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13. 俺が俺じゃなくなる。

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俺とニーナ、そしてユリシアの頭上へ浮かび上がる巨大なアヒルのおまる。

涙によって形成され、透明なそれは周りの木々よりも高くどんどん昇っていく。


「はいとあんた、こんなごっつえらい魔法使えたんか?!

何するつもりやお前!」


俺たちを飲み込む大きさのそれに怯えを隠せないニーナ。

とにかく妹を守ろうと、ユリシアを抱える腕に力を入れる。


俺はそこで起きている異様な光景をただ見ることしかできない。

だが、もし声が出せるならこう伝えたい。


ニーナ、ユリシアを連れてとにかく逃げろ。


俺は俺自身の力を全く理解していない。

あの大ガエルを閃光をかざすのみで骨も残らないほどに溶かした。

そんな化け物みたいな力。

一体これからどんな惨劇が繰り広げられるのか、俺自身も全く予想できないのだ。

だから、とにかく逃げてくれ。

俺は2人を、風来坊の俺を快く受け入れてくれた2人を少しでも傷つけたくないんだ。


「ばーーーーぶーーーー!!!!!!!!」


そう赤ん坊である俺が叫ぶと、アヒルのおまるの口からものすごい勢いで透明な液体が放出される。

その様は、消防車の非じゃない。

家屋が吹き飛ぶほどの勢いの水鉄砲。

あれも全部、俺自身の涙だって言うのか?!


「くっ! こんのっ!」


ニーナは青い火炎をバリアとして展開し、その水攻撃に挑む。


水と火、2つの対になるパワーがぶつかり、お互いを蹴散らそうと周囲に火花と水しぶきを散らす。

しかし、その勝敗は火を見るよりも明らかだった。

ニーナの繰り出した青い炎は少しずつ勢いを落とし、水鉄砲はニーナたちとの距離を少しずつ縮めていく。


「なにをしとんのやっ! はいとっ!

お前、そんなやつやったんかいな!」


ニーナは泣きそうになりながら抜け殻の俺の目を見る。


「うちら、あんだけ楽しく暮らしてたやんか!

お前、ユリシアにあんだけ優しくしてくれてたやんか!

なにがあったんや! はいとぉ!!」


ニーナの言葉、その一言一言が俺にぐさぐさと刺さってくる。

そうだ。

俺はニーナとユリシアをこんな風に苦しめたくない。


「お前、ユリシアがお前のことどう思っとったか、わからんのか!!」


ニーナの目に涙がにじむ。


「あの子はなぁ、……お前のこと……」


ニーナはキッ、と目をかっぴらき、俺を睨みつけ最後の力を振り絞る。


「こんの、大バカヤローー!!!!!!!!」


火の勢いが少し戻ってくる。

が、次の瞬間には水鉄砲の威力に負け、萎縮していく。


駄目なのか……。

ニーナ、頼む。

ユリシアを守ってくれっ!


俺の想いは一切赤子には届かず、水鉄砲はニーナの火を全て飲み込み、二度と灯ることはなかった。


そして、ニーナ目掛けて向かっていった、その時。


「もうやめてください、はいとさん……!」


この声は、ユリシアの声……!


「ユリ……シア……」


その声を聞いた俺はなんとか我に返る。

そして、ニーナに衝突する直前だった水は勢いが止まり、そのまま重力を取り戻し地面に流れ落ちていった。

空中に浮かぶ大きなおまるも形を保てずに俺たち3人にスコールのように降りかかる。


「……」


ユリシアは無言で俺を見つめる。

その目は恐怖と不安と悲しみに満ち溢れていた。


「……すまなかった……」


こんな言葉で許されるわけがないのは分かっているが、今の俺にはそれしか言う言葉がなかった。

四つん這いの状態から自力で立ち上がる俺。

辺りは俺が出した涙でずぶぬれだ。

命の恩人にこれだけの甚大なる危害を加えた。

その事実が俺に重くのしかかる。

そして、立ち尽くすしかなくなった。


その様子を警戒しつつも不思議そうに見るニーナとユリシア。


「はいとさん、あなたは……」


ユリシアが続く言葉を考えるのを待たずに俺は口を開く。


「この一ヶ月、二人と暮らせて本当に楽しかった。見ず知らずの俺を受け入れてくれて、ありがとう」


「……」


ニーナは訝し気に俺を睨み続ける。


「もう2人には関わらない。約束するよ。この村を離れる」


「はいとさん……!」


ユリシアは俺を呼び止める。

こんな奴に情を出してくれるのか。

ほんと、悪い奴に騙されないか心配になるほどやさしいんだよな。

その目には涙がにじむ。


「さよなら」


そう俺は最後に吐き捨て、全力でピンプとの待ち合わせ場所である森の奥に走った。


ありがとう、ニーナ。

ありがとう、村のみんな。

そして、ありがとう、ユリシア。


こんな別れとなってしまったが、俺は二人への念を断ち切ることができた。


そうだ。俺は元々俺自身が患っている呪い解除のための冒険の停留地としてこの村にいただけなのだ。

だとしたら、何も問題はない。予定通りだ。


だが……、去り際に見たユリシアの顔が浮かぶ。

大きな瞳で悲しそうに俺を見続けるあの顔を思い出すと胸が張り裂けそうになる。


……いいんだ。もう忘れろ、俺。

全部幼児退行の呪いのせいなんだ。


この呪いを無きものにする。

そのための第一歩だ。


あふれる涙を必死に堪え、俺は足を速めた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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