第十八話 辺境に降る黒い雨
いつも読んでいただきありがとうございます!
第十八話です。
ついに世界の外側の王がレオンの前に現れました。
弟子達が揃って警戒する相手は初登場です。
翌朝。
夜明けの道具店。
「朝飯だ」
レオンが言った。
食卓には大量の料理。
肉。
スープ。
パン。
卵。
普通なら十人前。
しかし。
今の道具店には足りなかった。
「おかわり」
グラディオス。
「おかわりです」
フェン。
「余も」
ノクス。
「私も」
ルナ。
全員よく食べる。
アリシアが遠い目をしていた。
「食費が怖いです」
「働けばいい」
レオンは言った。
正論だった。
その時。
カイが窓を見る。
「来た」
全員の動きが止まる。
またか。
そんな空気だった。
外へ出る。
空は曇っていた。
真っ黒だった。
昼なのに夜みたいだった。
「雨か?」
レオンが呟く。
ポツリ。
一滴落ちる。
地面に当たった瞬間。
大地が溶けた。
ジュゥゥゥ―――。
村人達が悲鳴を上げる。
「酸!?」
「違う」
グラディオスが眉をひそめる。
「呪いだ」
ポツリ。
ポツリ。
黒い雨が降り始める。
木が枯れる。
草が腐る。
建物が崩れる。
普通の人間なら触れただけで死ぬ。
「めんどくさいな」
レオンは傘を開いた。
普通の傘だった。
黒い雨が当たる。
消えた。
「…………」
弟子達が黙る。
また師匠がおかしい。
いつものことだった。
その時。
空の雲が割れた。
巨大な顔。
雲より大きい。
山より巨大。
無数の目。
無数の口。
見るだけで狂いそうな存在。
世界の外側の怪物だった。
『見つけた』
声が響く。
世界全体に。
『十三番』
村人達が倒れる。
兵士達も意識を失う。
声だけで限界だった。
しかし。
レオンは首を傾げた。
「誰だ?」
怪物が止まる。
数秒。
沈黙。
『忘れたのか』
「知らん」
即答だった。
怪物の顔が引きつる。
まるで傷付いたようだった。
『我らは千年前―――』
「知らん」
『五千年前―――』
「知らん」
『世界の果てで―――』
「知らん」
怪物が泣きそうだった。
弟子達が頷く。
「分かる」
「辛いよね」
「私もやられた」
全員経験済みだった。
レオンは覚えない。
強すぎる代償なのか。
興味がないだけなのか。
誰にも分からない。
その時。
怪物の後ろ。
巨大な扉が開いた。
ギギギギギ―――。
空間が裂ける。
そして。
一人の男が現れた。
黒い外套。
黒い髪。
黒い瞳。
ただ立っているだけで世界が軋む。
弟子達の表情が変わる。
「まずい」
ノクスが呟く。
「本命だ」
ルナが顔を強張らせる。
フェンですら笑わなかった。
男はゆっくり歩く。
一歩。
また一歩。
そして。
辺境の空に立った。
王のように。
神のように。
男はレオンを見る。
数秒。
沈黙。
そして。
ゆっくり口を開いた。
「久しぶりだな」
レオンは考える。
三秒。
五秒。
十秒。
そして。
「誰だ?」
男は天を仰いだ。
心底傷付いた顔だった。
弟子達がまた頷く。
「分かる」
「師匠だもん」
「仕方ない」
男は深くため息を吐く。
そして。
静かに笑った。
「面白い」
黒い瞳が細くなる。
「ならば思い出させてやろう」
世界の外側の王。
その名を知る者は存在しない。
だが。
弟子達が警戒する相手は初めてだった。
そして。
レオンが少しだけ目を細める。
「……強いな」
初めてだった。
レオンが相手を見てそう言ったのは。
全員が息を呑む。
辺境の空で。
本当の戦いが始まろうとしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は「誰だ?」が二回発動しました。
相手からするとかなりショックです。
次回はいよいよ、世界の外側の王とレオンの過去が少しだけ見えてきます。
また次回もよろしくお願いします!




