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私は死んでも惜しくない娘のようです  作者: 小林翼


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第23話

 潔白を、証明しなければならなかった。


 使われた毒が、ハルヴァートの秘伝に酷似している。それを、いずれクラウスに話すなら、ただ「私は関係ない」と言うだけでは、足りない。証拠が要る。この毒が、私の手を経ずに、どうやってこの城へ持ち込まれたのか。その経路を、明らかにしなければ。


 私は、ひとりで、調べに出ることにした。



 翌朝、私は、誰にも告げずに城を出た。


 目指すのは、隣領の町。秘伝の毒の材料——その一部は、特殊な薬種で、限られた商人しか扱っていない。もし、この近辺で誰かがそれを買い求めていたなら、薬種商に、記録が残っているかもしれない。


 危険な単独行だと、分かっていた。けれど、クラウスを巻き込めば、また「言えない秘密」を抱えることになる。それに、彼を、これ以上、危うい立場に置きたくなかった。


 私は、ひとり、霧の中へと馬を走らせた。



 けれど、私が城を出たことは、すぐに知れた。


 ハンナが、慌てて、それをクラウスに告げたのだ。後で聞いたところによれば、それを知ったクラウスは、顔色を変えたという。


「なぜ、ひとりで行かせた!」


 彼は、声を荒げたらしい。いつも冷静な彼が、取り乱すほどに。


「あの女は、何度も命を狙われているのだぞ。供もつけず、ひとりで外へ出るなど——!」


 その剣幕に、ハンナは、震え上がったという。



 クラウスは、すぐさま、私を追おうとした。


 けれど、その胸の内は、複雑だったろう。私を案じる気持ちと、何も告げずに出ていった私への、わだかまり。昨日の、あのすれ違い。私が、何かを隠しているという、拭えない疑念。


 案じているのに、素直に動けない。守りたいのに、信じきれない。


 そのもどかしさが、彼を、苛んだに違いない。彼は、馬を駆りながら、何度も、自分に問うたという。あの女は、本当に、自分の味方なのか、と。



 一方の私は、隣領の町で、薬種商を訪ね歩いていた。


 けれど、収穫は、なかなか得られなかった。問題の薬種を扱う店は、少ない。そして、扱っていても、客の記録を、おいそれとは明かしてくれない。私は、薬草の知識を盾に、相手の信用を得ながら、慎重に、聞き込みを続けた。


 無茶をしている、という自覚は、あった。


 けれど、止まれなかった。クラウスとの間に生まれた、あのひびを、埋めたかった。彼に、胸を張って、真実を告げたかった。「私は、無実です」と。証拠を、この手に掴んで。



 日が傾く頃、ようやく、手がかりらしきものを掴んだ。


 ある古い薬種商が、思い出したように、こう言ったのだ。


「そういえば……何年か前から、ときおり、その手の薬種を買い求める方が、おられましたな。ずいぶんと、薬に詳しい方で」


「どんな方ですか」


 私は、身を乗り出した。けれど、商人は、口ごもった。


「さて……顔は、よく覚えておりませんで。明日にでも、帳面を検めて、お調べしておきましょう」


 明日。あと一日あれば、その人物の正体に、もっと近づける。私は、礼を言って、その店を後にした。胸の中で、確かな手応えが、脈打っていた。



 その時だった。


 町の路地に、ふいに、いくつもの人影が、現れた。


 ならず者のような風体の、男たち。彼らは、まっすぐに、私のほうへと近づいてくる。その手には、鈍く光るものが、握られていた。


 刺客。


 私が、核心に近づいたことを、誰かが、察したのだ。毒では殺せぬ私を、今度は、力ずくで、消そうとしている。


 逃げ場は、なかった。私は、後ずさった。背中が、冷たい壁に、ぶつかった。


 ——終わりか。


 そう思った、その瞬間だった。


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