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戦闘人形と生真面目な錬金術師  作者: うぃざーど。
第一章 僕の役割
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#9 バイタルチェック




 ホムンクルスは、自らの意思を持たない。

 ホムンクルスは、自分で考えて行動しない。

 ゆえに彼らは皆道具であり、意のままに操ることの出来る存在。

 むしろ、そうあるべきとされ生まれてきたものだ。

 リベルタ王国が求めていたものは、そういった都合の良い装置。

 ついに彼らはそれを手にするに至った。



 だが。

 この考え方が思わぬ形で裏切られることになるのだ。




 初期起動日から二日、実戦訓練まであと一日。

最初に五体のホムンクルスを起動させ状態の確認を行った。従属性のテストを行い、親である研究者三人の指示に偽りなく従うことが出来るかどうかも確認をした。日常的な生活を送ることが出来るかどうかも確認をし、一日目は終了した。残念ながら男性型の二体は活動停止してしまい、再び冷凍保存状態にさせられているが、他の女性型三体は安定を続けている。




 「おはよう、ティーゼ。調子はどうかな」

 「おはようございます、マスター。はい、特段変わりありません。」

 「そうか。それなら良かった」




 コツコツと足音を鳴らしながら、廊下から扉を開けて中へ入ったアレックス。ティーゼと呼ばれるホムンクルス用に充てられた部屋。無機質の、一面白い壁に囲まれただけの部屋だが、彼女の状態を確認するのに必要な機械類と、タンクベッドが置かれている。白い机と向かい合う二つの椅子。机の上にはマグカップと小さな観葉植物が置かれている。アレックスは昨晩のうちに彼女にこの部屋を使ってもらうようにして、今朝まで睡眠モードを使って身体を休ませていた。このタンクベッドは魔力の貯蔵庫の役割も持っているので、睡眠モードにしている間に消費した魔力の回復を行うことが出来る。

 魔力によって身体の機能を動かしているホムンクルスにとって、魔力は絶対的な存在だ。いわば燃料であり、それが枯渇することは許されない。ホムンクルスの身体には魔力の貯蔵庫である鉱物が埋め込まれており、常に魔力を起動させながら行動している。つまり彼女たちは起きている間は絶え間なく魔力消費をしている、ということだ。消費量がどのくらいで、どのような行動をすればその消費が激しくなっていくのか、研究することは山ほどあった。



 「コーヒーでも飲もう。僕が淹れてもいいかな」

 「はい。お好きなように」

 「ではそうさせてもらうよ」



 部屋に入るなり、彼女の様子を確認しながらコーヒーを二人分用意するアレックス。ホムンクルスであるティーゼには全く表情が無く、言葉を交わすときの抑揚も殆ど無い。波線が無く一定の状態で会話を続けているような状態だ。彼らは彼女たちに人間らしいものを求めていた訳ではないので、こういった性質の人形になることは大体想像がついていた。実際にその姿を見て話すのは違和感もあるのだが、“人間らしくあっては兵士は務まらない”と考えるのは上層部だ。そうした考えもあることから、あくまで道具として扱うためのものとしての研究が進められてきた。



 「どうかな。美味いかな」

 「私には分かりません。」

 「そう?また飲みたいって思えるのなら、美味しいのかもしれない」

 「美味しいとは?―――――――そういうものなのですか?」




 彼女たちに与えられている教養は限られている。戦闘に使用されることを前提に造られた人形たちは、最低限の人間的な生活手段の知識を与えられてはいるものの、それを必要としない生活を送ることも十分に可能だ。タンクベッド睡眠で眠らせてしまい、必要な時だけ起こして戦ってもらう、というのがまさにその使い方だ。しかしアレックスはただそれだけを要求するのでは、今後のホムンクルス改良型の製作に繋がらないとして、研究とバイタルチェックを行いながら彼女たちにも日常生活を送ってもらおうと考えていた。



 「ああ。僕たち人間には“好き嫌い”というものがある。たとえばこのコーヒーという飲み物。好きなものだとすれば、また飲みたいと思えるし、そんな毎日が繰り返されてもいい。ところが嫌いなものだとすれば、あまり自分から手に取りたいとは思わない。分かるかな?」


 「―――――――――――はい。」


 「けれど、その『好き』という点……そうだな、表現としようか。その表現は人によって大きく変わるんだ。同じ好きという表現方法であっても、ある人はそれが毎日無いと欠かせないと思う人がいたり、好きなものではあるけれど、別に毎日飲むこともなくたまに飲める程度でもいいと思う人もいる。人間というものは一人ひとりが持つ考えがあって、同じ定義の表現であってもその質量は異なる。それが『価値観』というものなんだ」


 「―――――――――――――。」


 「っと、これは少し難しい話だったかな」



 だからティーゼ、君にとってこれがまた飲みたいと思えるものなら、いいんだけどね?

と、アレックスは頭をかきながら、また片手で持つマグカップでコーヒーを口にする。ホムンクルスであるティーゼの表情は相変わらず何一つ変わらないが、じっと彼を見つめていた。そのうえで彼女も再びコーヒーを口にする。彼女には味は分かるのだろうか。根本的な身体の機能は人間のそれとはそれほど変わりないように作っている。言ってしまえばホムンクルスの原型もまた人間なのだから。



 「しかし。これは私の生活に必要なものでしょうか」

 「必要か、と言われれば必要ない。まあ上の人ならそう言うだろう。でも僕は、単純にそれで終わらせたくはないんだ」

 「?」

 「今、君に僕から命令すれば君はそれに従うだろう。でもね、それじゃつまらないんだ。君はどう望まれたにせよ、僕たちの手で生み出された一つの命だ。確かに君たちには辛いことを強いることになるけれど、僕個人としては………君たちがどのような時間を過ごすか、気になるんだ。」



 ――――――――――研究者としても、一個人としても。



 随分と難しい話を真面目にしてしまった、と彼は思いながらも、口から出たその言葉の数々は自然と、模らない自らから発せられたものだと自覚していた。ある一面では研究者としての救われざる一面であるとも思える。決して許されるものではない非人道的な行為によって生み出された命が、どのような姿になり、どのような時間を過ごしていくのか。彼は研究者であり、錬金術によって彼女たちを生み出した親でもある。親としては自分の生み出した存在がどのように過ごしていくのか、気にならない訳がない。

 そしてもう一つは、単純に、個人的な話。24番目の試験体が素晴らしい能力を持っているからでも、ホムンクルスとしての生命だから、でもない。一人の人間を見るような心持ちで、彼女にそう話したのだ。



 「一応確認はしよう。明日には戦闘訓練が行われる。その結果次第で、ティーゼ、君はすぐに前線に送られ戦うことになるだろう。僕たちが君に要求しようとしていることは、生身に生きる我々兵士の代わりに敵を討て、というものだ。多くの犠牲を生まないために、人ではないものを乱用して人のために戦わせる道具の役割を押し付けるものだ。それでも、君は戦えるか―――――――――?」


 「はい。意味は分かりませんが、戦うために生まれたというのは、よく知っています」


 「あはは。結構ハッキリ言うんだな」



 ――――――――――ひとりの人間を見るような、()()()()()ような心持ちで。

彼女にそのようなことを聞いたところで何の意味もない。彼女が言うように彼女はそれらの言葉を理解できていない。会話になっていない。プログラムのように与えられた役割をこなすための、兵器となるのだ。その兵器を前に聞くべきことではない。彼女には感情が無い。命じられれば機械の如くそれをこなすだけの道具だ。

 それでも、そう聞いてしまったのは、彼の人となりからか、それとも。




 ……………。





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