【第4章】第8話:通貨レートの罠と、星鉄(ベアメタル)の取り置き
いつもお読みいただき、ありがとうございます!第4章・第8話です。
市販の魔法剣(完成品)を辞退し、純粋な「素材」を求めて職人街の奥へと進むフォージとルナ。
しかし、ここでフォージは、RPGにおける最も恐ろしい『現実』に直面することになります……。
武具街の目抜き通りを北へと歩きながら、俺は冷や汗を拭った。
先ほどの店で売られていた『風断ちのレイピア』。店主は「破格だ」と笑っていたが、この世界の相場(物価)を正確に把握しておかないと、今後のプロジェクト資金がショートしてしまう。
(ゼノン。現在のこの王都の物価と、日本円への換算レートを算出してUIに表示してくれ。ギルドの前金が『銀貨五十枚』だったことも踏まえてな)
『了解いたしました、マスター! 市場の相場データから逆算した、現在の為替レート(対比表)を出力します!』
視界の端に、ゼノンが生成した通貨の換算テーブルがポップアップした。
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【王都通貨レート表(日本円換算)】
・銅貨 1枚 = 約 100円
・大銅貨 1枚 = 約 500円
・銀貨 1枚 = 約 1,000円
・大銀貨 1枚 = 約 5,000円
・金貨 1枚 = 約 100,000円
・白金貨 1枚 = 約 1,000,000円
※ギルド調査クエスト前金(銀貨50枚)= 約 50,000円
※先ほどの『風断ちのレイピア』(金貨30枚)= 約 3,000,000円
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(……さんびゃくまん、えん……)
俺は思わず天を仰いだ。
いくらルナの美貌と俺たちの堂々とした態度があったとはいえ、あの店主、俺たちに高級車みたいな値段の剣を平然と勧めてきやがったのか。
前金(予算5万円)で買えるわけがない。
「お兄様? どうかなさいましたの?」
「いや……あのレイピアは確かに良い剣だったが、俺たちの当面の活動資金じゃ、とても手が出なかったなと思ってね」
「ふふっ。でも、ルナは全然悔しくありませんわ! 完成された剣よりも、これからお兄様と一緒にゼロから探して育てるほうが、ずっとワクワクしますもの!」
(ルナの無邪気な笑顔に救われる。うむ、元気があってよろしい)
そうして雑談を交えながら進むと、やがて周囲は空気を震わせるような重い槌音が響くエリアに入り、目的の看板が見えてきた。
『炭まみれの金床』。
重厚な鉄の扉を押し開けると、むせ返るような熱気と、コークスが燃える強い匂いが俺たちを包み込んだ。
店の奥深くに鎮座する巨大な金床の前で、ひとりのドワーフの老人が黙々とハンマーを振り下ろしている。力任せではなく、素材の自立を促すような、極めて洗練された鍛冶の所作だ。
「冷やかしなら帰れ。ここは貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが、飾り物を買いに来る場所じゃねえぞ」
ドワーフの親方はハンマーを下ろし、ギロリとこちらを睨みつけた。
「俺はバルドだ。で? 何万回と素振りを重ねてきたその立ち姿に馴染む、極上の『完成品』でも探しに来たか?」
「いや。バルド親方、俺が欲しいのは完成品じゃない。俺たちの手で一から鍛え、共に成長させていける……完全に純粋な『鉄のインゴット(素材)』を探している」
バルドはしばらく俺を睨みつけていたが、やがて「カハッ!」と腹の底から笑い声を上げた。
「ガッハッハ! 素材の可能性を引き出し、テメェの手で自立して育てることの重みを知ってる目だと思ったぜ!」
バルドは奥の金庫から、両手で抱えるほどの黒い木箱を取り出した。
中に納められていたのは、ただそこにあるだけで周囲の空気を歪ませるような、濃密な魔力を帯びた『青黒い金属の塊』だった。
「こいつは『星鉄』の純粋なインゴットだ。並の魔力を持った奴が触れりゃ、弾き飛ばされるか、魔力をごっそり持っていかれるじゃじゃ馬でな。今まで誰一人として、こいつに『触れる』ことすらできなかった」
俺は小さく息を吐き、昨夜ルナに教えた『ZONE』の呼吸法で己の波長を研ぎ澄ます。トール神から授かった雷の神威を一滴だけ指先に混ぜ込み、星鉄に触れた。
――スッ、と。
一切の反発なく、俺の指は冷たい金属の表面に吸い付き、青黒い表面に微かな銀色の脈動が走る。
「……なっ!? あの狂った星鉄が、お前の魔力に同調したってのか……!?」
驚愕するバルド親方をよそに、俺は確信した。こいつなら、どんな伝説の武器にも負けない最高の相棒になる。
「親方。俺が探していたのはこれだ。……だが、俺たちの全財産は銀貨五十枚ぽっちだ。絶対に買うから、俺たちが金を稼いでくるまで、この星鉄を取り置きしておいてくれないか?」
「ガッハッハッハッ!! 全財産銀貨五十枚で、金貨百枚(約1,000万円)は下らねえ星鉄の取り置きだと!? 図々しいにも程があるぜ!」
バルド親方は大笑いした後、「いいだろう!」と力強く頷いてくれた。
「どうせお前ら以外にこのじゃじゃ馬を手懐けられる奴なんざいねえ。いつまででも金庫で眠らせておいてやるから、死なずに稼いできな!」
「恩に着る。……それと、当面の仕事に使うための適当な武器を譲ってほしい。装飾も魔法もいらない。銀貨数枚で買える範囲で、頑丈なだけの鉄剣はないか?」
バルド親方はニヤリと笑い、店の奥から無骨な『1mほどの鉄の片手剣』と、飾り気のない『鉄のレイピア(細剣)』を無造作に放り投げてきた。
「見習いが打った失敗作(テスト用)だ。飾りっ気は一切ねえし、少々重いが、芯の通った頑丈さだけは保証する。二本まとめて銀貨五枚(約5,000円)で持っていきな!」
「助かる! ありがとう、親方!」
俺は1mほどの片手剣を、ルナはレイピアを手に取った。
見た目は黒ずんで不格好だが、手にしっくりと馴染む。前の店で見た『風断ちのレイピア』のような魔法の補正はないが、今のルナなら自分の魔力で十分カバーできるはずだ。
「ルナ、重くないか?」
「はいっ! 魔法の補助がない分、少しだけずっしりしますが……でも、これが『私とお兄様が、一から鍛え上げる剣』なんですね! とっても愛着が湧きそうですわ!」
ルナが嬉しそうに、無骨な鉄のレイピアを胸に抱きしめた。
まずはこのベアメタル(初期装備)で、北の廃坑の調査を乗り切るとしよう。
「よし、ルナ。武器の調達は完了だ。次は市場で保存食とバックパックを買うぞ」
「はいっ! お兄様とのお買い物、とっても楽しいですわ!」
俺たちは最高の目標(星鉄)の確保と、当面の相棒(初期装備)を手に入れ、炭まみれの工房を後にするのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
RPGあるある「序盤の店に売っている最強装備、高すぎて絶対に買えない問題」!
300万の魔剣に、1000万の星鉄(素材)。当面の活動資金が5万円しかないフォージたちには、到底手が出ない代物でした(笑)。
しかし、図々しくも清々しい交渉で星鉄の「取り置き」に成功!
さらには見習いの打った無骨な鉄剣(約5000円)を当面の武器としてゲットしました。
フォージは片手剣、ルナはレイピア。ここから二人の伝説が始まります!
「予算の絶望感に笑った!」「ドワーフの親方いいキャラ!」「星鉄ゲットに向けて頑張れ!」と思っていただけましたら、ぜひ下の【☆】から評価(RPカンパ)をお願いいたします!




