第四十六話 二つの故郷
濁った水面に、満月の白い光が揺れていた。
ミラは走っていた。
泥。
水。
倒れた柵。
崩れた壁。
次々と飛び越え、村へ向かっていた。
「ミラ!」
後ろからアルスが追いかける。
「待って!」
「嫌!」
「危ないって!」
「村が!」
ミラは止まらない。
水に浸かった田んぼ。
折れた木。
傾いた家。
見慣れたはずの景色が、知らない土地のように変わっていた。
「……嘘」
ミラが呟く。
「こんなの、嘘……」
アルスが追いつき、肩を掴んだ。
「待てって!」
「離して!」
「まだ水も引いてない!」
「それでも!」
「シェンクゥ兵だって、残ってるかもしれない!」
ミラが振り向いた。
「でも!」
声が震えていた。
「私には、ここしかないの!」
アルスの手が止まる。
「……何?」
「私には!」
ミラは叫んだ。
「この村しか、帰る場所がないの!」
「でも……」
アルスは息を切らしながら答えた。
「ミラを追い出した村だろ?」
「それでも!」
ミラの目に涙が溜まった。
「ここなの!」
アルスは何も言えなかった。
自分にはコタがある。
父さんがいる。
ヤナがいる。
旅が終われば、帰る場所がある。
ミラには、あの村しかなかった。
「……ごめん」
アルスが手を離した。
ミラは何も言わず、村へ歩き出した。
***
村には、誰もいなかった。
避難はできたらしい。
だが、軒先には洗濯物が残っていた。
薪は積まれたまま。
家の前には、誰かが置いた桶が転がっている。
ついさっきまで、人が暮らしていた村だった。
ミラは道を進んだ。
右へ曲がる。
細い水路を越える。
子どもの頃、何百回も通った道。
そこに。
「……あ」
小さな家があった。
壁の一部が崩れ、泥水が床まで入り込んでいた。
誰もいない。
ミラは入口へ立った。
「……ただいま」
返事はない。
しばらく立ち尽くす。
それから、家の中へ入った。
床には泥が積もっている。
ひっくり返った椅子。
割れた器。
壁際には、小さな棚が残っていた。
ミラは、その前へしゃがみ込んだ。
棚の隅に、古びた木の器があった。
おばあちゃんが、雑穀を入れていた器。
ミラは持ち上げると、泥だらけのそれを指で拭う。
「……」
アルスは入口から、その姿を見ていた。
声をかけられなかった。
その時。
コッ、コッ。
弱い音が聞こえた。
「……?」
ミラが振り向く。
家の裏にある小屋。
籠の中で、一羽の鶏が羽を動かしていた。
その奥には、縄につながれた牛。
「……まだいたの?」
ミラが駆け寄った。
縄をほどく。
「ごめんね」
一頭。
また一頭。
「ごめん」
牛が、ゆっくり立ち上がった。ミラは、その鼻を撫でた。
「……よかった」
アルスも小屋へ入った。
「俺もやる」
二人で残された家畜を外へ出した。
まだ歩ける。
まだ生きている。
ミラは、少しだけ息を吐いた。
アルスが言う。
「……戻ろう」
ミラは壊れた家を見た。
「……うん」
ようやく頷いた。
その時だった。
カチャ。
乾いた音。
二人が振り向く。
月明かりの下、数人の兵士が立っていた。
銃口がこちらへ向いている。
「動くな!」
アルスの身体が固まった。
シェンクゥの軍服。泥だらけの靴。濡れた銃。
堤が切れたことで進軍を止められ、後退してきた兵士たちだった。
「……シェンクゥ兵」
その中の一人。
若い兵士が、銃を握っていた。
手が震えている。
緊張のせいか、小刻みで荒い息遣い。
月明かりが、顔を照らす。
アルスは息を呑んだ。
「……フォン?」
兵士の目が見開かれた。
「……アルス?」
シェンクゥでいつも一緒だったフォンだ。その頬はこけ、目つきは鋭いが、見慣れた顔。
「フォン!」
思わず一歩踏み出す。
「動くな!」
フォンが叫んだ。
銃口が揺れる。
「なんで……」
顔が歪んだ。
「なんで、お前がここにいるんだ!」
「言っただろ。食べ物がこなくなった理由を知るべきだって。で、来てみてわかった。ダルカも食糧がないんだ」
「何?」
「それより、フォンこそなんでこんな所に?」
フォンは無言で、背後の家を見る。
壊れた壁。泥だらけの道。崩れた小屋。
「……ここは」
声が小さくなった。
「俺が生まれた村なんだ」
アルスが動きを止める。
「……え?」
フォンは周囲を見た。
「堤が切れて、部隊が後退することになったんだ」
「……」
「でも、橋が落ちて、元の道を戻れなくなった」
壊れた水路を見る。
「それで、別の道を探してたら……」
少しの沈黙。
「見覚えのある場所に出た」
フォンは、傾いた家を見た。
「……ここだった」
アルスは何も言えなかった。
「俺も、最初は分からなかった」
フォンは苦笑した。
「小さい頃のことだから、ほとんど覚えてないし」
水路を見る。
「でも、この道だけは覚えてた」
泥水の向こうに続く、細い道。
「昔、父さんに手を引かれて歩いたんだ」
フォンは、小さく息を吐いた。
「まさか、こんな形で帰ってくるとは思わなかったけどな」
ミラが、初めてその顔をまっすぐ見た。
フォンもミラを見る。
互いに、知らない相手だった。
「……帰ってきた?」
ミラが呟いた。
フォンが振り向く。
「……何?」
「帰ってきたって……」
ミラの声が低くなる。
「その服で?」
フォンは、自分の軍服を見下ろした。
その時。
「おい!」
背後の兵士が怒鳴った。
年上の男だった。
泥だらけの軍服。頬には傷。その手にも、銃。
「いつまで無駄口を叩いている!」
フォンが振り向く。
「……すみません」
男は、暗い村を見回した。
「夜が明ける前に、東の街道へ抜けるんだぞ!」
「……はい」
「ここでダルカ兵に見つかったら、終わりだ!」
そして、アルスとミラを睨んだ。
「こいつらは?」
「……知り合いです」
「知り合い?」
「はい」
男の顔が強張った。
「ダルカ人と知り合いなのか?」
「こいつは、シェンクゥで一緒に働いていたアルスです!」
上官の目が動いた。
「……アルス?」
少し考える。
「そうだ。国から逃げ出した、あの技術者の仲間か!」
アルスが息を呑む。
「……」
「裏切り者め!」
銃口が上がる。
フォンが慌てて止めた。
「待ってください!」
「何だ!」
「話を聞かせてください」
上官は苛立ったように息を吐いた。
「……手短にしろ」
フォンは、アルスを見た。
「なあ」
「……何?」
「本当なのか?ダルカには、食べ物がないって」
アルスは頷いた。
「本当だよ」
「……」
「シェンクゥに送らなかったんじゃない。送れなかったんだ」
フォンの顔が変わった。
アルスは続けた。
「井戸も枯れてる。田んぼにも水が足りない。山まで行って調べた」
フォンは、壊れた水路を見た。
「……そうだったのか」
「シェンクゥで、一緒に作った機械も覚えてるだろ?」
「ああ」
「シェンクゥが大きくなって、もっと食べ物が必要になった。ダルカは米を増やして、森を切って、井戸を掘って……」
アルスは拳を握った。
「それで、水が足りなくなったんだ」
フォンは何も言わなかった。
「だから、戦っても意味ないよ」
アルスが言った。
「奪う食べ物なんて、ないんだから」
フォンの銃口が、ゆっくり下がった。
「……じゃあ」
声が震える。
「俺たちは、何しに来たんだ……」
その時。
ミラが一歩前へ出た。
「……ねえ」
フォンが顔を上げる。
「何だ?」
「あなたも、この村の人だったの?」
「……ああ」
「いつまで?」
フォンは少し考えた。
「小さい頃までだ」
「……」
「父さんと母さんが、シェンクゥへ仕事を探しに行って」
ミラの目が動いた。
「……それで?」
「俺も一緒に行った」
「……」
「でも、向こうで二人とも死んだ」
ミラの身体が固まった。
「……いつ?」
フォンは首を振った。
「もう、ずっと昔だ」
ミラの指が震えた。
その袖口から、古びた糸飾りが覗いた。
フォンの目が止まる。
「……それ」
「……何?」
「その糸……」
フォンは、ゆっくり首元へ手を伸ばした。
小さなお守り袋。
その中から、古びた糸飾りを取り出す。
ミラのものと、同じ色。
同じ石。
だが、模様だけが違う。
二つを並べる。
半分ずつの模様がつながり、一羽の鳥になった。
「……」
ミラの息が止まった。
結び目。
一度巻いて、二度くぐらせる。
小さな頃、何度も失敗して、やっと覚えた結び方。
「……これ」
フォンが呟く。
ミラの顔を見る。
「……まさか」
ミラは、糸飾りを握った。
遠い記憶。
小さな手。
自分より背の高い男の子。
旅立つ朝。
――お兄ちゃんが無事で帰ってきますように。
「……」
フォンの唇が震えた。
「……妹?」
ミラの目が大きく開いた。
「……嘘」
フォンが一歩近づく。
「妹なのか?」
「……」
「俺だ」
フォンは言った。
「お兄――」
「来ないで!!」
叫び声が響いた。
フォンの足が止まる。
「……」
「妹なんて呼ばないで!」
「……!」
「呼ばないでって言ってるでしょ!」
涙が、一気に溢れた。
「……探してたんだ」
フォンが言った。
「ずっと……」
「探してた?」
ミラは笑った。
涙を流しながら。
「毎日、街道を見てた」
フォンの顔が止まる。
「今日かなって」
一度、息を吸った。
「明日かなって」
「……」
「帰ってきたら、遅いって怒ってやろうと思ってた」
声が震える。
「ずっと怒る準備してたのに……」
フォンは何も言えなかった。
「誰も来なかった!」
「……ごめん」
「何が?」
「父さんも、母さんも……」
フォンの目にも涙が溜まる。
「シェンクゥへ行って、すぐ死んだんだ」
ミラの顔から、表情が消えた。
「……」
「俺もまだ子どもだった」
「……」
「食べるだけで精一杯だった。戻る道も分からなかった。お前がどこにいるのかも、もう……」
言葉が続かない。
ミラは、ただフォンを見ていた。
やがて。
「……そう」
小さく言った。
「父さんと母さん、死んだんだ」
涙は、もう出なかった。
「……知らなかった」
それだけだった。
フォンが手を伸ばす。
「ミラ……」
ミラは一歩下がった。
「じゃあ」
フォンが止まる。
「……何?」
ミラは、フォンの銃を指した。
「なんで、こんなものを持って帰ってきたの?」
「……」
「この村を」
声が強くなる。
「壊しに来たの?」
「違う!」
「何が違うの!」
ミラは叫んだ。
「私は、ずっとここで生きてきた!」
涙が落ちた。
「水を盗んで!」
一歩近づく。
「働いて!」
また一歩。
「毎日、食べるものを探して!」
フォンの軍服を掴んだ。
「死なないように、生きてきた!」
フォンは何も言えなかった。
「そしたら、お兄ちゃんは……」
銃を見る。
「人殺しの道具を持って、帰ってきた」
フォンの顔が崩れた。
「……ごめん」
「謝らないで」
ミラは言った。
「謝られたら、許さなきゃいけないみたいになるから」
長い沈黙。
アルスは二人を見ていた。
フォン。
ミラ。
シェンクゥで出会った友達。
ダルカで出会った友達。
その二人が、兄妹だった。
なのに。
ようやく再会した二人は、抱き合うことさえできない。
「フォン!」
上官の声が響いた。
フォンが振り向く。
上官は、焦ったように周囲を見回していた。
「いつまで話しているつもりだ!」
「待ってください!」
フォンが言った。
「こいつらが教えてくれたんです。ダルカには、本当に食料がないって!」
「……何?」
「俺たちが奪うものなんて、ないんです!」
上官はアルスを睨んだ。
「そんな話を信じるのか?」
「でも!」
「黙れ!」
銃が上がる。
「動くな!」
アルスの身体が固まった。
フォンが上官へ向き直る。
「もう、ここから退きましょう!」
「……何?」
「これ以上、戦っても意味がありません!」
上官の顔が歪んだ。
「……どこへ退く?」
フォンが止まった。
「……え?」
「橋は落ちた。道は泥に沈んでいる。部隊の半分はどこへ行ったかも分からん」
上官の声が震えた。
「戻る途中でダルカ兵に見つかれば、殺されるかもしれん」
「……」
「ここで銃まで捨てろと言うのか!」
男は周囲を見た。
暗い村。壊れた家。逃げ道のない水路。
「俺たちだって、帰りたいんだ!」
フォンは何も言えなかった。
アルスが、ゆっくり前へ出る。
「……フォン」
「動くな!」
「もういいだろ」
「頼むから、動くな!」
アルスは止まった。
「この戦争、意味ないよ」
フォンの顔が歪んだ。
「……じゃあ」
声が荒くなる。
「どうすりゃいいんだよ!」
「……」
「シェンクゥだって、腹が減ってるんだよ!」
フォンは叫んだ。
「みんな!俺の仲間も!」
銃を握る手が震えている。
「じゃあ、どうすればよかったんだよ!」
アルスは黙った。
答えはない。
「……分かんねぇよ」
フォンが顔を上げた。
「俺たちだって、まだ答えなんか見つけてない」
アルスは拳を握った。
「スカラだって、ずっと考えてる。それでも分からないって言ってる」
そして。
「だからって、撃ち合うしかないってことにはならないだろ!」
上官の銃口が揺れた。
「……黙れ!」
「帰る場所を守りたいのは、みんな一緒だろ!」
「黙れと言っている!」
フォンが上官へ一歩近づいた。
「もうやめましょう」
「来るな!」
「この村には、もう誰も――」
「来るな!!」
パンッ!
乾いた音が、夜に響いた。
「……え?」
ミラの身体が横へ揺れた。
肩が熱い。
手を当てる。
指が、赤かった。
「……」
次の瞬間。
「おい!!」
フォンが駆け寄った。
銃を投げ捨て、妹を抱きかかえる。
「大丈夫か?」
「……お兄ちゃん」
かすれた声。
フォンの動きが止まった。
ミラは泣いていた。
「ずっと……待ってたのに」
「……」
「こんなふうに帰ってくるなら……」
声が震える。
「待たなきゃよかった……!」
フォンの顔が崩れた。
背後。
上官は、まだ銃を握っていた。
「……離れろ」
震える声。
「そいつらから離れろ!」
フォンがミラの前へ身体を入れる。
「もうやめてください!」
「どけ!」
上官が銃を構えた。
「どけと言っている!」
アルスが駆け出そうとする。
その瞬間。
バチッ!!
青白い光が走った。
上官の身体が硬直した。
銃が落ちる。
男は、その場へ崩れ落ちた。
「……!」
暗闇の向こうに、一人の少女が立っていた。
金色の髪。
白い腕。
その周囲に、微かな光。
「……スカラ!」
アルスが叫んだ。
「遅い!」
「お前たちが勝手に走ったんだろ!」
スカラはすぐにミラへ駆け寄った。
「見せろ」
「……痛い」
「動くな」
肩の傷を調べる。
出血している。
だが、意識はある。
スカラは清潔な布を押し当てた。
「圧迫して止血する。すぐに手当てのできる場所へ運ぼう」
ミラが顔をしかめた。
「……痛いんだけど」
「分かっている」
スカラは答えた。
「だから、早く戻る」
そして、ミラの顔を見た。
「……怖かったな」
ミラの目が揺れた。
「……うん」
小さな返事だった。
***
しばらくして上官は意識を取り戻した。
アルスとスカラは、兵士たちから銃を取り上げていた。
スカラの連れてきたダルカ兵が、逃げ道を確保していた。
「……殺さないのか」
上官が尋ねた。
スカラが答える。
「殺す理由がない」
「……敵だぞ」
「今は武器を持っていない」
上官は黙った。
スカラは続けた。
「お前たちを、ダルカの兵へ引き渡す。捕虜として扱わせる」
「……帰れないのか」
男は呟いた。
スカラは、少しだけ考えた。
「生きていれば、帰れる可能性は残る」
男は何も言わなかった。そのまま、ダルカ兵に連れられていった。
フォンは、ミラのそばへ座り込んでいた。
「……本当に、知らなかった」
小さな声だった。
ミラは顔を背けている。
「ダルカが、こんなことになってるなんて」
「……」
「シェンクゥでは、みんなダルカが食べ物を止めたって言ってた」
「……」
「俺も、そう思ってた」
ミラは答えなかった。
「……ごめん」
フォンが言った。
「何も知らなかった」
「だから」
ミラは目を合わせないまま言った。
「謝らないでって言ったでしょ」
フォンは口を閉じた。
スカラが口を開いた。
「フォン」
「……何だ?」
「シェンクゥ王へ、事実を伝えたい」
フォンが顔を上げる。
「……王に?」
「ああ」
スカラは続けた。
「だが、私たちが伝えても、信じないだろう」
「……」
「ダルカが飢えているという事実だけでも、戦争は止まらない」
フォンは、ミラを見る。
それから、壊れた村を見る。
ここで生まれた。
だが、記憶は曖昧だった。
シェンクゥで育ち、働き、仲間を作った。
今まで、そちらが自分の故郷だと思っていた。
なのに。
生まれた故郷へ帰ってきたら、そこで妹に銃を向けていた。
「……俺が行く」
アルスが振り向いた。
「フォン?」
「王のところへ」
フォンは軍服を見た。
「俺はシェンクゥ兵だ」
「……」
「ダルカ人が言っても、信じないかもしれない」
アルスを見る。
「お前たちが言っても、信じないかもしれない」
そして、スカラを見る。
「でも、ここまで攻め込んだシェンクゥ兵が、間違っていたって言えば」
スカラが頷いた。
「少しは、話が変わる」
「……だろ?」
フォンは笑おうとした。だが、うまく笑えなかった。
スカラは荷物から、二つのものを取り出した。
一つは、書き留めた調査結果。
もう一つは、山から持ち帰った小さな種袋。
「これを持って行ってくれ」
フォンは種を見る。
「……これで救えるのか?」
「分からない」
スカラは即答した。
「でも、奪う以外の方法があることを示せる」
「……そうか」
フォンは、種を受け取った。
ミラを見る。
ミラは目を合わせなかった。
「……ミラ」
「……」
「俺、行ってくる」
返事はない。
フォンは立ち上がった。
数歩進む。
その時。
「……勝手にすれば」
小さな声がした。
フォンが振り向く。
ミラは顔を上げなかった。
「まだ、許してないから」
フォンは動かなかった。
ミラは、腕の糸飾りを握った。
そして。
「……でも」
唇が震える。
「今度は、ちゃんと帰ってきて」
フォンの目に涙が溜まった。
「……ああ」
首元の、もう半分の鳥を握る。
「約束する」
ミラは何も言わなかった。
フォンは背を向けた。
そして、壊れた故郷をあとにした。




