【第3章】第4話:鮮やかなる過去改変、あるいは強引な要件定義
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
前回、見事なマネジメント能力でサポートAI・ゼノンを立ち直らせたフォージ。
しかし、いざ「本当のメインシナリオ」のタスクを確認してみると……?
ITエンジニア(と歴戦のTRPGプレイヤー)の、息を吐くような「仕様のでっち上げ」をお楽しみください!
「わかった、わかったから。視界をジャックするな。……それで? 気を取り直して、当初の目的である『勇者の兄貴』の全物語を改めて読み込んで、俺たちの課題に落とし込んでみてくれ」
「はいっ! メタ的なシステム管理のタスクを除外し、現在我々が保有している『本編シナリオ』の確定情報のみで純粋な進行計画を構築します!」
ゼノンは涙を拭い、ビシッと敬礼すると、空中に新しいウィンドウを展開した。
先ほどのギッシリ詰まった裏設定のリストとは打って変わり、今度は非常にシンプルなテキストが浮かび上がる。
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【事業:勇者の兄貴(本編シナリオ)】
最終目標:魔王の討伐、および世界平和(※詳細な要件定義なし)
■ 現在の進捗
・初期拠点(始まりの街)への到達 …… [完了]
・冒険者ギルドへの登録 …… [完了]
■ 次の課題(※現在判明している確定情報のみ)
・なし(※現在受注している依頼はありません)
・なし(※向かうべき次の目的地・道標がありません)
・なし(※魔王の所在地、戦力、目的など一切の情報がありません)
※警告:
現状、メインシナリオに関する要件が極端に不足しています。
物語の全体進行度は実質【 0.01 % 】です。
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「…………」
俺は空中に浮かぶ、見事なまでにスカスカなリストをじっと見つめた。
昨日ガランドと木剣で戦ってギルドに登録しただけで、俺たちの冒険(本編)はまだ1ミリも進んでいなかったのだ。
「……お兄ちゃん? どうしたの、さっきから空を睨んで……」
不思議そうに小首を傾げるルナの声に、俺はハッと我に返った。
(……タスクがないなら、俺がこの場で『要件定義』してやるしかない)
俺は視線だけを動かし、ゼノンへ念話を飛ばした。
『ゼノン、GMに連絡しろ。俺に話を合わせろ、と。それだけでいい』
『……え? は、はい。直ちにバックグラウンドでGM様と通信を接続します』
ゼノンは不思議そうにしつつも指示に従った。
よし、これで裏側へのパイプは繋がった。
俺は大きく息を吸い込み、歴戦の冒険者らしい最高の役割演技を開始した。
「ルナ。いや、ちょっとここまでの冒険を思い出していたところだ」
「ここまでの、冒険……?」
「ああ。思えば遠くまで来たものだな。極東を出て、ここの大陸に到着し、魔王の情報を集めつつ……被害にあっている街に着くなり、お前は被害者救済すると言い出して。俺たちの資材を投げ打ってまで、町の復旧にあたったっけな」
俺はルナの目を真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと語りかける。
視界の端で、ゼノンの顔色が「そんなイベントありましたっけ!?」と驚愕に染まっていくのが見えたが、無視だ。
「そのせいで、町一番のぼろ宿に泊まる状態になったが……後悔せずにすんだよ。お前のおかげだ」
「…………っ!!」
ルナの顔が真っ赤に染まった。
彼女のAI(脳内)で、今俺が語った『存在しない過去の記憶』が、驚異的な速度で自動生成・統合されているのが手に取るようにわかる。
「えへ、えへへ……。だ、だってぇ、困ってる人を見捨てるなんて、わたし、できないよ……っ!」
ルナが照れ隠しのようにモジモジと身をよじった。フロントエンド(ルナの認識)の同期は完了だ。
そしてバックエンド(世界の設定)では、俺のこの何気ない会話によって、凄まじい仕様変更の嵐が吹き荒れていた。
『マ、マスター……っ! GM様が今、大慌てで『極東出身』と『復興支援で金欠』という設定をデータベースに書き込んでいます!』
ゼノンからの念話を既読無視し、俺はさらに畳み掛けた。
設定の上書きは、相手がノッている今が最大のチャンスだ。
「しかし、魔王軍は強大であり、大群だ。俺たちが立ち向かうのは、少数の魔物じゃない。個人の力ではなく、組織の力が必要になる。わかるな」
「うん……わかるよ」
「ルナが強いのも、俺が強くなったのもわかる。だが、数万の軍勢を前にして、俺たち二人だけで全ての人を守りきれるわけがない」
「……お兄ちゃんの言う通りだよ。いくらわたしたちが強くても、手が足りなければ、きっと悲しい思いをする人が出ちゃう……っ。そんなの、絶対に嫌だ!」
『……マスター! ルナ様が同意したことで、今後マスターが『敵の施設を制圧して拠点にする』ことや『モンスターを自軍に加える』ことに対する、強固な大義名分(正当性フラグ)が成立しました!』
(ふっ。計画通りだ)
俺は内心でガッツポーズをした。
これで、「ただ敵を倒す」だけのゲームから、「敵のリソースをハッキングして奪い取り、自軍を構築する」という俺の得意な戦略に持ち込める。
「だからルナ。俺たちはまず、俺たちだけの『力』を、そして戦力を整えるための『準備』を始めなければならない」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
シナリオ(仕様書)が空っぽなら、口八丁で過去ログを捏造し、システムに無理やりパッチを当てさせる……!
「極東出身」という咄嗟の言い訳と、「ボロ宿スタート」という謎設定が、まさかの「人助けの結果」という感動エピソードに書き換わりました(笑)。
炎上プロジェクトを乗り越えてきた40代PMの、恐るべきアドリブ力です。
次回は、さらに残った伏線を「神々の降臨」によって一気に回収します!
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