【第4章】第3話:フリーランスとコンプライアンス(あるいは正当な交渉)
いつもお読みいただき、ありがとうございます!第4章・第3話です。
軍資金とより良い環境を求めて、再びギルドへ乗り込むフォージたち。
ゼノンからは物騒な提案が飛び出しますが、歴戦のエンジニアが選んだ「交渉術」とは果たして……。
王都の冒険者ギルド。その重厚な扉を開ける直前、俺の脳内でゼノンが鼻息荒くホログラムを明滅させた。
『マスター! ギルドマスターから直接受けた【北の廃坑】の異常調査クエスト! あれが『影の宰相(特大のバグ)』に繋がる超危険案件だと分かった今、これを盾にしてギルドから前金をたっぷり「ふんだくり」ましょう!』
(馬鹿を言え。俺はプロジェクトマネージャーであって、山賊じゃないぞ)
『えっ? で、ですが、開発資金がなければ武器は……』
(ゼノン。お前、2026年1月に施行された『取適法』を知らないのか?)
『と、とりてきほう……? 新種の魔法ですか?』
(中小受託取引適正化法だ。下請けや個人事業主が不当な買いたたきに遭わないよう、一方的な代金決定を禁じ、適正な協議を義務付けた法律だ)
俺はギルドの扉に手をかけたまま、呆れたように支援AIを諭す。
(俺たち冒険者は、不当に相手を脅してふんだくるような真似はしない。そんな非合法なやり方では、長期的な信頼を損なうだけだ。俺がやるのは恐喝じゃない。リスクの再評価に伴う、正当かつ合法的な『価格交渉』だ)
『ははぁーっ! 流石はマスター! コンプライアンスの遵守すらも交渉の武器にするのですね!』
ゼノンが謎の感動に包まれているのを放置し、俺はルナを連れてギルドの中へと足を踏み入れた。
カウンターに立つと、昨日対応してくれた受付嬢が、ルナの顔を見るなり「ひっ」と肩を揺らした。
「あ、昨日の……規格外のSランクを出された……っ!」
「その件で、呼び出されたんだ。精密鑑定機を取り寄せるから後日来てくれとな。準備はできているかな?」
俺は真顔で、昨日の帰り際にそんな約束をしたかのように告げた。
受付嬢が「えっ?」と瞬きをした直後、ギルドの奥から野太い声が響いた。
「おお、よく来てくれたな! 精密鑑定機の準備はできているぞ」
姿を現したのは、筋骨隆々のギルドマスター、ガランド氏だ。
俺の放った言葉をシステムが『過去ログ』として正しく処理し、矛盾のないようにシナリオを動的生成してくれたらしい。
『さ、流石ですマスター……! 息を吐くように自然なシナリオのハッキング!』
「お忙しいところ、お時間をいただき恐縮です、ガランドさん」
俺はゼノンの称賛を無視し、ギルド長に対して社会人らしい丁寧な敬語で頭を下げた。目上の人間(決裁権を持つクライアント)に対する礼儀は、円滑なプロジェクト進行の基本だ。
その後、奥の部屋に通された俺たちは、ガランド氏立ち合いのもとで『精密鑑定』なるものを受けた。
結果は当然、俺が神に要請したレベルシンク(下方修正)の通り、俺もルナも『Bランク相当』と判定された。
「ふむ……Bランクか。昨日の騒ぎはやはり、古い測定器の故障だったようだな。だが、お前たちの身のこなしや魔力の練度……特例でAランクとして登録してもよいぐらいだが」
「いえ、滅相もありません。俺たちはまだまだ発展途上の身。まずはBランクから、堅実に経験を積ませていただきたく存じます」
俺がやんわりと辞退すると、ガランド氏は「そうか。お前がそう言うなら、Bランクとして正式に登録しておこう」と深く頷いてくれた。よし、これで厄介な注目を集めるバグ(Sランク騒動)は完全に修正完了だ。
「ありがとうございます。……それより、本日は折り入ってご相談が。昨日直接依頼された【北の廃坑】の調査クエストについて、お話があります」
俺は背筋を伸ばし、本題(価格交渉)を切り出した。
「実は、王都へ来る道中、魔物の被害に遭った村の復興支援に手持ちの資金を全額寄付してしまいまして……。お恥ずかしい話ですが、現在は王都一番の安宿に泊まっている有様なのです」
「なんと……! 己の身より他者を優先するとは。勇者としての高潔な振る舞い、感服するが……それでは調査の準備に困るだろう」
「ええ。対象が未知の異常現象である以上、これは単なる討伐とは根本的にリスクが異なります。調査を確実なものにし、ギルドの不利益を防ぐためにも、相応の装備を整える『着手金(前金)』を頂けないかとご相談に上がりました」
相手の不利益を提示しつつ、費用対効果の合理性を説く。
俺の丁寧なプレゼンテーションに、ガランド氏は腕を組んで深く頷いた。
「また、良質な仕事には、良質な環境(開発拠点)が不可欠です。あんな安宿の寝床では、この子の体調にも関わります。ギルド直営の宿舎か、提携している安全な宿を当面の拠点として手配していただけないでしょうか?」
俺がルナの肩を引き寄せながら提案すると、ガランド氏は豪快に笑い声を上げた。
「ガッハッハ! いいだろう! そこまで見越しての直談判、見事なものだ。よし、特別調査費として前金を出そう。宿については、ギルドが懇意にしている中級の宿屋を手配してやる。食事つきで、冒険者にはうってつけの環境だ」
「ありがとうございます。ご期待に沿えるよう、尽力いたします」
俺は深く頭を下げ、ガランド氏と固い握手を交わした。
『ま、マスター……! 言葉はひたすら丁寧でしたが、やってることは見事な条件交渉……いえ、パーフェクトなビジネスですね!』
(だから、正当なビジネスの権利だと言っているだろう。……さて、これで軍資金と拠点が確保できた。)
俺は渡されたずっしりと重い革袋(予算)を手に、不敵に笑った。
コンプライアンスを守り、相手に納得させながら、きっちりと予算と福利厚生を確保する。これが大人の冒険の基本だ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ゼノンの物騒な提案を「取適法」で論破し、受付嬢を脅すのではなく、責任者であるギルドマスターへ直談判に向かったフォージ。
相手を立てる丁寧な敬語、相手のメリットを提示する交渉術。ファンタジー世界でも、彼のPMとしての社会人スキルは完璧に機能していました!
Sランク騒動も「精密鑑定でのBランク着地」という形で、見事な火消しに成功です。
軍資金と福利厚生(良い宿)を正当に獲得したフォージたち。
次回、確保した予算を握りしめ、いよいよ武器屋へと向かいます!
▼「面白かった!」「フォージの交渉術、仕事の参考になる(笑)」「ルナが高待遇でよかった!」と思っていただけましたら、ぜひ下の【☆】から評価(RPカンパ)をお願いいたします!




