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おやすみ、良い子の悪い夢  作者: 黒羊ねむり
第一幕 笑えるほど愚かな人々

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五本の指の王様

挿絵(By みてみん)

昔々、何でも一人でできると自慢する王様がおりました。


立派な食事が運ばれてくると、王様は言いました。


「わしの国には、うまいものがある」


庭に花が咲くと、王様は言いました。


「わしの城は、いつ見ても美しい」


雨の日にも部屋が濡れないのは、屋根が丈夫だからでしたが、王様はそれも自分の手柄のようにうなずいておりました。


ある朝、王様は家来たちを集めました。


「この国で一番偉いのは、わしだ」


家来たちは頭を下げました。


「つまり、この国で一番何でもできるのも、わしだ」


家来たちは、頭を下げたままでおりました。


「お前たちなど、必要ない!」


王様は、まず料理人を追い出しました。


「食べ物を切って、火にかけるだけではないか」


次に、庭師を追い出しました。


「草を抜いて、水をまくだけではないか」


大工も追い出しました。


「板に釘を打つだけではないか」


兵士も追い出しました。


「門の前に立っているだけではないか」


最後に、家来たちを呼び集めた役人も追い出しました。


「もう、呼ぶ者もおらん」


城は静かになりました。


王様は玉座に座り、たいそう満足しました。


誰も給料を求めに来ません。

誰も休みを願い出ません。

誰も、屋根の修理が必要だなどと面倒なことを言いません。


昼になりました。


食事は来ませんでした。


王様は厨房へ行き、鍋に肉を入れて火にかけました。


しばらく待ちましたが、いつもの料理の匂いはしません。


そのうち、いつもとは違う煙が出ました。


肉は、上が生で、下が黒くなっておりました。


「鍋が悪い」


王様は、パンだけ食べました。


翌日は庭に出ました。


花の間から草が伸びていたので、片端から抜きました。


抜き終わると、花もずいぶん減っておりました。


「紛らわしいものを植えおって」


王様は庭に出るのをやめました。


やがて雨が降りました。


寝室の天井から、ぽたりと水が落ちてきました。


王様は寝台をずらしました。


次の雨では、ずらした先にも落ちてきました。


王様は鍋を置きました。

深皿を置きました。

最後には、王冠まで裏返して置きました。


どれも、よく水を受けました。


門は開け放したままでした。


見張るために門の前に立つと、食事が作れません。

食事を作っていると、庭に山羊が入りました。


山羊は、残っていた花を食べました。


王様は叫びました。


「なぜ、こんな簡単なことができんのだ!」


「どなたにおっしゃっているのです?」


声のした方を見ると、窓辺に小さな妖精がおりました。


「この城にいる者にだ」


「では、あなたにですね」


王様は顔を赤くしました。


「わしは王だぞ。何でも一人でできる」


「それは頼もしい」


妖精は、王様の左手にそっと触れました。


「きっと、指の先まで立派なのでしょうね」


すると、親指がぴんと立ちました。


「そのとおり。わしが一番偉い」


王様は、自分の手を見下ろしました。


人差し指が、親指を押しのけました。


「命令するのは私だ。お前は引っ込んでいろ」


中指が、ぐっと伸びました。


「一番高いところにいるのは俺だぞ」


薬指は、王様の指輪を光らせました。


「王の印をつけているのは、わたくしです」


小指は、みんなから離れるように反りました。


「そんなに偉いなら、そっちでやって。ぼくは休む」


五本の指は、好き勝手な方を向きました。


王様は驚いて、拳を握ろうとしました。


握れませんでした。


「曲がれ!」


「誰に命令しておる」


親指が言いました。


「曲がる必要などない」


人差し指が言いました。


「俺が曲がったら、一番高くなくなる」


中指が言いました。


薬指は指輪を眺め、小指は眠ったふりをしておりました。


王様は喉が渇きました。


卓の上の杯に、左手を伸ばしました。


「わしが持つ」


親指が、杯を横から押しました。


「違う。こちらへ寄せるのだ」


人差し指が、反対側から押しました。


中指は高く伸びたままで、薬指は指輪が濡れるのを嫌がりました。


小指は、何もしませんでした。


杯は倒れました。


水が卓から流れ落ち、王様の膝を濡らしました。


王様は慌てて右手で杯を起こしました。


五本の指が、素直に杯を包みました。


それを見て、左の親指が鼻で笑いました。


「一人では持てぬとは、情けない連中だ」


王様は、黙っておりました。


その晩、王様は右手だけでパンを食べました。


パンを押さえようとした左手は、パンを床へ落としました。


寝間着に着替えようとすると、人差し指が袖に引っかかりました。

親指は別の穴へ入りたがりました。

薬指は、指輪を外すくらいなら着替えなくてよいと言いました。


ようやく寝台に入ると、雨漏りが額に落ちてきました。


王様は左手で顔を覆おうとしました。


五本の指の隙間から、雨が落ちてきました。


翌朝、王様は妖精を呼びました。


「頼む! 指を元に戻してくれ!」


妖精は窓辺に現れました。


「皆さん、とても立派な指ではありませんか」


「立派でも、これでは何も持てん!」


「五本の指が協力できない手に、何ができましょう?」


王様は左手を見ました。


親指は威張っておりました。

人差し指は命令しておりました。

誰も、働いてはおりませんでした。


厨房には、焦げた鍋がありました。

庭には、花のなくなった花壇がありました。

頭の上には、穴の開いた屋根がありました。


王様は、ようやく小さな声で言いました。


「……わしも、あんなふうだったのか」


妖精は、王様の左手に触れました。


五本の指が静かになりました。


王様は、ゆっくりと杯を持ち上げました。


水を、一口飲みました。


それから、長い息を吐きました。


その日のうちに、王様は家来たちへ手紙を書きました。


戻ってきてほしい。

今度は、働きに感謝する。

もう、不要だなどとは言わない。


宛名を書き、封をしてから、手紙を届ける者も追い出したことを思い出しました。


王様は、自分で町へ出かけました。


料理人は、食堂を開いておりました。


「今は、おいしかったと言ってくださる方々に、料理をお出ししています」


庭師は、町の庭を任されておりました。


「こちらは、植えた花が咲くまで待ってくださいますので」


大工は、家を建てておりました。


「冬までの仕事が決まっております」


兵士たちは、隣の町で門を守っておりました。


王様が訪ねると、通る用事を尋ねました。


誰も、城へは戻りませんでした。


王様は一人で帰りました。


城の門を閉めました。

床にこぼれた水を拭きました。

焦げた鍋を洗いました。


翌朝、大工のところへ行き、板の当て方と釘の打ち方を教わりました。


それから、板と金槌を持って屋根へ上りました。


左手で板を押さえ、右手で金槌を握りました。


一度目は、釘が曲がりました。


王様は釘を抜いて、やり直しました。


二度目は、少しまっすぐ入りました。


褒める者はおりませんでした。


それでも、王様は次の釘を取りました。


五本の指を、仲良く動かしながら。

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