港湾都市リン=ジェンにて02
朝早く起きて総督から返答文を受け取った二人は、陽が昇り切る昼頃まで観光することに決めた。
最初の目的地は、都市の冠詞にもなっている港の波止場に行くことに決まった。
後は成り行き任せと。
二人して住人の中をねって歩いていく。
そして、リン=ジェンの懐に切り込むように水を湛えている大海に身を移した。
“リィン海”。
それがこの海の名称であった。
そして、遠巻きに二人が立っているこの場所は、リィン=セカド波止場と呼ばれていた。
そこに停泊している船は船体が漆黒で塗り上げられ、一つ目の舳先を有する防衛船である、所謂軍船であった。
「ジラセ君、ここが私たちレ=メゾン国の常備海軍の母港。
これ以上近づくことは難しいけど、女神の大乱令の時に海上隊に志願すれば乗船も叶うわ」
メメは力強く断言した。
ジラセはその船の姿をしっかりと刻み込むと遠方に見える茶色の船体の船にも気づいた。
それにもやはり一つ目が描かれている。
「メメさん。
船の舳先に描かれている一つ目、あれはこの町の象徴でしょうか?」
メメは嬉しそうに返答を始める。
しかも、聞いていない事すら滔々と話し始めた。
“それに僕は、船の上は苦手かもしれません”と付け加えるのも忘れなかった。
この桟橋は軍船の母港区。
つまりここは海軍の屯所であり、敷地の外の道路には常備兵を客としている店が軒を連ねている。
訓練場や酒場、裏通りには娼婦館や男娼館もあった。
「さてと、お次に行きたい場所はある?」
彼女は先輩としての気構えで後輩に訊ねた。
彼は意気込んで答える。
「神獣を見てみたいです」
鼻息荒く答えた。
その返答を聞いて彼女は苦笑いをしながらそれに上手くいかないと芳しくなく答えた。
「何故ですか?」
「理由はね。
この地リン=ジェンの霊獣は防御型の生命体といわれるぐらい、発見するのが難しいらしいの。
だから、残された半日以下で探すのは大変かなって━━。
それに都市の中は平和でも、外には凶暴な動植物もいるだろうし」
「でも一度でいいから見てみたいんです。
都市レ=メゾンには神樹はあっても神獣は決まっていません。
だから羨ましいとかそんな邪な感覚でなく、尊重してみたいんです」
彼女は空を臨んだ。
そして溜息をついて諦めた様に言葉を続け、後輩の意見へ了解との意向を伝えてきた。
「ただし、本当に少しの時間だからね?
都市から遠く離れない事と昼時になる前に町に戻る事のふたつを守れるなら探してもいいわ」
「守ってみせます」
ジラセは力を籠めて答えた。
「分かったわ、なら探してみようね。
先ずは、案内人を探さないと」
先輩の言葉に後輩は気合を持って握り拳をした。
心の底から感激している様子を見せないように動きを少なくして。
(これで次回の成人の儀の時の決めた約束事での発表会に出す題材になるなぁ。
それと仲間の希望だけではなく、自分の思いも叶えられるしね)
「それで君たちふたりは、神獣であるリーバック亀を探しているんだって?
あいつらは臆病な奴らで、なかなか人前には姿を現わさない。
その為、探すときには餌を使う」
案内人の青年のジャックが懐から赤と白色をした物体を取り出した。
暫く見ていると、動物の肉である事が分かった。
「あいつらは自分より身体が小さく柔らかい獲物を狙う。
捕食者からの防衛には、体を伏せ、背中の甲羅の棘を立てることによって二重に防御する」
ジャックの説いた内容は、リーバック亀は“亀”といわれているが実態は鼬に近いと。
その姿は四肢があるのは当然として、全身が毛に覆われている。
種族としては哺乳類の一属だと。
そして、棲息地は、海沿いから内陸部に連なる森林に棲んでいると。
強靭な鬣狼の牙も弾くことのできる甲羅を有しているが、そこまで歳を重ねられるのは一部とも。
「ジャックさんよく分かりました。
そしてその武器は何ですか?」
ジラセは彼が背に担いでいる先の尖った鎚を見て訊ねた。
「これは奴らの自慢の甲羅から防衛できる武器だよ」
彼は朗らかに笑った。




