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私は死んでも惜しくない娘のようです  作者: 小林翼


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第46話

 エルマーは、衛兵の手で捕らえられた。


 長年この城で人を殺し続けてきた男が、ようやく裁きの場へ引き立てられていく。その背中を、クラウスは複雑な表情で見送っていた。信じてきた者の裏切り。妻の死を調べさせ、その口から幾度も「病死」と聞かされてきた相手。その痛みは、簡単に癒えるものではないだろう。


 けれど、私には、まだ気がかりなことがあった。エルマーは、すべてを語ったわけではない。



 私は、捕らえられる前のエルマーに、最後の問いを投げていた。


「オーレリアは、今、どこにいるのです」


 彼は、薄く笑っただけだった。


「さあな。あの方の居所など、私は知らぬ。ただ……」


 彼は、声をひそめた。


「あの方の執念を、甘く見ぬことだ。あなたが、あの男の唯一だと知れた今……あの方は、何をしてでも、あなたを消そうとするだろう」



 その言葉が、私の胸に重く残った。


 手駒であったエルマーは、墜ちた。けれど、本体であるオーレリアは、いまだ自由の身。慈善の仮面をかぶったローゼ夫人として、どこかで息をひそめている。そして、私が真実にたどり着いたことを、もう知っているはずだった。


 追い詰められた獣ほど、恐ろしいものはない。



「クラウス様」


 私は、彼のもとへ歩み寄った。


「エルマーは捕らえました。けれど、オーレリアは、まだです。彼女が次にどう動くか……それを、見極めなければなりません」


 クラウスは、ゆっくりと頷いた。その瞳には、もう迷いはなかった。かつて愛した人であろうと、これ以上、誰かを殺させはしない。そんな、固い決意が宿っていた。


「ああ。彼女と、決着をつける。それが、私の責任だ」



 その夜、私たちは、今後の策を練った。


 オーレリアは、ローゼ夫人として、近隣に大きな影響力を持っている。慈善の名声に守られた彼女を、ただ糾弾するだけでは、また、かわされてしまう。エルマーの証言だけでは、彼女を「ローゼ夫人=オーレリア」と結びつける、決定的な証拠にはならない。城の外にいた彼女は、いつでも、すべてをエルマーの独断だったと言い逃れできる。


 彼女自身に、罪を認めさせる。あるいは、尻尾を出させる。そのためには、彼女を、こちらの土俵に、引きずり出す必要があった。



「囮に、なります」


 私は、静かに言った。


「私が、彼女を、おびき出します。クラウス様の唯一である私を、彼女は、放ってはおけないはずです。必ず、私を狙ってくる。その瞬間を、押さえるのです」


「危険すぎる」


 クラウスが、即座に反対した。


「お前を、餌にするなど。もし、何かあれば——」


「大丈夫です」


 私は、彼の目を見た。



「私には、毒が効きません。それに、今度は、ひとりではありません。あなたがいる。ハンナがいる。城の味方がいます。彼女が仕掛けてきても、必ず、皆で守り合えます」


 クラウスは、苦しげに、私を見つめた。けれど、私の覚悟が揺るがないと悟ったのか、やがて、深く息を吐いた。


「……分かった。だが、約束しろ。決して、無茶はしないと。何かあれば、必ず、私を頼ると」


「はい」


 私は、微笑んだ。



 窓の外で、霧が流れていた。


 エルマーという手駒を失ったオーレリア。彼女は、追い詰められている。だからこそ、これまで以上に、危険な賭けに出てくるだろう。


 けれど、それは、こちらにとっても好機だった。焦った相手は、必ず、隙を見せる。


 私は、固く拳を握った。次は、私が、彼女をおびき出す番。長く霧に隠れてきた黒幕を、ついに、表へ引きずり出すのだ。


 決着の時が、近づいていた。


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