【第4章】第4話:二度目の性能評価(ベンチマーク・テスト)
いつもお読みいただき、ありがとうございます!第4章・第4話です。
見事な交渉術で軍資金と宿を確保したフォージ。
しかし、彼がギルドを出る前に切り出したのは、誰も予想していなかった「ある提案」でした。
「――それで、ギルドマスター。この後、少々お時間はありますでしょうか?」
革袋(前金)と宿の鍵を受け取った後、俺はガランド氏に向けて静かに問いかけた。
「お忙しければ、手の空いているベテランの冒険者の方でも構わないのですが……俺たち兄妹に、少しばかり『稽古』をつけていただきたいのです」
「ほう?」
ガランド氏が、面白そうに片眉を上げた。
「Bランクとして登録を済ませ、前金まで受け取った直後に模擬戦の要求か。よかろう、俺自身が相手をしてやる。お前たちの現在の実力を見極めておくのも、ギルド長の役目だからな」
「ありがとうございます。助かります」
俺が深く頭を下げると、背後でルナが「お、お兄様!?」と驚いたような声を上げた。
俺はルナを振り返り、優しく微笑みかける。
「心配するな、ルナ。今の俺たちに足りないもの……それを客観的なデータとして計測するための、実測試験だ」
かくして俺たちは、ギルドの裏手にある修練場へと移動した。
まずはルナの測定だ。
木剣を構えたルナが、気合と共にガランド氏へと打ち込んでいく。
速い。確かに、昨日ギルドの測定器を破壊したほどの圧倒的な魔力と身体能力だ。
「やぁぁっ!」
「ふむ。力は申し分ないが……直線的すぎるな」
だが、ガランド氏はその猛攻を最小限の動きで軽々と捌き、ルナの体勢を崩していく。
数合も打ち合わないうちに、ルナは息を弾ませて尻餅をついた。
「くっ……。お兄様、ごめんなさい。全然攻撃が当たりませんわ……っ」
「気にするな。現状を確認できただけで十分だ」
俺はルナに手を差し伸べ、立ち上がらせる。
「お前は今まで、力に振り回されていたんだ。基礎から学び、高みを目指せばいいだけさ」
俺がそう告げると、ガランド氏も深く頷いた。
「その通りだ。基礎の型ができていない。だが、磨けばとんでもない光を放つ原石だぞ」
「ええ、俺の自慢の妹ですから。……さて、次は俺の番ですね」
俺は木剣を拾い上げ、ガランド氏と対峙した。
「お願いします。ご指導よろしくお願いします」
その瞬間、脳内でゼノンが張り切った声を上げる。
『マスター! 私の出番ですね! 戦闘支援ARモード、起動! 相手の筋肉の動きから攻撃の予測軌道を視界にオーバーレイ表示します!』
視界に緑色の予測線が幾重にも重なり、ガランド氏の次の動きを計算して表示する。
俺はARモードを受け入れて、予測に合わせて木剣を振るった。
「シッ!」
「ぬおっ、良い踏み込みだ。だが!」
ガランド氏の重い反撃が来る。ARの予測線は正確だった。
だが――神々による『レベルシンク(下方修正)』を受けた今の俺の身体能力は、完全なBランク相当。
歴戦のギルド長であるガランド氏の圧倒的な膂力と踏み込みの速度に対して、視覚情報(UI)を見てから動いたのでは、物理的に対応が間に合わない。
俺は防戦一方に追い込まれ、前半の打ち合いで完全に「負け越し」の状況を作らされていた。
(……ARモードのチェックはOK。さてっと)
俺は一度間合いを取り、大きく息を吐いた。
『ど、どうしてですかマスター!? 私の予測軌道は完璧なはずなのに、なぜ反応が遅れるのですか!』
(お前の予測が悪いんじゃない。今の俺の身体スペックで格上の攻撃を捌くには、視覚情報(AR)だけに頼ってはダメなんだ)
俺は木剣をだらりと下げ、目を閉じた。
視界を埋め尽くす緑色の予測線を遮断する。
(ゼノン。ARモードを切れ(オフ)。視界のUIをすべて非表示にしろ)
『ええっ!? で、ですが、それじゃあ私のサポートが……!』
(いいからやれ。ここからは――俺の『時間』だ)
視界から予測線がふっと消え去る。
静寂。足元の土埃の匂い、微かな衣擦れの音、相手の体温が発する空気の揺らぎ。
――全神経(五感)が、際限なく周囲へと拡散していく。
「……ほう。空気が変わったな」
ガランド氏が目を細めた。俺は無言で地を蹴る。
「ハァッ!」
ガランド氏の「次の動き」を肌で感じ取る。
圧倒的な膂力による上段からの振り下ろし。
その軌道を『少し先の未来』を見るように完全に読み切り、俺は最小限の動きで木剣を滑らせていなす。
ステータスの差など関係ない。
その刹那、ガランド氏は隙ありとばかりに、俺の頭を水平立ちで切り払ってくる!
「……隙ありだ!」
その場の誰もが決まると思った一本は、誰もいない空間を切った。
俺はその動きを先読みし、深く沈み込んでいたのだ。
下段から上段への跳ね上げ斬り。その剣は、ガランド氏の顎先でピタリと静止した。
「……やるな」
ガランド氏の言葉を聞いた瞬間、俺は木剣を杖代わりにして、その場にガクンと膝をついた。
「はぁっ……はぁっ……! い、いえ……大変勉強に、なりました……」
全身から滝のように汗が吹き出し、息が激しく乱れる。
極限の集中力で五感を拡張し、膨大な情報を処理し続ける俺の戦い方は、精神力の消費が尋常ではない。たった数合の打ち合いで、スタミナは完全に底を突いていた。
「……ふん、言ってくれる。色々と試していただろ。試したいことは確認できたか。」
ガランド氏が、心地よさそうに笑い声を上げた。
「…はい、おかげさまで。ありがとうございました。」
俺が荒い息を整えながら木剣を下ろすと、脳内でゼノンが大パニックを起こしていた。
『ど、どういうことですかマスター!? 私のAR解析をオフにした後半の方が、圧倒的にパフォーマンスが上がっています! 私のサポートは……邪魔だったということですかぁぁっ!?』
(……ちょっと待ってろ、後でちゃんと説明してやるから。泣くな)
脳内で涙目になっているおっちょこちょいなAIを宥めつつ、俺は重い身体を引きずってガランド氏に深く一礼した。
「うむ。お前たちなら、北の廃坑の異常も解決できると信じているぞ。期待している」
ギルドマスターに丁重に挨拶を済ませ、俺たちはギルドを後にする。
向かう先は、先ほどの交渉で手に入れた当面の開発拠点――ギルド提携の宿舎だ。
まずはあそこで、テンパっているゼノンの疑問を解消してやらなければならないな。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ギルドマスターとの模擬戦。
強大な力に振り回されていたことが露呈したルナ。
そして、自らシステムによる予測(AR)を切り捨て、格上のギルドマスターに見事一本を入れたフォージ。
一体どんな方法でガランド氏の動きを見切り、そしてなぜそこまで疲労したのでしょうか?
次回、宿舎にてフォージ(と、ひょっこり現れるあの神様たち)による「勝因分析」が始まります!
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