第28話
修道院への問い合わせには、時がかかった。
使いが戻るまでの間、私は、もう一度、先妻たちの死を、徹底して洗い直すことにした。三人の奥方。その死には、必ず、何か共通の「法則」があるはずだ。犯人が、どんな時機に手を下したのか。それが分かれば、犯人の意図に、もっと近づける。
私は、西棟の古い記録を、片端から、調べ直した。三人の婚礼の日。死の日。その間に、城で起きたこと。すべてを、書き出していった。
そして、ある夜、私は、気づいた。
三人の死の日付を、婚礼の日と、並べてみたのだ。すると——背筋が、ぞくりとした。
三人とも、嫁いでから、ちょうど一年以内に、命を落としていた。それも、ばらばらの時期ではない。婚礼から、おおよそ半年から十月ほど。不思議なほど、近い時期に、揃って亡くなっていたのだ。
偶然だろうか。いや、これだけ揃えば、もう偶然とは言えない。
なぜ、婚礼から一年以内なのか。
私は、考え込んだ。何が、その時期に、起きるのか。新しく嫁いだ花嫁が、城に馴染み、夫婦としての暮らしが、ようやく始まる頃。そして——。
はっと、した。
私は、もう一度、記録を、丹念に検めた。三人の奥方が、亡くなる、少し前。その頃の、城の様子を記した、断片的な書付。そこに、ある言葉が、繰り返し、現れていた。
「お慶びの兆し」。
それは、世継ぎを——子を、宿す兆しを、意味する言葉だった。
三人の奥方は、いずれも、亡くなる少し前に、その兆しが、見え始めていた。城の者たちは、世継ぎの誕生を、心待ちにしていた。けれど、その喜びは、いつも、突然の死によって、断ち切られた。
兆しが見えた途端に、命を落とす。
その符合に、私は、戦慄した。
殺意には、法則がある。
犯人は、花嫁が、ただ嫁いだだけでは、手を下さない。世継ぎを、宿す兆しが見えたとき——その時を、待って、毒を盛っているのだ。緩慢な毒だから、兆しが見えてから手を下しても、衰弱して死ぬまでに、ひと月、ふた月とかかる。だから、死の時期に、ばらつきが出る。けれど、引き金は、いつも、同じ。
世継ぎの、兆し。
なぜ、世継ぎが宿ると、殺すのか。その問いの答えが、犯人の動機の、核心に違いなかった。
私は、震える手で、書付を置いた。
世継ぎを宿せば、その花嫁の地位は、揺るぎないものになる。クラウスとの絆は、深まり、誰にも、引き剥がせなくなる。それを、犯人は——許せないのだ。
クラウスに、世継ぎを。クラウスと、確かな絆を。それを得ようとした花嫁を、犯人は、必ず、殺してきた。
まるで、クラウスを、誰にも、渡すまいとするかのように。
その執念の、おぞましさに、私は、寒気を覚えた。
そして、ふと、私は、自分の身に、思い至った。
もし、私が、世継ぎを宿せば。あるいは、クラウスと、本当に心を通わせれば。——犯人は、私にも、その牙を、向けてくるだろう。これまで以上に、執拗に。毒が効かぬ私を、何としても、消そうとして。
背筋が、冷たくなった。
けれど、と私は、思い直した。それは、同時に、好機でもある。私が、犯人を、おびき出す、餌になれるということだ。死なない私だからこそ、その執念を、逆手に取れる。
窓の外で、霧が、流れていた。
標的の法則。世継ぎの、兆し。それは、犯人の動機へと、まっすぐに繋がる、重大な手がかりだった。
なぜ、犯人は、クラウスを、独り占めしたがるのか。なぜ、それほどまでに、執着するのか。
オーレリア。その名が、また、私の頭に、浮かんだ。捨てられた女の、消えぬ執念。もし、犯人が彼女なら——この法則は、彼女の歪んだ想いを、何より雄弁に物語っている。
私は、固く、拳を握った。
真実は、もう、すぐそこまで、来ていた。




