遠征旅立ち編-9.郷に入れば郷に従え
「やはりそうだったか···。10年前に比べて建物とかが見たことのないものになってたのでな。もしやとは思ってはいたが···。レーカー。どういった経緯でこうなったのかを教えてもらえないだろうか?」
「そうですね···。特に口止めもされてませんので、ここでお話しても大丈夫でしょう。失礼ですが今、目の前にいらっしゃるのは他国の王ではないですから外交問題にもならないでしょうし」
「そういう事だ」
レーカーさんからはこの国が乗っ取られた経緯を話してくれた。
結論から言えば、乗っ取られたではなく受け入れたが正しいそうだ。
「クリートはたびたび魔獣襲撃で疲弊していました。そんな時にやって来たのが『アングル』の皆さんでした。身分証を持ってませんでしたから当初は怪しんでいましたが、こちらの質問に対しても素直に誠実に応じてくれました。まさか来訪者が『外の理の者』とは思いませんでしたね」
ふ〜ん。一応は疑ったんだな。それがちゃんと対応したからそれなりに信用ができてきたってわけか。
「ある時、壁の補修作業があったのですが、彼らが『もっといい修理方法があるぞ』と提案してきました。そこで試しにやってもらったら、出来が非常に良かったのです。見た目はそこまで変わってませんが、強度は上がってるんですよ」
この世界にない技術でやったんだな。それで信用を得たってわけか。何か仕掛けられたんじゃないだろうな?
「もちろん、何かないか?と考えて後で調査しましたが、疑う余地がないほど完璧だったのです。その技術力を知った当時の王が城に招いて話を聞き、そして正式に国民として迎えることにしたのです」
マジかよ···。そこまで信用しちまったのか···。
「彼らは『ほかにも仲間がいるが、受け入れてもらえるだろうか?何かあればこちらで責任を取る』と言い切ったそうで、当時人手不足というのもあって、その人たちも受け入れる事にしたそうです」
「あまりにも急過ぎるな···。国民からの反発もあったんじゃないか?」
「もちろんありましたね。ですが、彼らは人手不足の仕事を喜んでやってくれたのです。それもお給料が少ない不人気な仕事です。好意的でしたし、こちらのルールを知ろうとしてましたので、国民たちも少しずつ受け入れ始めました」
「こちらの環境に適応しようとしていたというわけか···。でも、どうしてそこまでしようとするのだ?彼らにも文化はあったとは思うが?」
「そうですね。誰しも思いました。その理由を当時の代表···、今の王ですね。彼が言うには『我々は元いた世界から追い出された身だから、こうして受け入れてもらえたという恩がある。ここで受け入れられなければ、これから先でも受け入れてもらえないだろう』との事でした」
「なるほどな···。そこで自分たちの売りが『技術』だったというわけか···」
「その通りです。我々は彼らから技術を買い、ここで住む権利を与えたという関係です」
話を横でオレは黙って聞いていた。
このエーレタニアにやって来ている『外の理の者』にも、事情があるのだ。
ただ、うちとしても無制限で歓迎ってわけにもいかねえんだ。神であるエレがどこまで考えてるかはわかんねえけど、独自性が保てなくなってしまうってのが大きい。
もちろん、そうした移民たちの世界ってのもあって、成功している世界もあるだろう。けれども、うちはそれは歓迎してねえんだよ。
これまでは武力侵攻ばっかだった。って、今エレはそれに立ち向かっているけど、先日のアリウスとこのクリートに来た連中も似た境遇だったんだ···。
まいったなぁ〜。このパターンだと、オレは手が出しづらい···。というのも、このクリートの国が受け入れちまっている以上、ここでオレが連中を強制送還してしまうとクリートの国の人が怒ってしまうし、国力が落ちたクリートの国が滅びかねない。
そうなると、オレの目的であるエーレタニアの人たちを魔獣や外の理の者たちから守るって大前提が崩壊してしまうんだ。
どうしようか···?そう思っていると、ネボラが続きを始めた。
「事情はわかったが、なぜ王はその外の理の者に代わったのだ?言葉は悪いが、事実上乗っ取られたとほぼ同様になっているが···」
「他国から見ればそう思われても仕方ないですね。これは前王の『賭け』だったのです」
「賭け···、だと?」
「はい。現状では状況がよくならないだろうとお考えだった前王は、『だったら思い切ってこの者たちに任せてみて、うまくいけばそれで、うまくいかなければ1年後の状況を見て国民が判断する』という提案を国民に示し、それが受け入れられたのです。そして1年後···」
「国民はこれでいいと判断した···、というわけか」
「はい。今のところ、細かい問題はありましたがおおむね順調ですね。前王の賭けは成功したということになりましたね」
「···そういった事情か。ありがとう。これで状況の把握はできたよ。今後の発展を祈ることにしよう」
「ありがとうございます。ところで···、テーパーは本当に···?」
「···ああ。滅び去ってしまった。わずかな国民がネイレで受け入れてもらえたのだ」
「···ありがとうございました。どういった状況かがこちらでもわからなかったので、こちらとしても状況把握で助かりました」
「気にしないでくれ。もう仇も取ることができたのでな」
「···え?倒された···、のですか!?」
「ああ。こっちの旦那がね。とても頼りにしているのだ」
「そ、そうですか···」
急にオレに振るなよ···?とりあえずオレは黙っていたぞ。変に答えて根掘り葉掘り聞かれるわけにもいかねえしな。
このあと、ちょっとだけ世間話をしたあと、オレたちは詰所を後にした。
宿への帰り道、オレたちはこの国の人たち、そして『外の理の者』たちの様子を見ていた。見分けはつかねえけど、いたって平和な光景そのものだった。
途中にあったレストランで昼食を食べて、宿の部屋に戻ったんだ。このレストランの食事もものすごくうまかった···。食材はこの世界のものだけど、調味料が味わったことのないものだった。
そして宿に戻った。子どもたちはお昼寝の時間なので、ベッドで仲良く眠っている。今日は町中とはいえ、結構歩いたからな。
オレとネボラは一息入れるためお茶を用意して飲んだ。
「さて···、ここの状況はおおむねわかった。それでレオ?どうする?」
「本来なら送還する1択だが、ここまでの情報からするとそれは思いっきり悪手だってのはわかった。だから静観することにする」
「それが妥当だな。しかしここの国民もそうだが、非常に寛容だな」
「それに甘えないって連中の心意気もよくわかった。ここエーレタニアの住人として一緒に生きていくって選択するなら、止めねえよ」
「うむ。しかし、レオも変わったな?」
「は···?どういうことだよ?」
「以前のレオならば昨日言っていたように問答無用で手を下したと思うぞ」
「変わっちゃいねえよ。むしろ···、今までオレは問答無用で送還してきたけど、そういった連中の事情を知ったらもっといい解決方法があったんじゃねえかな?って思ったぐらいだ。まぁ、最初から武力行使した時点でダメだけどな」
「それが変わったというのだ。今後も似たような状況があるかもしれんな」
「そうだな···。エレの知識の中にある言葉には『郷に入れば郷に従え』ってのがあるんだ。その場所のしきたりに従えば受け入れてくれるって意味らしいけどな」
「ほう?なかなかいい言葉じゃないか。今回はまさにその通りだったな」
「ああ。まだエレの判断はないけど、状況からしてオレと同じ対応でいいって言うと思うぜ」
まだエレから連絡はない···。今エレが相手してる世界の連中にはこの言葉は頭の中にはなさそうではあるな···。
このクリートの国って、今大問題になってる外国人関係の問題に密接しちゃってるんですよね。
本作で社会問題を取り上げるつもりは毛頭ないのですが、作者としての考えはタイトルの通りです。
ちなみに作者の仕事先では外国人の方がそれなりにいらっしゃいますね。皆さん日本の風習が大好きでめっちゃ馴染んでますよ。中には演歌が大好きな方もいて、『津軽海峡冬景色』を廊下で突然歌いだしたりしてた人もいましたし、テレビで大行列の人気店を見て『なんで日本人は長時間並ぶのが好きなんだい?そんなに暇じゃないでしょ?日本人ワカンナイネ~!』って言ってる人もいますね(笑)。
その土地での風習やルールに則って生活する分には問題ないのですが、それを無視してやりたい放題する連中に対しては排除されるというのは古今東西どこの国でも同じです。
まぁ、奇妙な風習とかルールがあることもあるのですが、やはりそういったものも『どうしてできたか?』という理由が必ずあります。
ちなみに別府温泉では『浴槽のふちに腰掛けてはいけない』という独自ルールがありますが、これは湯船に浸かってるときにふちを枕代わりにして頭を載せるからなんですね。
これ、海外に限らず旅行した時に現地でトラブルになる可能性がありますからね。注意しましょうね。
さて次回予告ですが、クリートの国の滞在を終えて次はメッセン向かいます。その道中、前方から多くの人たちが歩いているのを発見してしまいます。何があったのでしょうか?
明日は仕事終わりに某魔法少女の映画を見に行く予定です。レイトショーだからお安く見れますね〜。
いつもの投稿時間は上映中なので見終わって心が落ち着いてから投稿いたします。この作品、事前情報なしで見ると頭が追いつかないので上映終わったら呆然としちゃうんですよね(笑)。だいたい23時半頃になるかと思います。どうぞご了承ください。
それではお楽しみに~!




