第45話
反撃は、味方の結集から始まった。
猶予を得た私はすぐに、城の味方を呼び集めた。侍女のハンナ。そして、代々ヴェルナー家に仕える老執事のゴットフリート。家の暗部を誰よりも知るこの老人が、鍵を握っていた。
「私が知るこの家のすべてを、お話しいたしましょう」
「問いは、ひとつです」
私は皆に告げた。
「秘伝の毒は私を通さず、どうやってこの城へ入ったのか。それを辿れば、内通者に行き着きます」
ゴットフリートが城の奥から、古い記録を運び出してきた。診療の日誌。薬品の出納帳。そして、先妻たちの死亡診断書。
私たちはそれらを、一枚ずつ照らし合わせていった。
まず、死亡診断書。三人の奥方の最期を記した三通の署名は、どれも同じ筆跡だった。エルマーのもの。看取ったのも診断を下したのも、すべて彼。城で初めて私と対等に話してくれた、頼れる協力者。その名が、三つの死すべてに記されていた。
さらにゴットフリートが、当時の使用人の証言と症状の記述を照らし合わせる。すると診断書には、不自然な点がいくつもあった。実際の症状と食い違う箇所。書き換えられた痕跡。そして、いずれの埋葬も奇妙なほど急がれていた。
病に見せかけ、検分を阻む。あの、口を封じられた侍女のときと同じ手口だった。
点と点が、繋がっていく。
毒を「病」と偽った診断。改竄された記録。急がれた埋葬。ヴィクトルが毒を盛られたとき「処置」に堂々と現れた男。すべての死の現場に、必ず同じひとりが居合わせていた。
「……エルマー」
私はその名を呟いた。背筋に冷たいものが走る。私が必死で解毒に当たった、そのすぐ隣に。答えはずっと、いたのだ。
そして、ようやく腑に落ちた。ヴィクトルが毒に倒れたあの日、エルマーがなぜ、わざわざ彼を救ってみせたのか。あの場には、私がいた。私が騒ぎ立て、薬箱を開け、必死で処置に加わってしまった。毒を盛った張本人でありながら、彼は「救う側」を演じ通すしかなかったのだ。とどめは、人目の引いてから——きっと、そのつもりだったのだろう。
さらにゴットフリートが、古い名簿を差し出した。
「奥方様。これが、エルマーの来歴です」
その記録を見て、私は息を呑んだ。エルマーはかつて、ハルヴァート家系の薬師として出入りしていた男だった。けれど、ある不始末で家を追放されていた。ハルヴァート家への怨恨。そして、秘伝に触れ得た立場。秘伝の毒の流出元は、彼だったのだ。
私はエルマーを、皆の前に呼び出した。
改竄された診断書。急がれた埋葬。死の現場への不自然な同席。そして、ハルヴァート家を追放された過去。証拠を突きつけると、彼の穏やかな仮面が、少しずつ剥がれ落ちていった。
やがて彼は、ふっと笑った。これまで見せたことのない、冷たい笑みだった。
「……見事だ、奥方様」
エルマーは静かに開き直った。
「あの家は私から、すべてを奪った。地位も、誇りも。だから決めたのだ。あの家の秘伝の毒で、あの家の娘を犯人に仕立てる、と。……美しい筋書きだろう」
その言葉に、広間が凍りついた。彼はオーレリアとの分業も認めた。外で指示する女。内で手を下す自分。二人で花嫁たちを殺してきたのだ、と。
クラウスはその告白を、呆然と聞いていた。
長年、最も信を置いてきた侍医。妻が死ぬたびに調べさせ「病死」と告げられ続けた、その相手。欺いていたのが、誰よりも信頼していた男だった。彼の顔は蒼白だった。
「お前が……ずっと、私を……」
クラウスの声が震えた。彼が逃げ続けた真実の、最も残酷な核心が、今、暴かれた。
けれど同時に、それは解放でもあった。
私の濡れ衣が晴れたのだ。秘伝の毒はエルマーが流出させたもの。私の実家は手を下していなかった。すべては、家を恨むこの男の手で運ばれていた。ハルヴァートは無罪。そして、私も。長年私を縛ってきた「不吉な娘」の烙印から、私は一歩、自由になれた気がした。
窓の外で、霧が流れていた。
内通者エルマーは墜ちた。最も味方に見えた男が、真の実行犯だった。その反転に、広間の誰もが言葉を失っていた。
けれど、と私は思った。これで終わりではない。手を下していたのはエルマー。けれど、それを指示し糸を引いていた本体は——オーレリアは、まだ自由の身だ。手駒を失った彼女が、次に何をするのか。
私は固く拳を握った。本当の対決は、これからだ。




