第42話
異変は、ある朝、唐突に始まった。
城に、思いがけぬ客が、訪れたのだ。近隣の貴族たち。そして、ハルヴァート家からの、使者。彼らは、皆、険しい顔をしていた。何かを、問い質しに来た、という空気だった。私は、嫌な予感に、胸を、ざわつかせた。
クラウスと共に、私は、広間で、彼らと、向き合った。
「単刀直入に、申し上げます」
貴族のひとりが、冷たく、口を開いた。
「公爵夫人。あなたに、重大な、嫌疑が、かけられております」
「嫌疑?」
私は、眉を、ひそめた。
「先代の、奥方様方の、死について。あなたが、毒を用いて、手にかけたのではないか、という、疑いです」
私は、息を、呑んだ。
なんという、馬鹿げた話。先妻たちが死んだとき、私は、まだ、この城に、来てさえいなかった。それは、誰の目にも、明らかなはずだった。
「お言葉ですが」
私は、冷静に、言い返した。
「奥方様方が亡くなったのは、私が嫁ぐ、ずっと前のことです。どうして、私が、手を下せましょう」
けれど、貴族は、薄く、笑った。まるで、その反論を、待っていたかのように。
「ええ、もちろん、あなたが、直接、手を下したとは、申しません」
彼は、ねっとりと、続けた。
「けれど、あなたは、ハルヴァート家の、ご令嬢だ。あの、解毒で名高い、薬師の名家の。そして、奥方様方を殺した毒は——ハルヴァート家の、門外不出の秘伝で、あったとか」
私の背筋が、凍りついた。
秘伝の毒。それを、なぜ、この男が、知っている。
「その秘伝の毒が、城内で、見つかったのですよ」
貴族は、勝ち誇ったように言った。
「あなたの、私室から。動かぬ、証拠です。あなたは、嫁ぐ前から、この毒を用意し、自分以外の花嫁を、亡き者にしようと、企んでいた。そう、考えるのが、自然でしょう」
仕組まれたのだ。
私は、即座に、悟った。誰かが、私の部屋に、秘伝の毒を、忍ばせた。そして、この嫌疑を、でっち上げた。すべては——オーレリアの仕業だ。
先手を、打たれた。
私が、自分の正体に気づいたと察したオーレリアは、毒の効かぬ私を、別の方法で、排除しようとしている。毒では殺せない。なら、社会的に、葬り去る。連続殺人の犯人に、仕立て上げて。
なんという、周到さ。なんという、悪意。
ハルヴァートの秘伝を、毒に使ったのも、すべて、この時のためだったのかもしれない。いざとなれば、その罪を、ハルヴァートの娘である私に、なすりつけられるように。
「リネットは、犯人ではない!」
クラウスが、声を、荒げた。
「彼女は、嫁いでから、何度も、毒に狙われた、被害者だ。それを、犯人だなどと——」
「証拠が、あるのです、公爵」
貴族は、冷たく、遮った。
「秘伝の毒。それを扱える、ハルヴァートの血筋。動機も、十分。これだけ、揃っていて、無実だと、どう、証明なさるおつもりか」
広間に、重い、沈黙が、落ちた。
貴族たちの、冷ややかな視線が、私に、突き刺さる。ハルヴァート家の使者さえ、私を、疑わしげに、見ていた。実家からも、見放されようとしている。
絶体絶命だった。
オーレリアは、姿を見せぬまま、私を、追い詰めてきた。完璧な、罠だった。
窓の外で、霧が、渦巻いていた。
着せられた、嫌疑。仕組まれた、証拠。私は、今、連続殺人の犯人として、糾弾されようとしていた。
けれど、と私は、奥歯を、噛みしめた。
ここで、屈するわけには、いかない。これは、オーレリアの焦りの証でもある。彼女が、なりふり構わず、私を消そうとしているのは、それだけ、追い詰められているからだ。
反撃の、糸口は、必ず、ある。私は、顔を、上げた。




