21. 心の叫び
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「はいとさん、私、あなたが思っているよりもかなり変な子なんですよ?
でも、それが伝えられてよかったです。
最後に私をもっと知ってもらえて。
それだけが、私の心残りでしたから」
いつまでも、彼女は微笑んでいた。
ユリシア、お前がそんなことを言ったら、俺がこのまま見捨てて逃げるのが当然のようになってしまうじゃないか……!
そんな分けない……っ。
そんなの、あっていいわけ、ないだろ。
俺は宙に舞うユリシアの顔を見つめ続ける。
俺は気付く。
その穏やかな笑みの中に、確かな恐怖が秘められていることに。
死への恐怖、全てを失うことへの恐怖、それが確かに見えた。
「嘘だな……嘘だ!!!!」
俺は張り裂けんばかりに叫ぶ。
「……!?」
その様子にユリシアはビクッと体を跳ねさせる。
「ユリシア、君は今、ただ死を受け入れるために必死になっているだけだ。
それはきっと俺のためなんだろうな。
俺がユリシアを守るために戦い、代わりに死ぬのを防ぐために。
……優しすぎるのは君のほうだよ」
ユリシアは全力で否定する。
「ちっ……違いますっ……。
私のことはもういいんですっ……。
だからはいとさん、あなたはここから逃げてくださいっ……!」
「そんなの強がりだって、今の君を見たら誰だってわかるよ。
そんなに一生懸命泣いてるじゃないか」
ユリシアはそう言われて、自分自身の涙が止まらないことに初めて気付いたようだ。
なんとか押し込めようと健気にも両手で瞳を覆い尽くす。
「ひ、……ひどいですっ、はいとさん。
私、もう決心がついていたのに……。
あなたの顔を見てからっ、涙が……止まらなくてっ」
ユリシアはダムが決壊したかのように一気に泣きじゃくる。
それは年相応のどこにでもいる普通の少女だった。
さっきまでの悟りを開いたかのような顔の面影はもうどこにもない。
「ユリシア、村の人も俺も、みんなお前のことが大好きなんだよ!
お前だって好きだろ?!
なんでもない村での生活。
家族団欒のリビング。
違うか?!」
号泣するユリシアはなんとかして言葉を紡ぐ。
「うぐ……、好きです…大好きです」
俺はユリシアに手を差し伸べ笑みを見せる。
「そうだよな。
……さあ、帰ろう。
俺たちの家へ。
お前が犠牲になることなんてないんだ。
俺を信じて」
ユリシアは涙でずぶ濡れになった手を俺の方へゆっくりと伸ばす。
「……帰りたいっ。
お家に、帰りたいですぅ」
ユリシアは自分の泣き顔を隠すことはもうせず、ぐしゃぐしゃになったその顔を曝け出していた。
すると、まるでユリシアの泣き顔を待っていたように、さっきまで妙に律儀に俺たちの会話を待ち静止していたジャイアントエイプが雄叫びを上げる。
「ウフォー!!
ウッホウッホ、ウッホウッホ」
それはまるで俺たちの心の触れ合いを嘲るかのように野蛮で無遠慮な鳴き声。
そうしてユリシアを握る腕を大きく上下に揺らし出す。
「ユッ、ユリシア!!」
「ううっ、うっ。
はいと……さん……」
ジャイアントエイプの母親はニヤニヤと笑っていた。
まさかこいつ、ユリシアが泣き出すまで捕食するのを待っていたのか?!
「こ……のっ、クソ猿っ!!!!」
殺意のこもった目で目の前のデカブツを睨みつける俺。
「ウホッ、ウッホ、ウッホッホ」
それに反応するようにリズミカルな鳴き声で俺を煽るジャイアントエイプ。
外道がっ!!
こいつ、子を守る純真な母猿なんかじゃ一切ない。
ただ、殺戮を楽しむ正真正銘の魔物だ。
そして、何もできずに立ち往生している俺に対し、ジャイアントエイプはユリシアを口元に近づけ出した。
「させるか!!
この野郎!!!」
この場に備え村一番の鍛冶屋から貰った剣を構えてジャイアントエイプ目掛けて突進する。
それに気付いてもなお、相手は構えもしなかった。
俺は剣を縦に振り思いっきり奴の右足に振りかぶる。
ザクッ。
刃が入ったのは毛だけ。
その先にある皮膚にあたると鋼のような感触を感じた後、完全に俺の剣を跳ね除けた。
「なっ、なんだこれ?!
こいつ、本当に生き物かよ?!」
ユリシアはその様子を悲しそうに見ていた。
「いいんです……。
魔物とはそういうものなんです……。
常人の我々には歯向かうことさえ許されない、神のような存在ですから……」
神?
この性悪のクソ猿のどこが神だ。
ただ図体がデカくて皮膚が鬼硬いだけの、ただの獣。
そうに決まってる。
「はいとさんの気持ち、本当に嬉しかったです。
もう私のことはいいですから……あなただけでも……」
「諦めてたまるかよ!
ユリシアのいない異世界なんてクソだ!
生まれ変わった意味なんてないね!
そんなの死んだ方がマシだ!
うおおおおお!!!!」
俺は無謀にも剣を振り続ける。
それを辛そうに見るユリシア。
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