【第4章】第9話:リアルタイム要件定義と、マナ還元システム
いつもお読みいただき、ありがとうございます!第4章・第9話です。
ドワーフの工房で初期装備(鉄剣)を手に入れた二人は、市場で旅の必需品を揃え、ついに王都の北門を出発しました。
道中、兄から妹へ「冒険の基礎知識」のテストが出題されますが……裏では、とんでもないシステムの綱引きが行われていました!
市場でバックパック、水袋、数日分の干し肉と硬パン、そして携帯用の野営具を買い揃えた俺たちは、ついに王都の北門を抜けた。
これで手持ちの資金(ギルドの前金)はほぼ底をついたが、背中にずっしりと重いバックパックを背負い、腰に無骨な鉄剣を下げた姿は、いよいよ本格的な「冒険者」らしくなってきた。
目指す『北の廃坑』までは、街道を外れて歩いて半日ほどの距離だ。
青空の下、少し草の生い茂った獣道をルナと並んで歩きながら、俺はふと口を開いた。
「ルナ。これから本格的な魔物の巣に入る前に、この世界の基本ルールについておさらいしておこう」
「はいっ! 何でも聞いてくださいませ、お兄様!」
ルナが張り切って、胸の前で小さな拳を握る。
「では問題だ。俺たちがモンスターを倒すと、あの巨体や死体は一体どうなるんだったかな?」
俺は穏やかな笑みを浮かべて問いかけた。
だが、その裏側――システムとの局地通信では、俺の内的思考が冷酷に駆け巡っていた。
(おいゼノン。魔物のドロップ仕様、お前、まだ未定義だろう? 倒した後に巨大な死体が残るリアル志向か、それとも光の粒子になってアイテムだけが落ちるゲーム志向か、今のうちに確認・決定しておくぞ)
『……ッ!! マ、マスター! 申し訳ありません、完全にすっぽ抜けておりました!』
脳内で、自称・優秀なサポートAIが悲鳴を上げる。
やはりな。こういう細部の仕様は、実際に直面する前にこちらから誘導して決定させておくのが、歴戦のTRPGプレイヤーの基本だ。
(もし『死体が残る』仕様なら、魔物の解体スキルや血抜きの手間が必要になる。それに、魔物の臓物や血の海の表現は見れる年齢枠を狭めることになる。よって却下だ)
『りょ、了解いたしました! では、倒すと光になって消滅し、アイテムだけが残る親切設計(ゲーム仕様)を採用いたします!』
(ああ。ただ『ゲームだから』ではシリアスな世界観に引っかかる。だから……『ダンジョン内に巣食う魔物は、大地の魔力の溜まり場から生じた仮初めの肉体であり、核を失うと速やかにマナに還元される』というバックグラウンド設定を今すぐ世界に適用しろ)
『完璧な理由付け(ロジック)です、マスター! 即座に世界観にマージ(統合)し、ルナ様の脳内知識(一般常識)としても展開します!』
この間、わずか一・五秒。
俺の裏での高度な要件定義が終わった直後、ルナが自信満々に答えた。
「えっと……魔物は大地の魔力から生まれた存在なので、倒して核を破壊すれば、光の粒子になって消えてしまうんですよね! そして、力の結晶である『魔石』や、一部の『素材』だけが残るんですわ!」
「正解だ。よく勉強しているな、ルナ」
「えへへっ、お兄様に褒められましたわ!」
俺がポンポンと頭を撫でてやると、ルナは嬉しそうに目を細めた。
(うむ。元気があってよろしい)
「魔石や素材は、冒険者ギルドで換金できる貴重な資金源だ。星鉄を買い取るためにも、取りこぼしのないようにしっかり回収していくぞ」
「はいっ! ルナ、お小遣い稼ぎ、頑張りますわ!」
俺たちは明確なモチベーション(金策)を胸に、意気揚々と北の廃坑への道を進んでいった。
◇ ◇ ◇
太陽が真上に昇り、さらに少し傾き始めた頃。
鬱蒼とした森を抜けた俺たちの前に、岩肌にぽっかりと開いた巨大な大穴――目的地である『北の廃坑』が見えてきた。
『マスター。目的地周辺に到着しました。しかし……入り口付近に多数の人間の生体反応(アクセス集中)と、何らかの障害物を検知しました』
(ん? なんだって?)
俺たちは歩みを緩め、木々の隙間から廃坑の入り口の様子を窺った。
本来なら静かなはずのダンジョンの入り口に、何やら物々しい雰囲気で集まっている冒険者たちや、武装した警備員の姿が見える。
「お兄様、あそこ……皆さん集まって、何かあったのでしょうか?」
「……どうやら、すんなりダンジョン探索とはいかないみたいだな」
俺は剣の柄に手をかけていたのを止め、小さく息を吐いた。
ガランド氏から調査を依頼されるほどの異常事態だ。入り口で何らかの入場制限がかかっていると考えるのが自然だろう。
「よしルナ、まずは状況の確認だ。警戒しつつ、入り口まで行ってみよう」
「はいっ!」
俺たちは顔を見合わせ、騒ぎの起きている廃坑の入り口へと慎重に近づいていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
道中、突如始まった「魔物を倒した後の死体はどうなるのか?」というテスト。
しかしその裏では、フォージによる「ルナの情操教育に悪いから、死体は残さず光になって消える仕様に変更しろ」というシステムへの強引な要件定義が行われていました(笑)。
こういう細かいゲーム的な都合に、しっかりとした世界観の理由付けを行っていくのがフォージの流儀です!
そしてついに、テスト環境である「北の廃坑」に到着……と思いきや、入り口はなんだか物々しい雰囲気に包まれています。
次回、足止めを食らう冒険者たちを前に、フォージが取った行動とは!?
「システムへの無茶ぶりが面白い!」「ルナのドヤ顔が可愛い!」「入り口の騒ぎが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひ下の【☆】から評価(RPカンパ)をお願いいたします!




