクルスが実用化出来る以上、魔術戦部隊が占領する地域へ派遣されるのは間違いないがね。具体的な時期はこちらで指示するとしよう」
参謀本部の上官が声高らかに自慢げに、このフロアにいる全員に向けてそのように話をした。特殊戦術部隊は独自の行動が許されるが、それは戦闘区域の範囲内でのこと。どの戦闘区域に投入されるかは当然参謀本部が定めるのだ、という口ぶりで告知した。そのことに不満な表情を浮かべる兵士も多くいた。だがそんな雰囲気を一気に、次の一言で凍えるような空気に変えてしまった男がいる。
「待て。アレックス少尉、君自身がもう一人のホムンクルスと対するのだ」
「――――――――――――?」
「我々はもう一人の戦闘行動を見ていない。君自身で相手をしてもらいたい」
アレックスも思わず表情を崩した。一体何を言っているのか彼には理解できなかった。その声の主は統合作戦本部の司令官補佐を務めるライネス大佐。あらゆる戦略を立案し実際に舞台に行動させている人物で、多くの作戦指揮に携わるエリートだ。この場にいる者の中で最も階級が高い人物でもある。フロア中にその低い声が響き渡り、各々を驚愕させるとともに硬直させた。質問をされたアレックスでさえ困惑した表情を見せている。つまり、残る一人、ティーゼとアレックス、この二人で立ち合いをしろという内容だった。
あの男の話す内容からは何か恐れも感じさせる。ただそんな気がした。
………。




