第54話
オーレリアの裁きの日が決まった。
彼女は連続殺人の罪で、重い裁きを受けることになった。その報せを聞いても、私の心は晴れなかった。罪は罪。償わねばならない。けれど彼女の人生を思うと、ただ虚しさだけが胸に残った。
処遇が決まる前、私は彼女に会いに行くことにした。
「会って、どうする」
クラウスは訝しげに尋ねた。
「あの女は、お前を殺そうとしたのだぞ」
「分かっています」
私は静かに答えた。
「でも確かめたいのです。彼女が本当に、何を求めていたのか。そして……これで本当に、すべてが終わるのかを」
牢の中のオーレリアは、すっかり変わり果てていた。
あの気高い慈善家の面影も、狂気に燃えた黒幕の姿も、そこにはなかった。ただ憔悴しきったひとりの女が、力なく座り込んでいた。長く張りつめていた執念の糸が切れ、抜け殻のようになった姿。私が訪れると、彼女は緩慢に顔を上げた。
「……あなた、なぜここへ」
その声には、もう憎しみの棘はなかった。
「あなたに伝えたいことがあって」
私は鉄格子の前に立った。
「私はあなたを、許しません。あなたが奪った命は、決して戻らない。その罪をあなたは、生涯背負うべきです」
オーレリアは力なく頷いた。
「……分かっているわ」
「でも」
私は続けた。
「私はあなたを、憐れにも思います。あなたはただ、愛されたかっただけ。その想いがこんなにも、ねじ曲がってしまった。それは悲しいことです」
オーレリアの瞳が揺れた。長く誰にも理解されなかったその孤独を、私がわずかに汲み取ったからだろうか。
「なぜ……あなたは、私にそんなことを」
「私もかつて、いらない者だったから」
私は静かに言った。
「毒に愛された、不吉な娘。家族にも疎まれ、誰にも必要とされなかった。死んでも惜しくない娘だと言われ、この城へ送られました。だから少しだけ分かるのです。誰かに必要とされたいという、その渇きが」
オーレリアの目から、涙がこぼれた。私の言葉は、彼女の心の、最も柔らかい部分に、触れたのかもしれなかった。
「でも私は、選びました。人を殺すのではなく、人を癒す道を。同じ渇きを抱えても、進む道は、選べる。あなたとは、そこが違ったのです」
オーレリアは長いあいだ、泣いていた。
声もなく、ただ涙を流し続けた。それは悔恨の涙だったのかもしれない。あるいはようやく、自分の罪と向き合えた証だったのかもしれない。
「……ごめんなさい」
やがて彼女は、掠れた声で呟いた。
「殺してしまった、あの人たちに。そして……あなたに」
その謝罪が本物かどうか、私には分からなかった。
けれど少なくとも彼女は、初めて自分のしたことの重さに、向き合おうとしていた。それで十分だと思った。死んでいった者たちは戻らない。けれど彼女が残りの人生を悔恨と共に生きるなら、それがせめてもの償いになるだろう。
私は踵を返した。
「さようなら、オーレリア」
その背に、もう声はかからなかった。彼女は、ただ静かに、うなだれていた。
牢を出ると、霧が流れていた。
長い因縁が、ようやく決着した。憎しみも復讐も、すべてはここで終わる。あとに残るのは深い哀しみと、前を向いて生きる者たちの、静かな決意だけ。
私は深く息を吸った。冷たい霧の空気が、肺を満たす。すべてが終わった。そして新しい日々が、始まろうとしていた。胸の奥にわだかまっていた最後の重石が、ようやく、下りた気がした。




