遭遇
ジラセは案内人のジャックに導かれるように都市から出た。
視線の先には、鬱蒼と生い茂る森林、遠方に臨む事の出来る山脈。
ジラセは目の前の森林に顔を向けた。
視線を妨げるように数多くの樹木が生えている。
倒れている倒木もこの地の豊かな植生を表していた。
近づくほどに、その中から夥しいほどの音が聞こえてきた。
片手を腰に佩いた剣の柄を何時でも抜き払えるようにしっかりと添えながら、彼は付いていった。
ジャックは樹冠の方にも視線を遣っているように思える格好で、一歩ずつ進んでいく。
その歩み方は、落ちている枯れ枝を踏まない様に注意を払っているのも窺い知ることができた。
案内人の彼が片腕を挙げて、二人を停止するように促した。
二人は慎重を期して動きを止め、呼吸音だけが静かに響いてくる。
「お宅ら、あのマッタンの上の幹に緑色の物体が確認できるだろ?
そして少しばかり動きがある、あれが君らの探しているリーバック亀さ。
歳の頃はそうだな、未だ少年期といったあたりかな」
ジラセは近くにある樹木の樹冠の先端を見詰めた。
ジャックの言うとおりに一匹の動物が枝にはりついていた。
四肢はしっかりとしており、顔は哺乳類で特徴的な甲羅を背負っていた。
「今から捕まえてきます」
ジラセは意気込んで駆けようとしたところをメメに服の裾を掴まれた。
その彼女の表情は彼のその行動を否定しているのが分かる。
「ここで眺めてるだけかぁ」
呟きながら足元に落ちていた小さな石をリーバック亀の方に目掛けて投げる。
他の二人が制止する前にその鼬風の動物は背中を曲線になるように動かし、背中に並んだ棘を一斉に立てた。
そして石が棘にぶつかって落下する。
「ジラせ君。
確か神獣を尊重すると話していなかったけ?
それとも私の勘違いかしら?
あの生き物もこの地であるリン=ジェンに居住する方々の象徴。
もし今回の事で傷ついてそれが発覚したらどうなるかな?
下手すると独立派が勢いづいてしまうわ」
ジラセは少し考えて両目を伏せて更に考えた。
それから謝った。
「━━御免なさい」
案内人である彼は額に血管を浮き上がらせながら苦笑している。
ジラセは彼を凄く怒らせたと判断してさらに委縮してしまった。
でもこのまま委縮しているだけでは先に進まないと思い直し気合を入れなおす。
「リーバック亀の防御姿勢は観察することができました。
次は実際の自然界での状況を見てみたいです」
その言葉のまま彼は先輩の方を伺いみるが、彼女は上空を観察していた。
それから彼の視線に気が付くと答えた。
「あと少しで約束の昼間になるけど……。
もう好機はなさそうだわ、ジャックさんあり」
途中まで喋った彼女の視線の先に一頭の生物が近寄ってくる。
それは、ボキ女神界で分厚い装甲盤を有する雑食性動物としては最強と謡われる犀モドキであった。
黄色と黒色の視線がジャックとメメ、そしてジラセを捉えた。
彼は腰に付けていた父から頂いた剣の柄を握りしめた。
何時でも抜刀できるように、しかしジャックがそれ以上の行動を制止させた。
「君の力ではアイツには対抗できないよ。
ここは俺が阻むから、あいつから視線を離さないようにしてくれ。
くれぐれも隙や怯えを見せないように。相手は野獣だからね」
ジャックは自然体で得物である鎚を防御体勢で構えた。
ジラセの頭の中では彼の隙を見つけることができなかった。
相手の犀モドキは視線を細めるとそのまま突撃してきた。
ジャックは攻撃を受ける直前に持ち手を斜めに構えなおすと脚の支点は動かすことなく攻撃を受け止めた。
よく見ると犀モドキの口から鋸歯が生えている。
ジラセの前でジャックはそのまま相手を弾き飛ばすともう一度の突進の時に身体を横にずらしながら相手の腹部に鎚の先端部を突き刺した。
ジラセは吹き飛んだ獣ではなくジャックの背中を見詰める事しか出来なかった。
ジャックが相手の次の突撃で、容赦なく殺害するという意識が圧迫感を伴って伝わってくる。
ジラセは、傍らにメメが寄ってきた事にも彼は気づかないほどその場の空気感に吞まれていた。
彼が歩を犀モドキの方にゆっくりと近づいていく。
犀モドキの視線が動かなかった。
ある距離にまでに到達した時に、犀モドキは踵を返して脱兎の如く逃げていった。
(僕は今まで父さんと母さんでも出来たから自分でもやれると信じてた。
でも本当にそうなのかな?)




