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私は死んでも惜しくない娘のようです  作者: 小林翼


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第14話

 手がかりは、思いがけぬところに眠っていた。


 クラウスと共闘を始めた私は、まず、直前に亡くなった先妻——イザベラの遺品を調べることにした。三人の妻のうち、最も新しく亡くなった人。その痕跡なら、まだ何か残っているかもしれない。


 クラウスの許しを得て、私は、封じられていたイザベラの部屋に入った。


 時が止まったような、静かな部屋だった。彼女が使っていた品々が、亡くなった日のまま、そっと置かれている。クラウスは、彼女の死後、ここに手をつけることができなかったのだろう。



 私は、ひとつずつ、丁寧に遺品を検めていった。


 化粧道具。読みかけの本。刺繍の途中の布。どれも、ごく普通の、若い女性の持ち物だった。けれど、私は諦めなかった。緩慢な毒で殺された人。きっと、自分の体の異変に、どこかで気づいていたはずだ。


 ハンナが、隣で一緒に手伝ってくれていた。


「奥方様……何を、探しておられるのですか」


「イザベラ様が、遺したもの。言葉でも、印でも、何でもいい。彼女が、最後に何を思っていたのか——その手がかりよ」



 化粧台の引き出しを、私は順に開けていった。


 いちばん下の引き出しは、なかなか開かなかった。何かが引っかかっている。私は、手を奥まで差し入れ、慎重に探った。指先が、紙の感触を捉えた。引き出しの裏に、折りたたまれた紙片が、貼りつけるように隠されていたのだ。


 私は、それをそっと引き剥がした。


 古びた、皺だらけの紙。震える手で書かれたような、乱れた文字。誰にも見られぬよう、隠された走り書き。


 灯りにかざし、私は、そこに書かれた言葉を読んだ。



 ——彼女が来る。


 たった、それだけだった。


 彼女が来る。


 その一行を、私は、何度も読み返した。背筋を、冷たいものが這い上がってくる。隣でそれを覗き込んだハンナが、ひっと小さく息を呑んだ。


「『彼女』……?」


 ハンナの声が、震えていた。



 彼女が来る。


 この言葉が意味するものを、私は、必死に考えた。


 イザベラは、何かに怯えていた。誰かが「来る」ことを、恐れていた。そして、それを、人に言えなかった。だから、誰にも見られぬよう、引き出しの裏に隠して、書き残した。今わの際まで、その恐怖を抱えながら。


 そして——「彼女」。


 犯人は、女なのだ。それも、城に常にいる者ではない。「来る」と書いたということは、外から、城へやって来る誰か。普段は別の場所にいて、ときおりこの城を訪れる、ある女。



 私は、握りしめた紙片を見つめた。


 これまで、私は犯人を、城の内側に巣食う者だと思っていた。けれど、違ったのだ。少なくとも、この死をもたらす「彼女」は、外から来る。城の外に身を置きながら、この城へ手を伸ばし、花嫁たちを、ひとり、またひとりと、手にかけてきた女。


 それなら、なぜ、誰も気づかなかったのか。城の人間でない女が、どうやって、毒を運び込めたのか。


 答えは、ひとつしかなかった。


 城の内側に、その女に手を貸す、共犯者がいる。



 私の手の中で、紙片が、かさりと音を立てた。


 イザベラ。あなたは、知っていたのですね。自分を殺そうとしている者の正体に、最後に、気づいていた。けれど、誰にも信じてもらえず、助けも求められぬまま、逝ってしまった。


 あなたの遺したこの言葉を、私は、無駄にはしません。


 「彼女」が誰なのか。城の中の共犯者が誰なのか。それを、必ず突き止めてみせる。


 窓の外で、霧が、ひときわ濃く渦巻いていた。


 まるで、何かが、こちらへ近づいてくるかのように。


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