【第6章】第2話:推奨選択肢の提示
裏側での仕様変更を終え、本編へと帰還したフォージ。
温泉を満喫した二人は、今後の活動拠点を探すため、システムからの提案を受けます。
――システム・ポーズ解除。
真っ白な空間から一転。俺の視界はふたたび、強烈な湯けむりと熱気に包まれた『クサーツヴェップ・アリーマ』の休憩処へと切り替わった。
「お兄様? 儀式は無事に終わりましたか?」
「ああ、待たせたな。少し今後の活動計画について、神々と詳細なすり合わせを行っていたんだ」
湯上がりの輝きを放つルナの頭を撫でていると、俺の視界の端でシステム音が鳴った。
実装されたばかりの『推奨選択肢表示機能』が起動し、俺の眼前に半透明のウィンドウが展開される。
『我らが使徒よ、よくぞ耳を傾けた。この霊峰の麓には、拠点として相応しき俗世の館と、最上級の「コービ魔牛」を提供する美食の場が存在しておる。まずは拠点候補から見るがよい』
アルバスの威厳ある落ち着いた声と共に、候補がリストアップされていく。
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【拠点候補リスト】
1.『エクス・モンド館』:赤銅と蒼玉の二つの湯を備えた最高級別荘。
2.『リッチ・ライフ邸』:歴史ある重厚な造り。管理体制が安定した高級邸宅。
3.『エイジング・コート』:王都へのアクセスも完璧な、立地重視の高級コンドミニアム。
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『ガッハッハッハ! 温泉だと!? 良いぞ、戦いの後の雷を鎮めるには湯船が一番だ! 我らが使徒よ、一番デカい風呂がある館を買い叩いてやれ!』
脳内でトールが豪快に笑い声を上げる。
だが、俺は冷静にリストを眺め、脳内通信で丁重に返答した。
(……トール様。お言葉ですが、我々の現在の予算は金貨十三枚(約百三十万円)しかございません。提示されたのはどれも金貨数百枚(数千万円)は下らない貴族向けの物件です。アルバス様、検索条件の絞り込みが甘いのではないでしょうか?)
『ふん、神の御使いが金銭などに縛られるとは些末なことよ。だが、セキュリティと環境が整った物件となれば、これらが最適解であることに変わりはないぞ』
(ならば条件を変えましょう。『致命的な不具合』を抱えた物件です。地熱や魔力が強すぎて人が住めない、あるいは未開拓のまま放置されているような、底値の土地はございませんか?)
俺が要求定義を明確にして再検索を促すと、システムが数秒の演算を行い、リストの一番下に新たな項目をポンと追加した。
『……よかろう。俗世のガラクタを探すというのなら、これなどどうだ』
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4.『未開拓の源泉エリア』:街の外れにある岩山。地熱と魔力が強すぎて放置されている訳ありの土地。申請料のみの破格で取得可能。
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(これですね。予算内に収まる圧倒的な高コスパだ。……神々よ、少し検討の時間をいただきたい)
俺の脳裏に、漠然とだが、一つの事業計画が閃いた。で、あるならば確認するより他ない。
俺は神々との通信を一旦保留し、地下深くで正常化タスクに従事している『新たな配下』へと念話を飛ばした。
(『弦。聞こえるか』)
『……ハッ。主、通信良好です』
かつて【影の宰相】と呼ばれた異常な集合体であり、今は俺が管理者権限を与えたシステム・プロセス『ゲン』の平坦な声が響く。
(ダンジョン管理ありがとう。問題なく運営できているか? 実は、ダンジョンの『移設』が可能かどうか教えてほしいんだ)
『はい。恙なく運営しております。現在のDPと周辺の環境魔力を消費すれば、コアの移設は可能です』
(……DP? そのポイントとはなんだ?)
『ダンジョンを訪れた人々や冒険者から発散される魔力や、感情の高ぶりを収集・変換した数値です。このポイントを消費することで、魔物や、罠や建築物などのオブジェクトを生成できます。冒険者の欲しがりそうな宝箱の用意なども、このポイントを用いて作成しております』
ゲンの解説を聞き、俺の脳内で散らばっていた情報がカチリと一つに繋がった。
人が訪れ、感情を動かすほどポイントが貯まり、さらに施設を拡張できるエコシステム。
なるほど……ただの個人的な隠れ家にするより、もっと『効率のいい形』があるな。
(ちなみにゲン。ダンジョンは地下空間だけでなく、地表部分に建築物として構築することも可能か? 地下の洞窟タイプに加えて、地上に施設を建てるようなイメージだ)
『はい。DPが許す限り、地上への偽装建築物の展開も仕様の範囲内です。現在のポイント残高次第ですが、ある程度なら可能かと』
(なるほど、つまりは洞窟タイプのダンジョンから塔タイプへの変更は可能かと。ふっ……ならば、決まったな)
予算内に収まる底値の土地に、ゲンのDPを使って自前で『人を集める拠点』を建築する。
あとはやってみながら検討か。百点満点の設計よりも、走りながら開発検討する『アジャイル開発』のイメージだ。
俺が脳内でざっくりとした要件定義を終えた、その時だった。
『きゅぅぅ……』
横にいたルナのお腹から、可愛らしい音が鳴った。
ルナは顔を真っ赤にして、モジモジと身をよじる。
「あ、あの、お兄様……。温泉に入ったら、なんだか急に胃袋の底が抜けてしまったと言いますか……。強敵と戦った後のように、お肉が食べたいですわ……っ!」
「……昼のコース料理は完全に消化されたのか?」
「はいっ! 温泉の効能で、食べたものは完全に魔力へ変換されましたわ! お肉が……コービ魔牛のステーキが食べたいです……!」
目をキラキラさせるルナを見て、俺は思わず天を仰いだ。
Sランク級の身体能力を持つ彼女の代謝は、燃費の概念が規格外らしい。
「はぁ……分かった。この霊泉を見つけた祝杯だ、今日はステーキにしよう」
「本当ですか!? ありがとうございます、お兄様!」
大喜びするルナを連れて、ステーキ店へ。
極上の肉の味に喜ぶルナに癒されながら、俺は次なる手段を静かに練り始めていた。
やること、やれることは多くあるが最適解というのは一つではない。その一つ一つを検討し、運用した際のメリットデメリットを検討していく。今夜は遅くなりそうだ。
神々からの提案を論理的に弾き、「訳ありエリア」を引きずり出したフォージ。さらに配下の「ゲン」の能力(DP)の仕様を確認し、ただの隠れ家ではない「効率のいい施設」の要件定義を完了させました!
そしてルナの胃袋は、温泉効果で恐ろしい速度でリセットされています。
次回、フォージの出した結論とは!
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