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おやすみ、良い子の悪い夢  作者: 黒羊ねむり
第一幕 笑えるほど愚かな人々

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6/9

太陽を閉じ込めた王様

挿絵(By みてみん)

昔々、夜が嫌いな王様がおりました。


夜になると、庭の花が見えなくなります。

金の皿も、宝石の指輪も、灯りを近づけなければ輝きません。


何より、王様がまだ遊びたいのに、家来たちが眠そうな顔をするのが気に入りませんでした。


「わしは、まだ眠くない」


王様がそう言うと、家来たちは目をこすり、もう一度楽器を構えました。


冬も嫌いでした。


庭へ出れば、風が冷たい。

椅子に座れば、足が冷たい。

窓の外を見れば、日が暮れるのが早い。


「わしに断りもなく、毎日早く帰りおって」


王様は、沈んでゆく太陽をにらみました。


ある冬の朝、王様は魔法使いを呼びました。


「太陽を、空の真ん中に縫い止めよ」


魔法使いは、長いひげを撫でました。


「縫い止めれば、夜が来なくなります」


「だから、命じておる」


「朝も来なくなりますぞ」


「昼があれば十分だ」


魔法使いは、窓の外を見ました。


葉を落とした木の枝に、小鳥が一羽、とまっておりました。


「ほどくときには、私をお呼びください」


「ほどくものか。丈夫に縫え」


そこで魔法使いは、細い金の糸を針に通しました。


針を空へ投げると、それは光りながら高く昇り、太陽の縁をすくいました。


ひと針。

ふた針。

み針。


金の糸は空を渡り、太陽を真ん中に縫い止めました。


魔法使いは、長く垂れた糸の端を切らず、城の塔まで引いて結びました。


「これは、ほどくための糸です。触れぬように」


王様は、空を見上げました。


太陽は動きませんでした。


王様は喜びました。


「これで、夜も冬も、わしには逆らえまい」


その日、夕方は来ませんでした。


いつまでも、屋根が明るく照らされておりました。

道の石も、井戸の縁も、くっきりと見えました。


人々は、初めのうち喜びました。


洗濯物はよく乾きました。

店は長く開けておけました。

子どもたちは、いつまでも外で遊べました。


ろうそく屋だけは、少し困りました。


王様は庭に食卓を出させ、何度も宴を開きました。


「明るいというのは、よいものだ」


家来たちはうなずきました。


何度目かの宴で、一人が皿を持ったまま眠りました。


王様は怒りました。


「まだ昼だぞ」


家来は目を覚まし、頭を下げました。


けれど、次の料理を運ぶ途中で、また目を閉じました。


町でも、人々が眠ろうとしておりました。


窓を閉めても、戸の隙間から光が入りました。

布をかぶっても、外では荷車が通りました。


店を閉めようとすると、客が言いました。


「まだ明るいじゃないか」


仕事を終えようとすると、親方が言いました。


「日が暮れるまで、もうひと働きだ」


日は、暮れませんでした。


子どもたちは遊びながら泣き出しました。


眠いのでした。

けれど、家へ帰って寝床に入っても、窓の外は遊びに出たときと同じ色でした。


鳥も、木の上で落ち着かずに鳴き続けました。


やがて、畑の土にひびが入りました。


農夫たちは水を運びました。

運んでも、運んでも、土は乾きました。


葉が丸まり、花がしおれました。


王様の庭でも、花びらが茶色くなりました。


「水をやれ」


「やっております」


「もっとやれ」


庭師は空の桶を持ち、井戸へ向かいました。


井戸の底は、前よりずっと遠くなっておりました。


城の食卓から、柔らかな葉野菜が消えました。

花を飾った皿も消えました。


代わりに、固いパンと、塩漬けの肉が並びました。


王様は食べながら、何度も水を飲みました。


金の杯まで、ぬるくなっておりました。


とうとう王様は、魔法使いを呼ばせました。


けれど、魔法使いは町におりませんでした。


家の戸には、紙が一枚貼ってありました。


――眠れるところへ行ってきます。


「探せ!」


王様は叫びました。


使いの者たちが、国じゅうへ散ってゆきました。


その間にも、太陽は城の真上で輝き続けました。


王様は、塔に結ばれた糸を引きました。


びくともしませんでした。


大きな鋏を持ってこさせました。


刃は、金の糸の上を滑りました。


矢を射させました。

長い竿を立てさせました。

国で一番高い梯子も運ばせました。


けれど、誰にも空まで手が届きませんでした。


王様は塔の上に立ち、太陽に向かって叫びました。


「もうよい! 沈んでよいぞ!」


太陽は動きませんでした。


自分で、動けなくしてしまったのでした。


やっと魔法使いが見つかったのは、国境の向こうの森でした。


大きな木の陰で、帽子を顔にかぶせて眠っておりました。


城へ戻った魔法使いに、王様は駆け寄りました。


「早く、ほどいてくれ」


魔法使いは、塔の糸を調べました。


引っぱられ、ねじられ、結び目が固く締まっておりました。


「ずいぶん、いじりましたな」


「ほどけるのか」


「時間がかかります」


「急げ!」


魔法使いは、王様を見ました。


王様は唇を結びました。


それから、小さな声で言いました。


「……頼む」


魔法使いは、細い針で結び目をゆるめはじめました。


王様も、そのそばに座りました。


ほどけた糸が絡まないよう、両手で巻き取りました。


汗が額を伝いました。

指が痛くなりました。


それでも王様は、糸を離しませんでした。


長いことかかって、最後の結び目がほどけました。


「さあ。手を開いて」


王様が手を開くと、金の糸が空へ昇りました。


ひと針。

ふた針。

み針。


太陽の縁から、糸が抜けてゆきました。


最後のひと針が外れると、太陽がゆっくり動きました。


塔の影が伸びました。


王様の足元を通り、庭を横切り、城壁に届きました。


町の人々が、家から出てきました。


誰も何も運んでおりませんでした。

仕事の道具も、買い物の籠も、置いてきておりました。


ただ、伸びてゆく影を見ておりました。


空が金色になりました。

やがて、赤くなりました。


太陽が山の向こうへ沈むと、町のどこかで拍手が起こりました。


それは通りから通りへ広がり、城まで聞こえてきました。


王様は塔の窓に立っておりました。


けれど、その拍手に手を振ることはしませんでした。


夜が来ました。


長い昼のあとに訪れた夜は、ひどく深く、長く感じられました。


店の戸が閉まりました。

荷車が止まりました。

鳥たちが、枝の間で羽をたたみました。


人々は初めて、暗くなったことを喜びました。


ろうそく屋も、その晩は灯りを売り歩きませんでした。


王様は寝室へ戻りました。


家来が、何本もろうそくを運んできました。


「灯りを、おつけしますか」


「一本でよい」


王様は答えました。


しばらくして、その一本も消してもらいました。


窓の外には、星が出ておりました。


王様が数えたことも、名前をつけたこともない星が、空いっぱいにありました。


王様はそれを眺めているうちに、眠りました。


誰にも命じられず、深く眠りました。


翌朝、太陽は東から昇りました。


畑はまだ乾いておりました。

枯れた花も、元には戻りませんでした。


人々は起き出し、水を運び、土を耕し、種をまき直しました。


王様も、庭師と一緒に枯れた花を抜きました。


その夕方、窓から冷たい風が入りました。


王様は上着を一枚、羽織りました。


太陽は、王様の返事を待たずに沈んでゆきました。

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