第44話
糾弾の場は、公の形で設けられた。
近隣の貴族たちが城の広間に集まった。狙いは明らかだった。公爵夫人を連続殺人の犯人として断罪し、城から追放すること。私は広間の中央に立たされた。冷たい視線が四方から突き刺さる。
「公爵夫人」
貴族の長老格が、重々しく口を開いた。
「あなたには先代の奥方様方を毒殺した嫌疑がかかっている。秘伝の毒が、あなたの私室から発見された。申し開きはあるか」
私は背筋を伸ばした。
「あります。私は奥方様方が亡くなったとき、この城におりませんでした。手を下すことなど不可能です」
「だが、毒はあなたのものだ」
長老は冷たく言った。
「嫁ぐ前から用意していたとも考えられる。その毒があなたの部屋にあった事実は消えぬ」
周囲の貴族たちが頷き合った。空気は完全に私を犯人と断じていた。私の言葉は誰の心にも届かない。仕組まれた事実だけが、すべてを支配していた。
その時だった。
「待て」
低い、けれどよく通る声が広間に響いた。
クラウスだった。彼はゆっくりと進み出た。その表情は、凍りついたいつもの仮面ではなかった。あるのは揺るぎない決意。そして、剥き出しの感情だった。広間が静まり返った。
「リネットは犯人ではない」
クラウスは、はっきりと言った。
「彼女はこの城に来てから、何度も毒に狙われた。私はその現場を、この目で見てきた。彼女こそ最大の被害者だ。それを犯人だと言うなら、その証拠がいかに作為に満ちているか、私が証明してみせる」
貴族たちがざわめいた。公爵がこれほど明確に、夫人を庇うとは。誰も予想していなかった。これまで彼は、何を言われても黙して動かぬ男だった。妻が死んでも、噂が広まっても、ただ城に閉じこもるだけの。その死神公爵が、今、ひとりの女のために、声を上げている。
「なぜ、そこまでなさるのか」
長老が訝しげに問うた。
クラウスは私を見た。その瞳に、これまで誰にも見せたことのないまっすぐな光が宿っていた。そして彼は、広間中に響く声で言い放った。
「彼女は、私の唯一だからだ」
広間がどよめいた。
「これまで私は、多くの妻を迎えた。だが誰のことも、本当の意味では愛せなかった。守れなかった。私は死神と呼ばれ、それを当然の報いだと思っていた。……だが、リネットは違う。彼女は私の凍りついた心を溶かした。彼女だけは、絶対に失いたくない。生涯でただひとり、心から愛した女だ」
死神公爵が、初めて人前で愛を示した。
その言葉は、広間の空気を大きく揺さぶった。長年、冷酷な男として恐れられてきたクラウス。その彼がこれほどまっすぐに、ひとりの女を想っている。その事実に、貴族たちの頑なな態度が、わずかに揺らいだ。
形勢が動いた。彼が皆の前で、私を唯一だと言ってくれた。それだけで、どんな嫌疑にも立ち向かえる気がした。
長老がしばし沈黙した。そして、慎重に言った。
「……公爵のお言葉は重い。だが、それでも証拠は証拠。覆すには、相応のものが要る」
「ならば」
私は進み出た。
「証明してみせます。秘伝の毒が私を通さず、どうやってこの城に入ったのか。その経路を明らかにすれば、真犯人が見えてきます。少しの猶予を、いただきたい」
窓の外で、霧が流れていた。
クラウスの愛が、私を崖っぷちから引き戻してくれた。猶予は得られた。あとは反撃あるのみ。
その時、私の脳裏に、ふとひとつの引っかかりがよぎった。先妻たちの死亡の記録。あれをもう一度、検め直すべきではないか。あの記録に、何か不審な点が隠されているような——そんな予感がした。
私はその予感を、胸に留めた。明日、すべてが動き出す。




