第43話
嫌疑は、瞬く間に広まっていった。
公爵夫人が先妻たちを毒殺した犯人かもしれない。その噂は社交界を駆け巡った。長年育てられてきた「死神公爵」の悪評と、それは不気味なほどよく馴染んだ。私を糾弾する声は、日に日に大きくなっていった。
ハルヴァート家の対応は、冷たかった。
使者を通じて、彼らはこう告げてきた。秘伝の毒が本当に使われたのなら、由々しき事態である、と。けれど、私を庇おうとはしなかった。むしろ、こう匂わせた。あの不吉な娘なら、やりかねない、と。
厄介払いした娘が、家の秘伝で人を殺した。彼らにとって私は、いつでも切り捨てられる、不吉な存在に過ぎなかった。
社交界の貴婦人たちも、手のひらを返した。
あれほど好奇の目を向けてきた彼女たちは、今や私を、化け物でも見るように遠巻きにした。毒に愛され、人を殺す恐ろしい女。それが、私に貼られた新たな烙印だった。味方と呼べるのは、クラウスとハンナ、そして城のわずかな者たちだけ。外の世界はすべて、私の敵に回ろうとしていた。
オーレリアの罠は、完璧だった。
彼女は姿を一切見せなかった。ローゼ夫人として慈善の仮面をかぶったまま、影から糸を引いていた。仕組まれた証拠。育てられた噂。実家の冷淡。すべてが計算され尽くしていた。毒の効かぬ私を、社会的に抹殺するために。
私は追い詰められていた。反論しようにも、証拠がない。秘伝の毒は確かに、私の部屋から見つかった。それを覆す術が、なかった。
「リネット」
その夜、クラウスが私の部屋を訪れた。
彼の顔は苦悩に満ちていた。彼もまた、私を庇おうとしたために立場を悪くしていた。死神公爵が毒の花嫁をかばっている。それは二人を、いっそう孤立させた。
「すまない」
彼は絞り出すように言った。
「私がもっと早く動いていれば。お前をこんな目に、遭わせずに済んだ」
「あなたのせいではありません」
私は首を振った。
「これはオーレリアの策略です。彼女は、私が真実に近づいたから先手を打ってきた。……つまり、それだけ焦っているのです。追い詰められた証拠です」
私は努めて気丈に言った。けれど内心では、震えていた。このままでは私は、犯人として裁かれてしまう。城を追われ、あるいは命さえ奪われるかもしれない。
けれど、屈する気はなかった。
私は頭の中で必死に、考えを巡らせた。この罠を破る方法を。オーレリアの仕組んだ嫌疑を晴らす道を。
鍵は、ひとつだった。
秘伝の毒が、どうやってこの城に持ち込まれたのか。私を通さず、その毒が城内に入った経路を明らかにすれば。それを辿れば、必ず内通者に、そしてオーレリアにたどり着ける。
「クラウス様」
私は顔を上げた。
「私は諦めません。反撃します。秘伝の毒が私の手を経ずに、どうやってこの城へ入ったのか。それを突き止めれば、内通者の正体が暴けます。そして、その先にオーレリアがいます」
クラウスの瞳に、わずかな光が戻った。
「ハンナや、城の者たちの力を借りましょう。味方はまだ、この城の中にいます。私たちは、ひとりではありません」
窓の外で、霧が渦巻いていた。
絶体絶命の窮地。けれど私の中で、反撃の炎が静かに燃え始めていた。
オーレリア。あなたは私を犯人に仕立て上げた。けれど、その焦りこそが、あなたの命取りになる。
私は固く拳を握った。明日から反撃が始まる。仕組まれた毒の、その出所を必ず暴き出してみせる。
長い夜の向こうに、夜明けの気配が、かすかに漂っていた。




