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港湾都市リン=ジェンにて01

 執務室に入ったメメとジラセ。

二人の前に、一人の髭を蓄えた中年の男性が座っている。

彼の隣には大きな本棚や調度品が置かれており、その身分の高さをも表していた。


(彼がリン=ジェンの全権を掌握している総督)

ジラセは彼の顔や体型を眺めた後に唾を呑み込んだ。

本来なら賜力を使って調べたいと瞬間的に考えたが、もう既に使用していたので諦めた。


 ジラセは腕が震えないように気を付けながら、バックから書簡を出した。

そして、エンジン総督に渡した。

彼は封蝋を一瞥した後、割ると封を開けた。

上から下へ視線を動かしてから卓の引き出しにその手紙をしまった。


「成程。

貴公らの任務ご苦労であった。

これから返送用の手紙を執筆をおこなう。

それとそのままレ=メゾンに戻ろうとすると深夜に差し掛かってしまう。

そこで、このままこの都市で観光でも行っていくといい。

泊まる宿は私の方で手配しておこう」


 総督がどちらが上役か訊ねてきたので、メメが私ですと答えた。

心なしかその言葉は落ち着かない様子を感じさせるとジラセは思った。


「おいレベッカ」


 エンジン総督が呼び鈴を鳴らしながら叫んだ。

暫くすると、青年期に思える女性が入ってきて姿勢を正す。

そして二人は数語会話を行うと、秘書レベッカはメメの方を向いた。


「ではメメ様とジラセ様。

私がこの都市で推薦する宿を紹介しますので階下で待機していてください」


 彼女は、踵を返すと礼をして執務室から出ていった。

静かな靴音が響いた後、使者の二人も礼をして出ていった。

そして、一階で宿を紹介された。


 白帆の導き亭━━そこが総督から紹介された宿の名称であった。

まだ独立国であった時から、船乗り達や各地を渡り歩く行商が多く利用しているという宿。


今では、その亭主の都市レ=メゾンから直々に派遣された女性が運営していたが、客は様々な民からなっていることであった。

しかし、この都市と繋がる国は、建国者の一族の築いた土地であるようであったのだけど。


「すごい。

特に破風のある精緻な彫刻がその格式の高さを象徴しているように僕は感じます」


 ジラセは破風に浮彫彫刻で表現された、甲羅から多数の折り畳まれた棘を有する神獣に目を束縛されながら呟いた。

その霊獣は元々リン=ジェンの象徴である動物であり、ボキ女神様からこの地の守護獣(ガッデス・エニムル)に指定されていると謂われていた。

もっとも、その実態は人類族が勝手にボキ女神様の権威を利用しただけであったのだけど。


「メメさん、今晩はこの白帆の導き亭に泊まるとして、何処か観光に良い場所とかないでしょうか? 

僕はこの町の特徴である港の波止場を観察してみたいです」


 ジラセは宿の予約がスムーズに取れたのに驚きながら、別室に入ろうとする先輩に訊ねた。

彼女は目を瞬かせると、指をある方角に向けて動かした。

ジラセはその指差された方角に目を動かしたが、見えたのは木製の壁であった。


「波止場には大小さまざまな帆船やガレー船が停泊しているそうよ。

この町は独立していた頃は貿易でその力を蓄えていたから……ね。

今は私たちの土地による支配と庇護を受けている事によって、昔より治安面は改善されたと聞いたことがあったわ」


 メメは誰かから仕入れたのか不明な情報を、滔々と話してジラセに聞かせた。

彼は夕闇の中の桟橋を背景に屯するのも乙かもと思った。

しかし妙齢の女生と一緒だと危ないと考え、そこで「メメ先輩、今日はもう寝ましょう」と言った。


 彼女は今更ながら遅い事に気づいたかもように静かに頷いた。

そして戸を開けると、“おやすみ。また明日”と喋ると部屋に入った。


 ジラセは部屋の前の廊下に掲げられた都市の地図を描いたと思われる絵画を一瞥した。

その絵は沢山の船が描かれている事はもとより、礼拝堂も立派に画面を占めていた。

他には、飼われている動物や霊胞の省略されている人々の姿。


「ふ~ん。

リン=ジェンの画家って大事な霊胞を描かない事が多いのかもなぁ。

僕は絶対に画面に点でもいいから描写してほしいけど」

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