遠征旅立ち編番外編-2.ネボラの過去 その2
「ネボラ!?大丈夫かい!?」
「うん···。いんちょうせんせい」
「よかった···。どこもケガはしてないようですね···」
「うん···」
「あとは私に任せて下さい。あなたはみんなのところに」
「うん···」
私が誘拐犯を倒した直後ぐらいに院長先生がやって来たんだ。残念ながらもう1人の男は逃げたあとだったがね。
私が倒した男は院長先生が来た時も気絶していたので、院長先生はすぐにロープで縛って、翌朝に年長の子が憲兵に通報に走った。翌朝になっても男は意識は戻ってなかった。死んではいないはずなので大丈夫だとは思うが。
そして私は駆けつけた憲兵から事情聴取された。
「本当にこの棒きれでコイツを倒したんだね?」
「うん。みぎうでをたたいてひざのうらをたたいてたおれたところでかおをけった」
「そうか···!よくやった!でも危ないから普段はやっちゃダメだからね」
「うん」
「しかし···、キミの頭の中に聞こえた声がそうやれ!って言ったんだね?」
「うん」
「···これはどう調書を書いたらいいんだろうなぁ〜?上司に怒られるかも···。でもそう言ってるんだしなぁ〜」
やはり憲兵に声の話をしても困ってたな。こればかりは仕方ない。
これが···、私が師匠と出会ったきっかけだったな。これ以降、師匠はたびたび私に声をかけてきて剣術について教えてくれたんだ。
『しっかりと体力をつけてるようですね。素振りはやってますか?』
「うん。なんかふってるときもちいい!」
『ははは!そうですか!どうやらあなたは剣と相性がとてもいいようだ。どうですか?剣術を極めてみようと思いませんか?』
「う〜ん···。きわめるとどうなるの?」
『向かうところ敵なしになりますね。まぁ、限度はありますが少なくとも襲撃されて死ぬことはないでしょう。自分の身を守る最高の技術ですよ』
「じゃあ、やってみる!」
『その意気ですよ。ではまずは振り下ろす際のコツですが···』
師匠はいろいろと教えてくれた。教えてくれたのは武術だけではなかった。武術を使う時の心構え、そして『これは本当に必要なのか?』といった知識まで···。
「師匠?なぜ武術に関係ないことまで教えてくれるのだ?」
『武術とは単に武器を振るうだけでは成り立ちません。どうしてそのように振るえばいいのか?これを知っていないと意味がありません。理とは、物事の本質を見抜き、そしてそこからどのように対応するのか?そしてこの『対応する』というのは膨大な知識の中から瞬時に選び抜いて使うということなのです。だからいろいろ知っていて損はありませんね』
「なるほど···」
『ちなみに今教えているのは『物理』という、武術以外の世の中の事象についての事なのですよ。物理、すなわち様々な物の理。これも武術には欠かせませんね。まぁ、こちらも武術と同様に極めれば極めるほど沼に陥ってしまいますけどね』
この時に教えてもらった知識のほかには政治もあったのだ。これはこのあと非常に役立った。というのも、私がこのあとテーパーの毎年恒例の闘技大会に出場することが決まり、そして女王になってしまったからだ。
きっかけはいつも孤児院に来ていた騎士からの誘いだったんだ。
「私が闘技大会に出場?」
「ああ!ネボラちゃんは先週10歳になっただろ?闘技大会は成人した10歳以上で参加権利を得られるんだ。ネボラちゃんはうちの地区の兵士全員が推薦しているからな!どうだ?参加してみないか?」
「でもそれって、優勝したら王様と戦えるのだな?王様は強いのかな?」
「もちろんだ!軍事国家の王様だからこの国で一番強いぞ〜!」
「じゃあやってみる!」
「ははは!昔は興味ないって言ってたけど、今ならそう言うと思ったよ!ネボラちゃんの強さならかなりの上位に行けると思うぞ〜!決勝トーナメント出場者には騎士試験受験の特権もあるからな。まぁ兵士から実戦経験積んで受験する方法もあるけど、ネボラちゃんは成人したんだし、この地区を守る立派な騎士になると信じてるぞ〜!オレたちの仲間入りだな!」
テーパーは軍事国家だ。だからその王も完全に実力主義だった。常に強者を王に据えるために毎年行われる闘技大会にて優勝者と対戦する。
そしてそこで王を倒してしまうと、その時点でその勝者がこの国の新たな王として認められるのだ。多くの国民たちが見ている中で···。
また、決勝トーナメントに出場権利を得た時点で新たな騎士になる試験を受験する権利を自動的に得るのだ。騎士の特権としては国の方針を決める御前会議に出席できたり方針に投票できたりというものだ。大きな権利を得る代わりとして『弱者保護義務制度』があるのだ。
そして闘技大会の予選会がこの1か月後に始まった。
もちろん私は予選会で優勝して決勝トーナメントに出場する権利を得た。
「ネボラ!おめでとう!···まさか騎士試験受験資格を得てしてしまうとは思わなかったよ。まぁ、昔に誘拐犯を倒してしまった時にこうなるかも?とは思ってはいたが···」
「ありがとう、院長先生。私もここまでやれるなんて思ってもいなかったよ」
「やっぱりネボラちゃんだったらこうなるだろうな〜と思ってたぜ!おめでとう!この闘技大会が終わったらおそらくオレたちと同じ騎士としての仲間になるなぁ~!だが!決勝トーナメントはこんなに一筋縄じゃいかないぞ?まぁ、オレの予想としちゃベスト16ぐらいかな?って思うけどな」
「そんなに強い人が出ているのか?」
「そりゃもちろんだ!兵士じゃなくても強いのは世の中たくさんいるからな!まぁ、そういう人を見つけ出すのもこの大会の意味でもあるんだがな。···おいおい!?そうあからさまに機嫌悪くすんなよ!?まぁ、気持ちはわかるが世の中はそれぐらい厳しいんだよ。というか···、成人したてのネボラちゃんが決勝トーナメントに出るってだけでも前代未聞なんだからさ···」
そう、この闘技大会は成人以上が出場条件。私より年上ばかりなのだ。体格差もあるので、だいたい20歳超えてる人たちが上位になっている。だから決勝トーナメント出場者のうちで最年少記録が私になってしまったのだ。この騎士が言った事にも一理ある。
だが、私には師匠が教えてくれた剣術がある。師匠が言うには私はあとちょっとで武術の頂点である理に至れる段階まで来ているらしい。師匠も習熟速度が速いと驚いていたな。私にはその感覚はなかったが。
そして決勝トーナメントが始まった。確かにそれなりに強そうな者が多いという印象だったがそれだけだった。
この決勝トーナメントは64人がエントリーされている。つまり6回勝てば王との試合の権利を得るということだ。
ちなみに王様も決勝トーナメントは見るようだ。闘技場の中段に立派な鎧を着た人が大きなイスに座っているのが見えた。この人が王だ。すでに15年も王に君臨している。この闘技大会も実は去年観客として見に来ていたので知ってはいた。
確かに王には他の人とは違う雰囲気がしていた。見た目で強いのはすぐにわかるが、それ以外の···、覇気···?とでも言うのだろうか···?なんだか守られてるような気にさせてくれるというか···。
『あの人がこの国の王なのですね?素晴らしい覚悟をお持ちのようだ。この国が栄えるのも当然でしょうね』
「(師匠?わかるのか?)」
『ええ。ああいった人はよく見ていましたからね』
師匠は私の目を通して状況を見ることができるようだった。といっても常時見られているわけじゃない。ちゃんと私の許可を得て見ているようにしていた。
そして今は近くに人がいるので心で思った言葉で師匠と会話している。
『よく見ておきなさい。あれが国民を守るという覚悟です。いつの時代にも、国民をコントロールするための象徴がこうして必要なのです。あなたも知っておくといいですよ』
「(知ったところで武術に通じてるのか?)」
『いいえ。今からあなたがあそこに立つからです』
この時、師匠は私が女王になると宣言してしまったんだ···。
ネボラさんの周囲には理解ある人たちが多いんですよね。騎士すら倒してしまえる子どもなんて結構異端すぎて恐れるものなのですが、担当の騎士はネボラの才能を育てると国にとってもいいと考えて推薦してくれました。
しかしエマさんもネボラさんが女王になるって早くもこの時点で宣言しちゃいましたね。もうこの時点で出場選手はおろか、国王までの実力を見抜いてしまってます。とんでもない神様ですね。
さて次回予告ですが、闘技大会の模様をお伝えいたします。そしてネボラさんの愛用の剣もご紹介いたしますよ。なかなかシャレた届け方をエマさんがやってしまい、孤児院は大混乱に陥ってしまいましたけどね。どういう届け方をしたのでしょうか?
それではお楽しみに~!




