12. 終わりの始まり。さようなら、愛しき人々。
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「お前、うちの可愛いユリシアに何晒しとんじゃ!!!!」
もはや理性を失った赤子と化した俺に飛び蹴りが炸裂する。
この声、ニーナか?!
「祭りの準備の合間に家に戻って来てみたらこれや。
あんた、人畜無害なふりしてユリシアを手籠めにする機会を伺っとったんやな……」
「……ぱいぱい?」
俺の姿をした何かはニーナの方を振り返る。
「このけだもの! ユリシアから離れろ!」
ニーナがそう言うと、地面に何やら赤い魔法陣が現れる。
そして、その魔法陣は俺を中心にロックオンする。
「こいつをくらえ! この変態!!」
夕方、仕事が終わりうちに帰ってきたユリシアが俺に見せた明るい姉のような微笑みはもうそこにはない。
妹を襲う暴漢に対しての冷徹な視線だけだ。
ユリシアとニーナと、まるで本当の家族のように過ごしたこの一ヶ月の日々の記憶。
それらがまるで走馬灯のように脳裏に浮かんでは色あせていく。
今この瞬間、俺の平穏な日々は完全に失われたのだ。
そう、そうだよな。
幼児退行の呪いなんて言うふざけたバフのかかっている俺が、ユリシアやニーナ、そしてダクトたち心優しき村のみんなの生活に存在してはいけなかったんだ。
俺が多くを求めすぎていたのだ。
いつかは当然来る崩壊を現実逃避していたにすぎない。
元々隠れ蓑として住まわせてもらっていた。
いつか、そう遠くはない日にここを離れる予定は当然あった。
だが、時たま思ってしまうのだ。
2人と暮らし、家族愛を感じて温かい布団で眠るこの生活、前世では味わえなかったこの生活が永遠に続けばなと。
そう、どうしようもなく思ってしまっていた。
でも、それは単なる夢物語。
現実を見れば当然だ。
ユリシアは優しくてかわいくてそれでもって勉学に秀でて都に行く存在。
俺なんかと関わるのなんて最初から間違いだったのだ。
だが、それでも……。
ユリシアの前だけはこんな姿、見せたくなかったな……。
まるでこの数秒が一生のように思えるほどに、俺はこれから俺自身がこの2人に拒絶される未来を受け入れられずにいた。
魔法陣から出てきたのは青い炎。
ユリシアを守るように俺とユリシアの間に割って入り、そのまま俺の全身を包み込む。
これが姉が妹を思う想いの強さか……。
「あうあー!!! あっちちゅー!!」
俺のガワを被った憎むべきクソガキは熱さに耐えかねてユリシアから退き、地面で悶えている。
いつの間にかオムツ一丁だ。
ニーナは気を失ったユリシアを抱きかかえる。
「参ったか! 二度と私たち姉妹に関わってくんな!! この痴漢!!」
憎しみに満ち溢れたニーナの声だ。
俺はこの2人にとっての害獣と化したのだった。
だが、ニーナには感謝しないとな。
だって、俺がユリシアの胸にひどいことをする前に俺を打ち負かしてくれたのだから。
それは俺にとって唯一の救いだった。
だが、それでもなお、俺の中の赤ん坊は治まらない。
俺の気持ちを後目にただただ怒りを蓄えている。
自分が母親だと感じた相手からの剥離。
赤ん坊にとって最も心細く耐えがたいことであって、それをした人間のことを敵だとみなす。
自分とママの間に入る敵。
なんとしてでも排除しなければ、そんな勝手な感情。
赤ん坊に理屈など通用しないのだ。
「う、うぅ……。ひっく、ひっく」
俺の形をした赤ん坊は成人男性の容姿であることを気にもせず、その成長しきった2つの瞳の奥から零れんばかりの涙をためていく。
そして、次の瞬間……。
零れた。
「うううああああああああああああ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!
まんまあぁあああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
地割れするかの如く強烈な鳴き声。
ニーナは何事かと目をむく。
「お前、ほんまにどうしたんや? 昨日までとまるで別人やないか!」
「ぱいぱぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!!!!!!」
泣き叫びながら自分の母を求める成人男性。
しかし、その鳴き声が単なる自己主張の域を超えたものであることが明らかになる。
何してんだ! 俺! 頼む、もうやめてくれ!
どれだけ俺が願おうと赤子には通じない。
涙は地面に落ちずに空中に浮かびあがり、その雫一粒一粒がお互いに吸収しあい、一つの形を形成していく。
そうして出来上がったものは、俺たち全員を飲み込むほどの巨大なおまるだった。
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