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【急募】PM(プロジェクトマネージャー) ワールドリフォージ(世界の理は、一生懸命なドジっ子AIでした)  作者: S.フォージ
【第6章】 異常環境のデバッグと、白亜のフレームワーク ~偽装権限による運用テスト(ベータテスト)

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【第6章】第1話:ブリーフィングルーム(仕様の正当化)

 いつもお読みいただき、ありがとうございます!

 いよいよ第6章のスタートです。

 前章のラストでとんでもない極彩色の温泉街(異常データ)に直面したフォージ。

 彼はこの世界観の崩壊を、ブリーフィングルームでどう処理するのでしょうか……!?

「――マスター。……お気持ち、痛いほど分かります。本当に、うちのGMがご迷惑をおかけしております」


 真っ白なブリーフィングルームに転移するなり、ホログラムのゼノンが深く頭を下げて出迎えた。

 その顔には、無茶振りをする上層部と現場の板挟みになった中間管理職のような、深い疲労が刻まれている気がした。


「私からも事前に『中世王道ファンタジーのど真ん中に、現実のあの環境変数をそのまま直書きするのはマズいです!』と進言したのですが……申し訳ありません」

「……まあ、いい。さて、やるべきことがあるが、まずはリフォージポイント(RP)の確認からやるか。ゼノン、今回のポイントと、合計ポイントは?」

「コホン。はい、気を取り直して精算いたします! 今回は前章を綺麗に区切ったことによるシステムボーナスが【+100 RP】。そして何より、うちの観測者(読者)様からの熱いアクセスポイントが【+50 RP】入っております!」

「ほう……」


 俺はゼノンが展開した詳細なアクセスログに目を向けた。

 全体の数字が爆発的に伸びているわけではないが、最新エピソードをデプロイ(更新)するたびに、必ず一定数の観測者様がすぐにアクセスしてくれている。


「全体の数字(一見さん)を追うのも大事だが、俺たちのこの狂ったシステム構築プレイングを、毎回リアルタイムで追ってくれている固定のコアユーザーがいるってことだ」

「はい! 数の暴力ではなく、質の高いエンゲージメントですね!」

「ああ。本当にありがたいことだ。『いちげんさん』のためではなく、これからもこの常連さんたちのために頑張りましょう、だな」


 前回の残高415 RPと合わせ、現在の合計は【565 RP】。

 常連の観測者たちからの応援をエネルギーに換え、俺たちは最大の課題エラーに向き合う。


「今回の豪快なやらかし修正に、とてもポイントが足りるとは思えんのだが……まずは、あの『クサーツヴェップ・アリーマ』の情報を丸ごと削除ロールバックするポイントの確認からするか。中世王道ファンタジーに、巨大な木製のといやら極彩色の地獄やら、現代の温泉要素をごちゃ混ぜにしちゃいかんだろうに」

「……おっしゃる通りです。完全に世界観のコンプライアンス違反ですね。直ちに該当エリアの削除に必要なポイントを試算いたします」


 ゼノンの目が高速で明滅し、数秒の沈黙(システム演算)が訪れる。

 やがて彼は、絶望的な顔で空中にウィンドウを展開した。


「……マスター。絶望的なご報告があります。既にルナ様をはじめとする現地NPCの認知領域に入ってしまっており、さらにマスターご自身が物理的なインタラクト(入浴)まで済ませているため……世界観の破綻を防ぎつつ地形データを完全に削除するには、【概算で 50,000 RP】が必要です」

「……」

「現在の565 RPでは、到底足りません……! しかもジェマ様がご丁寧にメインシステムに直書き(ハードコード)してしまっているようで、無理に消去すれば王都北側の気候データまで巻き込んでクラッシュする恐れがあります。……どうやら、完全に後戻りできない仕様としてデプロイされてしまっているようです……っ!」


 完全に退路は断たれていた。

 俺は小さく息を吐き、頭を掻いた。


「まぁ、そうだろうな。だからと言って、クサーツヴェップ・アリーマを完全にスルーしてよその場所だけ行って『ここにします!』って言ったところで、アイツ(GM)が納得しないだろ。一生懸命考えて、あそこに来てって猛アピールしてたしな。そこは後悔しても仕方ないだろ」

「……っ!」


 ゼノンのホログラムが、感極まったように僅かに揺らいだ。


「マスター……。あれだけ呆れていらっしゃったのに、あのジェマ様が『休んでほしくて一生懸命用意した』という真意まで汲み取って、あえて致命的なエラー(罠)だと分かっていて踏みに行ってくださったのですか……!? さすがは私のマスター。システムの矛盾をただ糾弾するのではなく、開発側の意図ホスピタリティまでカバーした上で最適解を探ろうとしてくださるのですね」

「大げさだ。それに、お湯の質自体は最高だったしな」

「……して、マスター。ロールバックが不可能、かつスルーも得策ではないとなると……我々はどう処理するおつもりでしょうか?」


 俺は腕を組み、思考を巡らせた。

 第3章の時のように、ルナを相手にロールプレイをして強引な過去改変を行う手もあるが、規模が規模だ。ロールプレイだけでどうにかなる仕様変更ではない。だからこそ、俺はシステムの中枢ここへ来たのだ。


「方向性としては、『クサーツヴェップ・アリーマ』がそこにあるのが自然。そこにあってもおかしくない。としたいんだ。……んー、王都サンダルの設定資料見せてくれ。そこに『純和風の王都サンダル』って書き込んでしまうのはどうだ?」

「なるほど! エラーを消すのではなく、それが自然に存在するように親ディレクトリ(王都全体)の環境設定ごと上書きしてしまう逆転の発想……! 直ちに、現在の基本設定資料をロードします。こちらをご覧ください!」


 ゼノンが空中に、半透明のシステムウィンドウを展開した。


==================

【王都サンダル 環境仕様書 v1.0】

・基本アーキテクチャ:中世ヨーロッパ風ハイファンタジー

・主要建造物:石造りの城壁、レンガと石畳の街並み、王城、中央ギルド

・文化・技術レベル:剣と魔法の王道スタイル(馬車、洋装、パンと肉食中心)

・NPC設定:騎士団、冒険者、商人など

==================


「……マスター。ご覧の通り、現在ガチガチの『中世ヨーロッパ風』として既にシステム全体に定着してしまっております。これを今から根本から『純和風』に仕様変更するとなりますと……あの厳ついガランド支部長が突然、チョンマゲ姿で『拙者、ギルドマスターでござる』などと言い出す致命的なパラドックス(矛盾)が発生し、最悪の場合、王都のメインサーバーがフリーズします!」


 ゼノンが冷や汗をかくような表情のアイコンを空中に浮かべた。


「概算ですが、先ほどのロールバックを遥かに超える数百万RP規模のコストが発生するかと……。マスターの『設定を上書きして自然にする』というアプローチ自体は極めて有効なのですが、親ディレクトリを書き換えるのは予算的にもリスク的にも非現実的です」

「……」

「……ですが、マスター。この発想を応用して、王都はそのままに、あの『クサーツヴェップ・アリーマ』の周辺エリアだけを局所的に設定変更(カプセル化)する方向なら、ポイントを抑えて処理できるかもしれません。いかがでしょうか?」


 現場AIからの、現実的な妥協案(カプセル化)。

 だが、俺は即座に首を振った。


「それこそ却下だ。なんで突然(そこだけ和風なのか)? の解決になっていないだろ」

「うっ……確かに……」

「さっきも言ったが、持っていきたい方向性は『そこにあるのが自然』、もしくは『あってもおかしくない』だ」


 俺は必死に、今までのプレイングを思い出す。

 何か、このイレギュラーを正当化できる既存の仕様ルールはなかったか。


 ――ん?

『もしそのような存在が外側からこの世界に強引に干渉しておるのなら、局所的に【理の歪みや、あり得ないはずの事象】が発生してもおかしくはないのう』


 神々への完了報告の際、賢者アルバスが口にした推論が脳裏を過る。

 ……これだ!


「ゼノン! いけそうだ。アルバスの推論を逆手にとる。パッチノートに【次元の外からの来訪者……深淵の調律者アビス・チューナーの干渉に伴い、別次元からの情報が流入している状況】と、公式エラーとして追加するんだ!」

「なっ……!?」

「でもこれだと、突然あの極彩色の温泉街を受け入れた現地住民への説明がないだろ? だからさらに、【深刻なエラーを防ぐため、現地住民(NPC)は流入した別次元の情報を、昔からそこにあった自然なものとして自動的に受容する】と追記しよう」


 真っ白な空間の中で、ゼノンが雷に打たれたように硬直した。


「マスター……! 第3章の時のようにフロントエンド(ロールプレイ)で強引な過去改変を行うのかと思いきや、今回は物理データもNPCの記憶データも弄らず、バックグラウンドの設定資料テキストに数行のルビ(言い訳)を直接追記するのですね……! エラーを修正するのではなく、『これは仕様(世界を蝕む異変)である』とドキュメントを書き換えて正当化してしまうという、開発者の禁じダークアーツ!」


 ゼノンの指先が目にも留まらぬ速さで宙を舞い、システムの最深部(仕様書)に俺の言葉をタイピングしていく。


==================

【ワールドリフォージ:パッチノート(秘匿設定)追記】

・事象:次元の外からの来訪者「深淵の調律者アビス・チューナー」の干渉に伴う、次元の境界の綻び。

・影響:綻びから「別次元の情報(環境変数や概念)」が局所的に流入する現象が発生中(例:影の宰相、クサーツヴェップ・アリーマ等)。

・NPC認識補正パッチ:深刻なシステムエラー(パニック)を防ぐための防衛本能として、現地住民(NPC)は流入した別次元の情報を「昔からそこにあった自然なもの」として自動的に解釈・受容する。

==================


『UPDATE SUCCESS』


「コンパイル完了しました! マスター、お見事です! これなら料理長がクサーツヴェップ・アリーマを昔からある不思議な湯の街として語っていた矛盾も、完全に『システムが正常にNPCの認識補正を働かせた結果』として説明がつきます! むしろ、ジェマ様の無茶なコピペが、『次元の外からの干渉によって世界が混ざり始めているという、真の黒幕の恐るべき伏線』へと昇華されました!」


 興奮冷めやらぬゼノンが、ポイントのウィンドウを掲げた。


「物理アセットの変更はゼロですが、バックグラウンドの根幹設定へ直接アクセスし、世界の仕様を書き換えたため……今回の消費ポイントは【500 RP】となります! 残高は【65 RP】です!」


 ……ギリギリだったな。

 だが、観測者(常連さん)たちからの応援ポイントがなければ、完全にショートしていた。俺は内心で深く感謝しつつ、頷いた。


「よし。こらゼノン。手抜きなんて言わない。一生懸命やった結果なんだから、そこは受け入れてやれよ」

「……申し訳ありません、マスター。不具合に過敏になるあまり、開発側の温かい意図を見落とすところでした。マスターのその器の大きさに、深く感服いたします」


 ゼノンが姿勢を正し、改めて深く一礼した。

 俺がブリーフィングルームで解決するのは、あくまでプレイングに支障が出る致命的な仕様修正までだ。


「エラー対応は完了した。これで安心してプレイングに集中できる」

「イエス、マスター! いつでもメイン環境(本編)へ復帰する準備はできております!」


 本気で、あの『クサーツヴェップ・アリーマ』と向き合って……GMの予想の斜めを行く、最高のプレイを見せる番だ。


 俺はニヤリと笑い、本番環境への帰還コマンドを叩いた。

 いつもお読みいただきありがとうございます!

 第6章、いよいよ開幕です!

 

 GM渾身の温泉街を前に、ロールバックには莫大なポイントが必要……。そこでフォージが閃いたのは、第5章でアルバスが口にしていた「次元の外からの干渉による事象」を逆手にとり、「アビス・チューナーの干渉に伴う別次元からの情報流入」として公式仕様に上書きしてしまうという荒業でした!

 これぞPMの真骨頂、バグを仕様と言い張るダークアーツの完成です(笑)。


 次回、いよいよフォージがクサーツヴェップ・アリーマでの「要件定義」に挑みます!

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