19. 囚われのユリシア
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「グァガ……グァ……」
獣の鳴き声で目が覚めた。
辺りを見渡す。
とても暗く、広大な空間。
しかし、少し歩いた先から外の光が漏れていることから完全に外から隔絶された場所ではないことがわかる。
ごつごつとした地面から察するに、ここは何者かが意図的に掘った横穴なのだろう。
掘ったのはおそらく、私がさっき森で出会った正体不明の巨大生物。
そして、ここがその生き物の巣なのだろう。
そう考えれば全て納得がいく。
お姉ちゃんと別れて一人床に伏していた私ははいとさんのことが忘れられず、気づいた時には家を飛び出していた。
彼は旅人。
元々、いつまでも一緒にいられないことはわかっていた。
突然襲い掛かられ、確かに驚きはしたけれど……、それよりも私は彼がなぜ突然そんな行動をしたのか不思議で仕方なかった。
それが聞きたい。
なぜか豹変し、わたしとお姉ちゃんを襲ってきたはいとさん。
でも、私の目には彼が泣いているように見えた。
まるで、自分でも制御できない莫大な力に恐れ慄き、私たちにそれが行使されるのが耐えられないというように。
もちろんそれははいとさんのしたことなのだけど、その様子には今まで私が見てきた、あの、優しさに溢れ、引っ込み思案な私にも明るく話しかけてくれたはいとさんの姿はまるで重ならなかった。
もし、はいとさんが何かに行動を支配されて私にそうしてきたように他者を傷つけて、それで自分も傷ついているのなら、私はせめて理解してあげたい。
はいとさんが私のおいしくないパンを食べてくれたように、こんな口下手で何にもできない私にいつも優しくしてくれたように。
こんな別れ方は絶対に嫌だった。
ここでいなくなられたらもう二度と会えないように感じられた。
それで私はベッドから飛び起き、その足のまま彼の進んだ方向に森の深くまでかけた。
そして今、私の体を片手で覆い尽くす大きさのゴリラのような生物に私は握り潰されようとしていた。
その手に握られ、体は宙に浮いていた。
私、これで死んじゃうんだ。
せっかくはいとさんと二人でやった入学手続き、無駄になっちゃうんだな。
お姉ちゃん、悲しむだろうな。
パーティ、はいとさんと行きたかったな。
そう、頭の中を小規模な後悔が巡る。
私は昔からあまり多くを望まない子供だった。
ニーナお姉ちゃんに出会う前、施設にいた頃は、大体何をするにしても私が最後だったし、それを何とも思ってなかった。
ニーナお姉ちゃんとの生活が始まってからも、食べたいもの、欲しいもの、行きたいところなどをねだったことは一度たりともなかった。
学校に行くのだって、私が望んでいたわけではなく、学校側からの推薦だし、それで私が行くことになったらお姉ちゃんも喜ぶと思ったからだ。
私が今までの人生で望んだものはそんなにない。
だから、こうして死んでいくことに人並みの悲しみ・後悔・苦痛を私が持ち合わせているのか、あまり自信がない。
なぜなら、私はすでに満足しているから。
宙に浮く視点から足元を見る。
私を掴む腕の主をそのまま小さくしたような小猿(それにしても普通の成体のゴリラくらいの大きさはある)が5、6頭、自分の母親に空腹を訴えるようにキイキイと鳴いている。
私の持ち主はその声を宥めるようにまたは申し訳なさそうに低く鳴く。
そうか。
この大きな猿はお母さんなんだ。
こんなに大きな生き物たちだから生き残るにはたくさんの食べ物が必要だろう。
それで私がその餌食になったわけだ。
私が食べられることでこの微笑ましい猿の親子の空腹がしのげる。
そう考えると、それでいいような気がしてきた。
でも、それでも……。
一つだけ心残りなことがある。
「はいとさんとあと一度でいいから話したかったな……」
その時、洞窟の入り口の方から声が聞こえてきた。
それは死に物狂いの……全てを曝け出したかのような絶叫。
「………ア……、……シア……、…リシア……。
ユリシアー!!!!!」
はいとさんだ。
はいとさんの声がする。
確かに、これは幻聴じゃない!
「は……はいとさん……!!」
彼の顔が見えた。
外からの逆光を浴び、私を明るく照らす。
「ユリシア…!! 助けに来たぞ!!」
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