第21話
その確信は、私を、震え上がらせた。
侍女を殺した毒。先妻たちを蝕んだ毒。その症状を、私は、繰り返し頭の中で検めた。食が細り、微熱と倦怠が続き、痩せ衰え、最後に心の臓が止まる。蓄積する、緩慢な毒。
そして、それは、あまりにも——わが家の、あの秘伝に、似ていた。
ハルヴァート家の、門外不出の毒。
私は、薬草園にこもり、記憶を辿った。
幼い頃、誰にも相手にされず、ひとり書庫に潜り込んでは、家の古い書物を読み漁った。その中に、厳重に封じられた一冊があった。代々の当主だけが知る、秘伝の調合。あらゆる毒に通じたハルヴァート家が、唯一、世に出すことを禁じた、特別な毒。
その毒の作用が、今、先妻たちと侍女を殺したものと、寸分違わず、重なっていた。
間違いない。あれは、ハルヴァートの秘伝だ。
なぜ。
なぜ、わが家の、門外不出の毒が、この北の辺境の城で、人を殺しているのか。
秘伝を知る者は、ごく限られている。当主である父。そして——調合の書に触れることを許された、一族のごく一部の者だけ。それ以外の人間が、この毒を再現できるはずが、ない。
私の頭に、おぞましい考えが、浮かんだ。
ハルヴァートの、誰かが。私の家の、身内の誰かが、この殺人に、関わっているのではないか。
けれど、すぐに、もうひとつの可能性が、頭をもたげた。
秘伝に触れられたのは、一族の者だけではない。かつて、ハルヴァート家には、外から雇われた薬師たちも、出入りしていた。腕のいい者は、家の奥深くまで立ち入り、秘伝の一端に、触れる機会があったかもしれない。
もし、そうした「外の誰か」が、何らかの理由で家を去り、その知識を、悪用しているのだとしたら——。
わが家の身内か。それとも、かつて家に出入りしていた、外の誰かか。
どちらにせよ、と私は思った。
これは、ただの偶然ではない。犯人は、ハルヴァート家と、何らかの繋がりを持っている。わが家の秘伝を知り、それを使って、この城の花嫁たちを、ひそかに殺してきた。
そして、もし、それが世に知れたら。
ハルヴァートの秘伝で、人が殺されている——その事実は、わが家を、破滅させかねない。いや、それどころか。私自身が、ハルヴァートの娘である私が、その毒の出所を、疑われることになる。
ぞっとした。
犯人は、もしかしたら、それすら、計算しているのかもしれない。
ハルヴァートの秘伝を使うことで、いざとなれば、その罪を、ハルヴァート家に——あるいは、嫁いできた私に、なすりつけられるように。毒が効かず、なかなか死なない厄介な花嫁を、別の形で、葬り去れるように。
考えれば考えるほど、相手の周到さに、肌が粟立った。
これは、ただの連続殺人ではない。幾重にも張り巡らされた、緻密な罠だ。私は、その罠の、ちょうど真ん中に、立たされているのだ。
私は、薬草園の苗床を見つめた。
クラウスに、これを伝えるべきだろうか。使われた毒が、わが家の秘伝だということを。けれど、それを告げれば、彼は、どう思うだろう。私を——ハルヴァートの娘である私を、疑うかもしれない。せっかく芽生え始めた、二人の間の信頼に、ひびが入るかもしれない。
言うべきか。隠すべきか。
私の胸の中で、相反する思いが、激しくせめぎ合った。
けれど、隠し通すことなど、できはしない。いずれ、必ず、露見する。それなら——。
私は、固く目を閉じた。
窓の外で、霧が、音もなく流れていた。
わが家の毒。外の犯人。そして、私自身に向けられかねない、嫌疑の影。
点と点が、また、ひとつ繋がった。けれど、その繋がりは、私を、いっそう危うい立場へと、追い込もうとしていた。
私は、ゆっくりと、目を開けた。
——逃げては、いられない。
明日、私は、クラウスに、すべてを話す。たとえ、彼の瞳に、疑いが浮かんだとしても。




