【第6章】第4話:要件定義のすり合わせ
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
前回、三つの選択肢からなる壮大なロードマップを提示したフォージ。
今回はその実現に向け、いよいよ具体的な「要件定義」のすり合わせが始まります。
「『要望』と『要求』の違いはわかるかい?」
俺の唐突な問いかけに、仮会議室に集まった一同の頭の上に、一斉に疑問符が浮かぶのが見えた。
代表して、ルナが不思議そうに首を傾げた。
「ええっと……お兄様、それはどちらも『こうしてほしい』という願いのことではないのですか? あまり違いがないように思えますけれど……」
「そう思うよな。だが、ここを混同すると、完成した後に『こんなはずじゃなかった』という悲劇が生まれるんだ。少し整理してみよう」
俺は魔力を込めたペンを走らせ、真っ白な板に定義を書き記していく。
■用語定義:要望と要求の差異
1.要望
・定義:主観的で抽象的な「願い」
・例:「冬でも暖かい、居心地の良い客室にしたい」
2.要求
・定義:客観的で具体的な「条件」
・例:「外気温が氷点下でも、客室内の温度を20度に保つ魔力ヒーターを設置する」
「書いた通りだ。ルナ、例えばお前が『美味しい料理が食べたい』と言ったとする。これは『要望』だ。対して『地元の新鮮な野菜を使った辛くないスープを提供する』というのは『要求』になる」
「なるほど! 曖昧な願いごとを、はっきりした条件にするのですね!」
「その通り。当プロジェクトでは、曖昧な要望を明確な要求に翻訳してから実装へ移行する。……さて、これを踏まえて、弦。お前の旧ダンジョンにおけるDPの運用方針をレビューしよう」
俺が話を振ると、弦の黒いローブが微かに揺れた。
「私の旧ダンジョンでは、強力な罠で高ランク冒険者を殺害し、その命と引き換えに莫大な魔力《DP》を一括で搾取するモデルを採用しておりました」
「それが根本的なエラーだ。それでは新規顧客が途絶えた瞬間に、維持コストで赤字になる。これからは『投資』を前提とした新システムへ移行する」
「……投資、ですか?」
「近くなってきたな。DP1000で作ったアイテムを得るのに、平均DP1200分の魔力消費や感情の揺れが回収できれば、それは立派な黒字だ」
俺はホワイトボードに利益のグラフを描いた。
「冒険者を意図的に生還させ、適度な成功体験と報酬を与える。そうすればどうなる?」
「……まさか。生還し、宝を得た者が『あそこには確実に宝がある』と街で吹聴することで、無報酬の広告塔としての役割を果たす……?」
「そうだ」
「さらに、適度な成功体験を与えることで、『次こそは最深部の宝に手が届くかもしれない』という射幸心を煽り、自発的な再訪問を促す……。一度のトラップで刈り取るのではなく、生かしたまま何度も足を運ばせ、その都度、消費する疲労や焦燥といった感情《DP》を継続的に支払わせる……!」
弦はガクンと膝をつき、まるで神の啓示でも受けたかのように両手で頭を抱えた。
「なんという……恐るべき長期投資の観点……!! 初期の小さな宝を撒き餌とし、長期的なトラフィックで莫大なDPを回収する。旧来の致死型ダンジョンなど、このモデルの前にあっては児戯に等しい……ッ! マスター、あなたは……悪魔すら凌駕する経営の天才ですか……!」
「いや、ただの現代の基本ビジネスモデルだ」
戦慄する弦の横で、ルナがパチパチと目を白黒させていた。
「ええと……つまり、ちょっとだけご褒美をあげて、何度も何度も私たちの秘密基地に遊びに来させるってことですか? お兄様、なんだかすごく……悪いお顔をしていますわ!」
(言っちまえばその通りなんだが、言い方ってものがあるだろ……)
俺は苦笑しつつ、全体の総括に入った。
「目先の利益を刈り取るのではなく、冒険者に利益を持ち帰らせる『投資』を行う。これが新たなDP運用方針だ。次回はこれを踏まえ、いよいよこの集客施設の大方針を発表するぞ」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
フォージによる怒涛のビジネスロジック展開!
要望と要求の違いから始まり、「DP1000の投資でDP1200を回収する」という、ダンジョン運営を完全にサービス業としてハックする恐るべき手法が明かされました。
弦が戦慄し、ルナに「悪い顔をしてる」と言われてしまうフォージですが、あくまでこれは「原初の魔力炉」を抑えるための資金と権力を集めるための布石!
次回、いよいよこの集客施設の「大方針(正体)」が発表されます!
引き続きお楽しみください!




