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戦闘人形と生真面目な錬金術師  作者: うぃざーど。
第一章 僕の役割
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#10 新しい兵器の形




 研究者として、より良いホムンクルスを製造するためには研究を続けなければならない。そのためには彼女たちの行動を観察して、製作過程の改善を進めていく必要があるだろう。その一方で、単に一個人として、彼女たちがどのように毎日を過ごすことが出来るのか、気になりはした。軍に求められているのは絶対服従の兵士。言われるがまま戦う装置。

 ………その役割に彼女たちが見合うものかどうか、見定める時が来た。



 「まるで遊戯会の子供を見る親の顔だね、アンタ」

 「へえ。エマにそういった教養があるとは知らなかった」

 「失礼なヤツだね。親のもとで育った記憶があるならそういう姿を見ることもあるだろ」

 「そういうことか。となると僕にはそういう記憶が無いから、普通じゃないのだろうね。」

 「―――――――――――ああ、悪いね。そういえばそうだった」



 戦闘訓練当日。

非公開で行われるホムンクルスを用いた模擬訓練は、午前11時から行われることになっている。そして今はその直前の10時。研究室内で既に活動を開始させているホムンクルス三体をチェックしながら、アレックスは腕を組みその様子を眺めていた。今日のバイタルチェックはトーレスが総括して行っている。エマは先ほどまで魔力の属性付与が正常に作動しているかを、魔術を通わすことで確認していた。



 「エミリアと話は出来たのかい」

 「それなりにはね。ティーゼよりは顔も人となりも明るいかもしれないねえ」

 「………それは君の直感か?」

 「そんなところさ。そうなればそうなったで面白いかもしれない」



 もしホムンクルスが感情を持つことがあれば、という思想。アレックスだけでなく、エマも、トーレスも、三人が共通して幾度も考えたことだ。研究者としての正直なところなのか。人が作り出すものに人と同等の意思を、感情を与えることは出来るのか、と。魔術という手段はあらゆる不可能を可能とする。これから研究が進めばそのようなものすらも人は授けることが出来るのかもしれない。そしてこれらの研究で得られたものは、人に転換させることも可能となるのではないだろうか、と。それらは研究者の探求心の表れでもあったが、同時に危険な思想の一つでもあっただろう。

 アレックスの指示で、三体のホムンクルスが集合する。三体とも彼らに用意された戦闘服を着用している。やや肌白さは目立つが、言われなければホムンクルスなどとは気づかないほどに、その姿は人間らしい。



 「さて、みんな今日はよろしく」



 これから行われる訓練に先立って、アレックスはそのように声をかける。なんとも気合の入らない、いつもとそれほど変わらないような姿。彼は彼女たちを鼓舞する訳でもなく、かといってどうでもいいなどと思うこともなく、



 「僕たちの成果を見せる時だが、僕は君たち三人は間違いなくやってくれると信じているよ。だから気楽にいこう。指示は僕が出す。………さあ、それではいこうか。」



 僕たちが作り上げたもの、築いてきたものが間違っていないのなら、それをただ示すだけでいい。彼らはその心持ちで今日を迎えた。不安が無いとは言えない。失敗するかもしれないという気持ちもある。素直に思うその心に嘘はつけない。しかし同時に、ここまで自分たちがやってきたことが正解なのだとしたら、彼女たちはきちんとその要求通りの行動を示すことが出来るだろうと、自信も持っていた。上層部のお目に適うものを用意する。それだけではない。自分たちが作り上げたものが意味のあるものであることを、示すためにも。



 ――――――――王国軍特殊戦術部隊室内演習施設。



 硬いコンクリートの壁に囲まれた広い空間。十分な照明量で照らされた室内。1階フロア全体が訓練場となっており、その様子を吹き抜けの2階フロアから見下ろすことが出来るようになっている。その2階部分には特殊戦術部隊の隊員や“上層部”の立場となる者たちが見物している。この空間の中でホムンクルスの出来栄えを評価するというのだ。予定の時間となり、アレックスを先頭に、エマ、トーレス、そしてホムンクルスの3体が1階フロアの中に入っていく。彼らが入る前からざわざわと話し声が聞こえてきたが、実際にその姿が見えるとより会話は大きくなったように感じられた。研究者三人に若干の緊張感はある。彼らとてこのような立場で、まるで見せ物をするかのような経験は殆ど無かったのだから。



 「やあ、久しぶりだねぇアレックス少尉。ここ数ヶ月は顔を見る機会も無かったから、本当に久しいよ。バルテリッヒ戦域の英雄が、今は科学者とはねぇ」

 「………アレックス少尉だ。本物だ。」

 「ちゃんと生きてるじゃないか。まさかこんなことを本当にしていたとはな。」

 「前線から離れすぎて腕も鈍っちまってるんじゃあないか?」



 「………うまくやれよ。アレックス」



 ざわめき、話し声は時として嘲笑うかのような声色も生み出している。皆、その姿を見るまで半信半疑であったのだ。特殊戦術部隊はホムンクルスを今後運用するために組織された部隊の一つではあるが、その役割がすべてではない。彼らの部隊は正規兵部隊とは異なり作戦行動も別のものとなる、独立性の強い部隊だ。戦線に加わること自体は同じとしても、正規兵部隊と同一の行動を取るのではなく、戦略面で味方を優位に立たせるための行動を起こすことが期待された部隊だ。その任務において比類なき力を発揮し、かつ替えがきく存在が求められた背景もある。その場にはアレックスの戦友であるフェンサーの姿もあり、彼は一人腕を組みながらその様子をじっと眺めていた。

 王国軍の参謀本部からやってきた、高階級の者たちが話す。



 「さて、それでは早速だが始めてもらおうか。私たちが取り仕切るのも可笑しなものだがね。それはどんな作品なのかい―――――――――――?」


 「………要求通りとは言いません。」


 「ほう。まだサンプルという考えでよいのかな。しかしそのサンプルも有用性が実証出来ないのであれば、君たちに与えた時間はただの無駄だった、ということになるが?」


 「………いいえ、その逆です。私たちはついに手にしてしまった。願わくば、私たち自身がこの現実に溺れることのないよう、期待するばかりです」





 ―――――――――――術式、起動。対象現出、標的化。

 ホムンクルスは各々に標的を遠隔攻撃、破壊せよ。





 リベルタ王国がエイジア帝国との戦いにおいて急速に劣勢に追い込まれたのは、帝国軍が魔術戦部隊を組織しそれを最前線に投入したからと言われている。魔術とは魔力を動力源として放たれる法外な奇蹟、人の手には及びもしないことを実現させる手段である。ゆえに、魔力が枯渇しない限り、術者がその力に溺れない限り発動は可能であり、通常の軍隊が武器や物資を補給する過程を、魔力の充填だけで済ませてしまうという強力な利点があった。王国軍も同じくこの力を欲した。ところが北方の王国には部隊が組織出来るほどの魔術師がいなかった。ごく一部の人間だけがその力を持つ。その力を持たないものたちにとって、ある意味魔術を有する者たちは希望に見えた。その希望が膨らめば、あるいは自分たちも帝国に勝る状況を作り出すことが出来るのではないか。そうして、兵士の中でも際立って優秀で、かつ魔術を扱える者が集められた。そのうちの三人が、現在ホムンクルスの開発計画に携わり、この戦闘人形計画を技術的に進めた人物である。

 その者たちが生み出したホムンクルスは、謂わば新しい形の兵器だ。人の命令に従う純然な兵士。人間と同じ容姿でありながら、人間には真似できないようなことをやってのける。どれほど非人道的なものであったとしても、劣勢と窮地に追い込まれている彼らには、喉から手が出るほど欲しい実証結果であっただろう。そういう意味では、研究者たちよりも上のフロアから見ている人たちのほうが、この訓練は興奮していたに違いない。

 ティーゼは水属性を主体とした魔術、特に氷を用いた矢の弾丸の如く、標的を撃ち抜いた。

 エミリアは火属性を主体とした魔術、人の大きさよりも大きな火球を射出して標的を破壊した。

 フランカーは風属性を用いて、フロアの空気を収縮して真空派を放ち、標的を砕いた。



 「――――――――これが、私たちの研究結果、その過程の一つです。」




 ……………。




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