第6話
城の探索を始めて、幾日かが過ぎた。
使用人たちは相変わらず私に冷たかったが、それを利用しない手はなかった。誰も私に関心を払わないということは、誰も私の行動を見張らないということでもある。私は人目を避け、城の奥へ、ひとつ、またひとつと、足を踏み入れていった。
そして、その日。私の足は、あの場所へと向いていた。
西棟。あの侍女ハンナが、近づくなと告げた、固く閉ざされた区画へ。
封じられた扉のひとつは、古い錠が緩んでいた。
私はそっとそれを押し開けた。軋む音とともに、よどんだ空気が、頬を撫でた。長く人の入った気配のない、埃と黴の匂い。差し込む灰色の光の中を、無数の塵が、ゆっくりと舞っていた。
廊下の奥へ進むと、壁にずらりと並ぶものが、目に飛び込んできた。
肖像画だった。
女たちの肖像が、薄暗がりの中に、整然と掛けられていた。
いずれも若く、美しい女性たちだった。豪奢なドレスをまとい、画家の筆によって、永遠にその姿を留められている。けれど、その表情は、どれも一様に硬く、どこか寂しげで——まるで、自らの行く末を、すでに知っていたかのようだった。
私は、一枚、また一枚と、その前を歩いた。
三人。少なくとも、ここには三人の女性が描かれている。三人の、先妻たち。クラウスのもとへ嫁ぎ、そして相次いで命を落とした、私の先達たち。
いちばん奥の、まだ絵具の新しい一枚の前で、私は足を止めた。
穏やかで聡明そうな、栗色の髪の女性。その瞳が、まっすぐにこちらを見つめている気がして、私は思わず、息を詰めた。
「……何をなさっているのですか」
背後から、鋭い声が飛んだ。
振り返ると、ハンナが立っていた。その顔には、咎めるような色と、それ以上に、隠しきれない怯えが浮かんでいた。
「ここへは、近づかないようにと申し上げたはずです」
「ごめんなさい。でも——」
私は、いちばん奥の肖像を見上げた。
「この方たちは、皆、亡くなった奥方様なのね」
ハンナは、唇を噛んだ。答えるべきか、迷っているようだった。けれど、私の静かな眼差しに根負けしたように、やがて、ぽつりと口を開いた。
「……三人とも。ご病気で、次々と」
「病気で?」
「ええ。ある日、食が細くなられて……少しずつお痩せになって。お医者様も手を尽くされたのですが……」
ハンナの声は、震えていた。
「最後は、皆さま、同じように……心の臓が、止まって」
食が細くなり、痩せ衰え、やがて心の臓が止まる。それは、病と呼ぶには——あまりに、揃いすぎていた。
私の脳裏に、昨夜のあの毒の匂いが甦った。急性の毒ではない。けれど、もし、ゆっくりと体を蝕む類の毒があったとしたら。少しずつ、病に見せかけて、人を死へと導く毒があったとしたら。
「皆さま、お優しい方々でした」
ハンナが、肖像を見上げて、囁くように言った。
「なのに……どうして、こんなことに」
私は、栗色の髪の女性の肖像を、もう一度見つめた。
あなたも、知らなかったのですか。何が、自分の身に起きていたのかを。気づかぬまま、ただ衰えて、逝ってしまったのですか。
三人の死。連なる死。それは、もはや偶然などではないと、私の中で輪郭を結び始めていた。
誰かが、この城で、花嫁たちを殺している。何年も、何年も、病に見せかけて、ひそかに。
「ハンナ」
私は、静かに彼女を呼んだ。
「教えてくれてありがとう。……この方たちのことは、私が必ず、突き止めるわ」
ハンナが、驚いたように目を見開いた。
肖像の女たちが、薄暗がりの中で、じっと私を見守っているような気がした。




