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22. 運命への反逆 その前触れ

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「諦めてたまるかよ!

ユリシアのいない異世界なんてクソだ!

生まれ変わった意味なんてないね!

そんなの死んだ方がマシだ!

うおおおおお!!!!」


俺は無謀にも剣を振り続ける。

それを辛そうに見るユリシア。


再び俺の剣先がジャイアントエイプの毛を散らす。

しかし、皮膚には一切ダメージが入らない。

辺りに虚しく漆黒の毛が散らばっていく。


ジャイアントエイプは愉快愉快とばかりにその様子にほくそ笑んでいる。


「クソッ……! バケモノが…!!」


事態は一刻を争う。

今は俺たちを弄んでいるこの巨体が気まぐれに手に持ったユリシアを口に入れたが最後、一貫の終わりだ。


「こんなのっ……! どうすりゃいいんだよっ!!」


こんな上等な剣で一切攻撃が通らないなんて……!

俺自身、こうして自分の腰ほどはある丈の剣で斬りかかるのなんて初めての経験だから、すでに腕から先が木の棒なんじゃないかってくらいに麻痺してきた。

持ち続けるのだって一苦労だ。


だが、今の俺にはただの鈍器に成り下がったこいつを目の前の下衆猿目掛けて振りかぶる以外出来ることはなかった。


第三者視点から見ればさぞ滑稽だろう。


それでも俺は天変地異でも起きてこの戦況が変わり、目の前の少女を救う希望にすがるしかないのだ。


ユリシアが喰われる。

なんのため?

この猿の腹を満たすためにか?

いつもの照れ顔、不意に見せる笑顔。

俺にとってそれはかけがえのないものになっていた。


だから、どうにかしてでも、ユリシアを……。

神様、ユリシアを、返してくれ……。


その俺の思いと裏腹に硬質の皮膚に激突するたび剣は目に見えるまでに欠けていく。


絶望へのカウントダウン。

いつのまにか俺の握っていた上等な剣は、単なる石の棍棒に代わっていた。


そして、俺との戦闘ごっこに飽きてきたジャイアントエイプは片足を動かし、そして……。


「!?」


その足は俺の胴体にクリーンヒット。

空中に投げ出された俺は、その推力のまま洞窟の壁に叩きつけられた。


「ぐごっ?! グフッ……!」


身体中が痛い。

剥き出しの岸壁にめり込まんばかりに当てられた俺はその一撃で体全体が悲鳴を上げる。

もはやどこが怪我をしているかなんて判断できないほどにさまざまな部位に激痛が走る。


そのまま、俺は地面に無惨にずり落ちていった。


「……!! はいとさん!!!!」


ユリシアの心配の声が聞こえる。


よかった。

まだ喰われてないな。

こうして俺が痛めつけられることで少しでも時間が稼げたら……国の騎士団がユリシアだけでも助けに間に合うかもしれない。


いや、それは単なる現実逃避だ。

実際問題、こんな辺境の地に国騎士団が援護に到着するまで、一体どれだけの時間がかかるだろうか。

ここは俺が元々いた現代日本じゃないんだ。

大したインフラも敷かれていない発展途上の中世。

いくら頼りになる騎士団とはいえ、彼らも身は一つしかない。

他の厄介ごとに出向いている可能性もかなり高いし、本当に助けは来るのだろうか。


団長のオスフェルは信頼が置けそうだが……。


つまり、俺がここで負けてしまっては十中八九ユリシアの命はない。


……そうだ! ダクトから貰った緊急用の紋章があった!

これを使えば……!


俺はポケットを弄る。

そして、気付く。

さっき壁に打ち付けられた時にお札はボロボロに引き裂かれていたことに。


「……なんなんだよ。これが運命とでも言うのかよ……」


ジャイアントエイプは俺にとどめを刺しはしない。

この下衆ザルのことだから、目の前でユリシアを喰う様を俺に見せようとしているのだろうか。


許せない。

自分の無力が、この世の摂理が、理不尽が。


体がもう動かない。

座り込んだままもう立てない。


「待っ……てろ…、ユリ……シア……、いまっ、おれが……たす…けて……」


肺が潰れたのだろうか。

言葉がうまく喋れず発音するたびにズキズキ胸が痛む。

そして、そうして苦労して発した言葉もあまりにも小さすぎてユリシアの耳には届かない。


薄目で彼女の方を見る。


涙をボロボロと流し、疲れ切っている様子の儚げな表情で巨大な口に押し込まれるのを待っている。


だめだ。

ユリシアが喰われる。

俺の、俺にとっての大切な人が。


俺の……ママが……。


は?


俺は今虚な頭で何を思った?


ユリシアがママ?


スキル"幼児退行"のせいか。

こんな時にも俺はこのクソみたいな特殊スキルの弊害から逃れられないのか。


そうだ。

こんなことになったのだって、全てはこの幼児退行のせいなんだ。

俺がユリシアにママ扱いで突然襲い掛からず、ユリシアが俺に再び会おうと森に出なければこんな状況にはならなかったんだ。


最後の最後まで、俺はこのスキルの毒手の中なんだな。


クソみたいな前世、クソみたいな天界、クソみたいな女神、そして、クソみたいなスキルからのクソみたいな最後。


なんだよ。

最低じゃないか、俺の異世界人生。


ユリシアがママ……か。


もし、この異世界での人生をやり直せるなら、今度はユリシアみたいな優しい女の子のちゃんとした子供として生まれ変わりたいな。


笑顔の絶えない、幸せな家庭。


ユリシアの顔を見て朝を迎え、一日中ユリシアに抱かれ、ユリシアからミルクを貰い、幸多いまま寝静まる。


ああ、なんて幸せなんだ。

ユリシアの子として生まれた人生は。


ユリシアの赤ちゃんになれたら。

俺が、ユリシアの赤ちゃんになれたら、こんな体の痛み……。


!?


その時、俺は気付いた。


腕が……さっきまで潰れていた腕が、動くようになっていた。

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