【組織改革の第一歩はドレスコードから】新魔王、最高幹部に伝説の聖衣を授ける
「ド……ドレスコード、ですか?」
バンパイアクイーンのセレナが、困惑に満ちた声を漏らした。
新魔王・山室豊(25歳の肉体に漆黒のハイレグ競泳水着『シックスフライト』一丁)から放たれる、圧倒的なカリスマ。
――そして、それ以上に濃厚な「変態的執念」のプレッシャーに、女性幹部三人は完全に気圧されていた。
「そうですよ」
豊は腕を組み、シックスフライトの強烈な着圧によって限界まで引き締まった大胸筋を誇示するように、ぐっと胸を張った。
「組織を統制し、最大のパフォーマンスを発揮させるための第一歩は『制服の統一』です。バラバラの思想、バラバラの機能性の衣装を着ているから、オークごときに足元をすくわれるのですよ。これより我が軍は、世界最高峰の機能美を有する『レーシング・スイムウェア』を正装とします!」
「れーしんぐ……すいむ……?」
サキュバスロードのリリアが小首を傾げ、豊かな胸を揺らす。
「そうかそうか。なるほどねー! 言葉で説明するより、実際に体感してもらった方が早いですよね」
競泳水着のことを考え、あまりの興奮にいつの間にか、前世(人事部長時代)の口癖が出ている豊。
彼の口癖は、「そうかそうか」と「なるほどねー」。
人事畑で培ったカウンセリングマインド理論による対人関係における最強の聴き方であった。
彼はニヤリと笑うと、先ほど脳内で理解した『魔力』の概念を集中させた。
イメージするのは、前世の世界で彼が狂おしいほどに愛し、収集し、その特性を全細胞で記憶している伝説の名作たち。
出よ、我が内なる水着の英霊たちよ……!
豊の右手のひらに、ドス黒くも美しい魔力の光が収束していく。
突然、競泳水着をイメージする山室の思考の中に、まるでゲームの装備のステータス画面のようなものが現れる。
攻撃力、防御力、回避値の各補正と、装備の特性を入力してください?
よく分からず山室は数値を入力する。
攻撃力、防御力、回避率合わせて100か。
では攻撃力30、防御力30、回避率40にするか?
いや、競泳水着の特性は、素早さ。
攻撃力20、防御力20、回避率60でどうだ?
いや、いや、攻撃など、当たらなければどうということはない。
攻撃力20、防御力0、回避率80、これで決まりだな。
あとは装備の特性か、なになに?
魔法攻撃無効?
物理攻撃ダメージ半減?
最初からこんな凄そうなのがついている!
ではこのままでいこう。
山室が思考を終え、バチバチと空間が爆ぜ、光が弾けた瞬間――そこには、三着の、瑞々しい光沢を放つ極薄の着衣が空間に浮遊して出現していた。
「上手くいきました! これぞ我が魔力の結晶、見た目も手触りも完璧な再現度ですね」
豊の目がマニア特有の、血走った歓喜に染まる。
彼はまず、赤く輝く一着を手に取り、セレナの前に突きつけた。
「まずはセレナさん、あなたにはこれを授けます。我が前世の世界における最大手メーカー『ミズヌマ』が誇る最強競泳水着の一つ――『マジェスティライン』のレッド・ハイカットモデルです!」
「な、なんですの……この、心もとなすぎる布切れは……!?」
セレナが深紅の瞳を羞恥で丸くする。
すかさず、豊の解説が、管理職特有の最悪の流暢さで始まった。
「そうかそうか、なるほどねー。でもただの布切れだと思ったら大間違いですよ。これは高貴なるバンパイア族にこそ相応しい、究極の装備なのです。生地表面を見なさい。うっすらと波状の撥水プリントが施されているでしょう? これが水流――ひいては空気抵抗を極限まで逃がし、敵の懐へ素早く接近することを可能にします」
豊はマジェスティラインの生地を触りながら言う。
「さらに、この圧倒的な撥水性能は、戦闘時に浴びる吸血の『返り血』をすべて弾き飛ばし、装備を一切汚さないという素晴らしいメリットもあるのです! そして最大の特徴は、このミズヌマ独自の『キネマカット』。お尻の中心付近まで深く食い込むような超高角度のハイレグカッティングが、あなたの俊敏な脚力を一切阻害しません」
「お、お尻の中心……っ!? 返り血を弾くのは、衛生的で確かに合理的ですけれど……」
気高きバンパイアクイーンの顔が恥ずかしさに朱に染まる。
だが、豊の暴走は止まらない。
次に、白い、あまりにも薄い一着をリリアに突きつけた。
「次はあなたですよ、リリアさん。サキュバスのあなたには、伝説の『アジッデス』が開発した神格化モデル――『ハイレゾ・コンパクト・ディスク』、通称『ハイレゾCD』の白モデル(白アジ)です!」
「あらぁ……? でも魔王様、これ、信じられないくらい薄いですわよ? 触ると消えてしまいそうなほど……」
リリアがトロンとした目で、その白い布地を指先でなぞる。
「そうかそうか! なるほどねー。よく気づきましたね! それこそがハイレゾCDの神髄ですよ。薄さ、伸縮性、 ハイレグカッティングのバランスが究極なのです。そして何より……リリアさん、あなたはサキュバスですよね? 敵を魅了し、戦意を喪失させるのが生業のはず。この『白アジ』はですね、水に濡れる、あるいは魔力を通して湿気を帯びることで――ほぼクリアに透けてしまうという衝撃的な透け感を発揮するのです! 敵陣のど真ん中でこれを濡らすと、オークどもの理性を一瞬で消滅させる、最強の精神攻撃兵器となりますよ」
「まあ……! 濡れると、透ける……! なんて破廉恥で、素晴らしい性能かしら……!」
サキュバスとしての本能を刺激されたのか、リリアの頬が淫らに紅潮し、吐息が荒くなる。
「最後にミミさん! あなたにはこれです! かの 『アニーマ』社の名作ニット素材水着――『シューコス』のハイカットモデル、カラーは黒に紫と赤の炎パターン!」
「ミミの? でも、これ、軽すぎる。ミミの鉄の鎧の方が強い!」
ミノタウロスウーマンのミミが、太い腕を組んで不満げに鼻息を鳴らす。
「そうそうか、なるほどねー! あなたがそう思うのも無理はありません。しかし、その重装甲は機動力をドブに捨てていると言わざるを得ませんね。このシューコスは、絹のように滑らかな肌触りでありながら、身体に『第二の皮膚』のようにぴったりと密着します。光の加減でシルクのような艶やかな光沢を放ち、あなたのその強靭な筋肉の凹凸をそのまま浮き彫りにするのですよ。重い鎧で守る時代は終わりです。圧倒的な密着感とホールド感で、あなたの怪力を120%引き出し、敵の攻撃をすべて『躱す』ための聖衣なのですから」
豊の、元人事部長としての「部下を適材適所で評価し、最適なツールを与える」という適材適所の人事評価マインドに満ちた知性が、完全に「露出度の高い競泳水着を着せたい」という最悪のバグによって駆動していた。
「さあ、早く着てください。これは新魔王たる私の、絶対の命令ですよ」
「は、はいっ……!」
魔王の絶対遵守の命令と、上司としての圧倒的な圧に抗えず、三人は玉座の陰で着替えを始めた。
衣擦れの音。
あるいは、パチン、パチンと、極薄のポリウレタン生地が、それぞれの肉体に限界まで密着していく官能的な摩擦音が響く。
「魔王様、このお洋服、なんだか、とっても着ずらいですわ」
「布地が独特で、体が締め付けられるようです」
「ミミ、こんな小さい服、全部着たら、破れないか心配」
「そうかそうか、なるほどねー。みなさん、安心してください。その水着の生地は体に究極に密着するため、着脱が非常に不便ですが、着て仕舞えば全く動きは気にならないはずです」
それからさらに十数分後。
玉座の間に、前世の地球で絶滅した競泳水着の、奇跡の光景が出現した。
「お、お待ち遠さまです、魔王様……」
最初に姿を現したのは、サキュバスロードのリリアだった。
純白の『ハイレゾCD(白アジ)』に包まれたその身体は、ビキニの時よりもかえってエロティシズムが強調されていた。
強烈な着圧によって、豊満なバストが中央にギュッと押し潰されるようにホールドされ、深い渓谷を作り出している。
「う、動くと、生地がピタッと吸い付いて……まるで何も着ていないみたいですわ……。でも、不思議と身体の芯がシャキッといたしますの」
「なるほどねー。そうかそうか! 完璧なフィット感、素晴らしいですね!」
豊は目を輝かせ、心の中でガッツポーズを決める。
次に現れたのは、ミノタウロスのミミだった。
黒に炎の模様が入った『シューコス』。
そのハイカットのレッグラインは、彼女のたくましくも美しい太ももの筋肉を限界まで露出させている。
お尻のホールド面積が非常に狭いアニーマ特有のカッティングが、彼女の引き締まったヒップを大胆に強調していた。
「魔王様、これ、すごい! 軽い! 筋肉がギュッと締まって、いつもより早く動けそうな気がする!」
「そうかそうか。なるほどねー! だから言ったでしょう? アニーマの技術力を侮ってはいけませんよ」
豊は満面の笑みで満足げに頷く。
幹部たちが、競泳水着の「機能性の高さ」を正当に評価し始めたことに、管理職として、筋金入りの競泳水着フェチとしての無上の喜びを感じていた。
だが。
最後に現れるはずのセレナだけが、玉座の影から、もじもじとした様子でなかなか進み出てこない。
「……セレナさん? どうしました、何か不具合でもありましたか?」
豊が声をかけると、セレナは顔を真っ赤にし、涙目で、両手を股座のあたり――すなわち、股間にぴったりと当てて、隠すような姿勢でゆっくりと恥入って歩いてきた。
彼女が身に纏っているのは、真紅の『マジェスティライン』のハイカットモデル。
吸い込まれるような美しい赤の光沢が、彼女の白い肌に映えて、息をのむほどの美しさだ。
しかし、カッティングは容赦のない超ハイレグである。
「ま、魔王様……。この、みずぬまの、まじぇすてぃらいん、というお洋服……機能が凄まじいのは、動いてみて分かりましたわ。足の可動域も信じられないほど広いです。……ですが、ですが……!」
セレナは羞恥に震えながら、股間から手を退けようとしない。
「そうかそうか。なるほどねー、どうしました? 水着のサイズが合いませんでしたか?」
「違いますわ! この、前側の幅が……布の幅が、あまりにも狭すぎますの! ほんの少しでも足を横に開いたら、その……完全に『はみ出して』しまいそうですわ……! それに、後ろ側も……お尻の割れ目に、布が信じられないほど深く食い込んで、歩くたびに摩擦で頭がおかしくなりそうです……!」
そうなのだ。
ミズヌマの『キネマカット』および当時のハイレグモデルは、限界まで水流抵抗を減らすため、クロッチ(股布)の幅が非常に狭く設計されている。
「そうかそうか……。なるほどねー、恥じることは
ありませんよ、セレナさん」
豊は一歩歩み寄り、セレナの肩にそっと手を置いた。
漆黒のシックスフライト一丁の男が、真紅のマジェスティライン一丁の女バンパイアを城の王の間で諭す、あまりにもシュールで変態的な光景。
だが、豊の瞳はどこまでも真摯だった。
「その『食い込み』こそが、戦士の闘志を研ぎ澄ます緊張感となるのです。そして、その狭い布幅を完璧に履きこなしてこそ、一流の管理職(幹部)というものですよ。己の肉体を恥じる必要はありません。誇りなさい! あなたは今、世界で最も美しいですよ」
「ま、魔王様……っ」
セレナの胸が、キュンと高鳴る。
この御方、最高に狂っていらっしゃるけれど……どうして、こんなに格好良くて、説得力がありますの……!?
そして股間を覆っていた両手をゆっくりと外していく。
ハレンチ極まる格格好のはずなのに、豊の放つ元人事部長としての圧倒的な魅力の前に、セレナの貞操観念は最悪の方向に書き換えられようとしていた。
「よし……! 三人の意識改革は成功ですね。これより、ミッドレス城の全兵士に、順次この聖衣を――」
豊が邪悪な野望をさらに推し進めようとした、その時だった。
――ドンドン!!!
玉座の間の巨大な扉が激しく叩き開かれた。
乱入してきたのは、息を切らしたバンパイア族の一般兵士の男だった。
「報告ッ!! セレナ様、大変です!!」
「無礼者、魔王様の前です。落ち着きなさい!」
セレナがハッと我に返り、慌てて股間を両手で隠しながら怒鳴る。
「オークおよびゴブリンの混成部隊が来襲! その数およそ三百! 奴らのボス、『剛腕のオークキング』に率いられ、現在、城門前まで進軍してきております!」
「そうかそうか、なるほどねー! 敵の規模とおおよその装備、武器を教えてください」
豊が冷静に尋ねる。
「は、はいっ! 敵の数はオークとゴブリンを合わせて約三百。装備は……全員、上半身裸や、ボロ服を纏っているだけで、鎧の類は皆無です! 武器は棍棒や錆びた剣などで、弓矢や魔法といった『飛び道具』は一切確認されておりません!」
「そうかそうか、なるほどねー。ふっ、楽な案件です。……致命的ですね」
豊の口角が、冷酷に、そして歪んだ歓喜とともに吊り上がった。
三人が振り返ると、そこには、漆黒の競泳水着『シックスフライト』に身を包み、手のひらに禍々しい灼熱の魔力をパチパチと遊ばせている新魔王・山室豊が、ギラついた目で笑っていた。
「上半身裸のボロ服に、飛び道具なし、ですか。近代ビジネス、衣服の合理化という観点から見れば、彼らはただの『野蛮な未開人』に過ぎません。それに比べて、我が軍の幹部はどうですか? 空気を切り裂き、返り血すら弾くマジェスティライン、敵を魅了するハイレゾCD、筋肉を最適化するシューコス……。勝負は戦う前から決まっていますよ」
豊はスッと城門の方角を指差した。
「あなた方の新しい制服――『伝説の聖衣』の性能を、あの愚鈍な豚どもに実験してやりましょう。行きますよ。ドレスコードは競泳水着です!」
「はっ!!! 御意に、魔王様!!!」
こうして、異世界魔界の歴史に、最もハレンチで、最も冷酷な、ハイレグ水着の軍勢による蹂躙劇の幕が上がろうとしていた。




