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おやすみ、良い子の悪い夢  作者: 黒羊ねむり
第一幕 笑えるほど愚かな人々

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美しい顔を売る店

挿絵(By みてみん)

昔々、顔の美しさだけで人を選ぶ娘がおりました。


求婚に来た男が、どんな仕事をしているか。

何を喜び、何に腹を立てるか。

困った人に、どんなふうに接するか。


娘は、そうしたことを尋ねませんでした。


明るい窓辺に座ってもらい、顔をよく見ました。


鼻筋が気に入らなければ、お断り。

目の形が気に入らなければ、お断り。

笑った口元が気に入らなければ、笑い終わる前にお断り。


ある男は、帰り際、壊れかけていた門を直してくれました。


娘は礼を言いました。


けれど、返事は変えませんでした。


「毎日見る顔なのだから、気に入った顔がいいわ」


娘は、そう言っておりました。


ある日、町に小さな店ができました。


看板には、こう書かれておりました。


――美しい顔を売ります。


店の窓には、白い布が掛かっておりました。

中で何が売られているのか、通りからは見えません。


けれど、店から出てくる人は、誰もが少し顎を上げておりました。


しばらくして、町に見惚れるほど美しい青年が現れました。


すっと通った鼻筋。

涼しげな目元。

笑うと、ほどよく上がる口の端。


娘が好むものが、すべて正しい場所についておりました。


青年は、道端で娘に声をかけました。


「きれいな花ですね」


娘が抱えていた花束のことでした。


けれど青年は、すぐに言い添えました。


「あなたが持つと、なおさら」


娘は、花束を抱き直しました。


それから二人は、何度も会いました。


青年は、いつも微笑んでおりました。


娘が重い籠を持っていると、


「働き者の手だね」


と言いました。


雨が降ってくると、


「濡れた髪も、よく似合う」


と言いました。


娘は嬉しくなりました。


籠は重いままでした。

髪は濡れたままでした。


けれど、その頃は気になりませんでした。


やがて、二人は結婚しました。


婚礼の日、客たちは青年を見てため息をつきました。


「なんて美しい花婿でしょう」


娘は、その言葉を聞くたび、幸せになりました。


新しい家には、大きな鏡が運び込まれました。


青年は、日のよく当たる場所に置かせました。


「君も使っていいよ」


たいへん優しい言い方でした。


結婚してからも、青年は毎日、優しい言葉をかけてくれました。


娘が朝食を作ると、


「君の料理は、見ているだけで幸せになる」


と言いました。


食べ終わると、鏡の前へ行きました。


娘が床を磨くと、


「こんなに美しい家に住めるなんて、僕は幸せ者だ」


と言いました。


磨き終えた床を歩き、鏡の前へ行きました。


薪がなくなると、娘が割りました。

水がなくなると、娘が汲みました。

服が破れると、娘が縫いました。


青年は、そのたびに褒めてくれました。


褒め言葉は、いくらでも出てきました。


手は、一度も出てきませんでした。


ある夕方、娘は水桶を下ろして言いました。


「少し、手伝ってくれない?」


青年は鏡越しに、娘に微笑みました。


「何を?」


「夕食の支度でも、薪を運ぶのでもいいの」


青年は、きれいに整えた爪を眺めました。


「でも、君の方が上手だろう?」


「私だって、疲れるわ」


青年は不思議そうに首を傾けました。


「だって、僕は美しいだろう?」


娘は、返事をしませんでした。


青年は、納得してもらえたと思って、また鏡に向き直りました。


冬になると、娘は熱を出しました。


朝になっても、寝台から起きられませんでした。


青年は額に手を当てました。


「かわいそうに。頬が真っ赤だ」


「水を、持ってきて」


「ゆっくり休むといい」


「だから、水を……」


けれど青年は、窓辺へ行ってしまいました。


曇りの日には、鏡を少し傾けなければ、顔がよく見えないのでした。


昼過ぎ、隣の女が訪ねてきました。


返事がないので中をのぞくと、娘が一人で水桶を引きずっておりました。


女は娘を寝かせ、水を飲ませ、火を起こして薄いスープを作りました。


青年は、その横を通りかかって言いました。


「ありがとうございます。僕も、とても心配していたんです」


女は、青年を見ました。


それから娘を見ました。


何も言わず、鍋のふたを閉めました。


娘が元気になる頃には、家の中に仕事がたまっておりました。


洗っていない皿。

冷えたかまど。

空の水桶。


鏡だけは、きれいでした。


娘は一つずつ片づけました。


青年は、窓辺で自分の顔を眺めておりました。


その夜のことです。


灯りのそばに座った青年の頬に、細い線が見えました。


目尻から耳の方へ、小さく枝分かれしておりました。


「顔に、何かついているわ」


娘が近づくと、青年は顔を背けました。


「何でもない」


「傷じゃないの?」


「触らなくていい」


けれど娘の指は、もう頬に触れておりました。


かすかな音がしました。


線が伸びました。


目元を横切り、鼻筋へ走り、口の端に届きました。


青年が両手で顔を押さえようとしたとき、美しい顔は、陶器のように割れてしまいました。


白いかけらが、膝に落ちました。

床に落ちました。


整った鼻筋も、涼しげな目元も、ほどよく上がる口の端も、ばらばらになりました。


その下から現れたのは、ごく普通の顔をした男でした。


娘は、男を見つめました。


男は慌てて頬を覆いました。


「驚いただけだろう? すぐ直せる」


娘は何も言いませんでした。


「店へ持っていけばいい。あの店には、もっと美しい顔だってあるんだ」


床に落ちた口元が、灯りを受けておりました。


あの微笑みで、男は何度も娘を褒めました。


水桶を持つ手を。

薪を運ぶ背中を。

熱に赤くなった頬を。


娘は、男の顔から、その両手へ目を移しました。


傷も、あかぎれもない手でした。


男は声を張り上げました。


「顔が変わっただけだ! 僕は何も変わっていない!」


娘はしばらく男を見つめてから答えました。


「ええ。そこが一番の問題なのよ」


その晩、娘は小さな鞄に荷物を詰めました。


男は椅子に座り、娘が考え直すのを待ちました。


ときどき、いつもの優しい声で名前を呼びました。


娘は、そのたびに手を止めることなく、荷物を詰め続けました。


翌朝、娘は家を出ていきました。


自分の鞄を、自分で持って。


男は、しばらく扉を見ておりました。


やがて床に膝をつき、割れた美しい顔を拾い集めました。


鼻筋は、きれいに残っておりました。

片方の目元も、どうにか使えそうでした。


男はかけらを抱え、再び鏡の前に座りました。


どうすれば元に戻せるか、いつまでも熱心に考えておりました。

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