入場
ジラセはメメより先に首邑アーダンの敷地内に入った。
礼拝堂の鐘楼が陸票となっている他は、大通りに面した家々の軒下には様々な品物が並んでいる個人商店が連なる。
彼の目には、他の地方━━といっても、故郷から出たことはなかったけど━━では見られない物が並ぶ。
(メメさんは僕も集落の中に入ればすぐに政権を担おうとしなかった理由が分かると言ってたけど……。
あれ、何だか人口の割にはレ=メゾンより老人と子供の数が多い気もする)
ジラセは道行く人を見ながら考えていた。
その人々の年齢層が故郷と異なっている以上に障碍者と思える者も多い気が彼はしてきた。
「あのメメさん。問の答えは分かりました。
なぜ此処が首府としての座を放棄しているのかってことが。
それはこの土地で自らの国に忠義を果たそうとする軍団のしっかりとした編成者たちの内容の所以でしょうか?
女神の大乱令では首府がその中核を果たします。
彼らは経済的に生きる方が有利だと踏んだと僕は気づきました」
メメさんは後輩の言葉を聞いてからしっかりとニコリと微笑んだ。
靨が年相応の可愛らしさを強調しているようにジラセは感じた。もっとも、相手が人妻なので緊張もしなかったのだけど。
ボキ女神界は、領地持ち貴族である上爵とその頂点に君臨する大王家が治めていた。
独立国である各都市は基本的に連携のない事はおろか、知られてすらいなかった。
そして政治を担う貴族層。
そして独立国同士は勢力拡大と女神の大乱令での勝利に向け、独自に動いていた。
二人の歩く道路を沢山の者が歩いていく。
それでも彼の目にはその眼の輝きは喪われておらず、人生の目標や心をしっかりと保っている様子が伺いしれた。
(父ちゃんたちは一度、リン=ジェンに旅行した事があるって言ってたっけ?
彼らは人生に絶望しているかのような落ち窪んだ目の色をしていたっと言ってたなぁ。
どんな感じになるのか僕も一度行ってみるかな?)
そして、アーダンの広場にある大きな造りの建物の前についた。
それは、一階建てであったがしっかりした青い屋根を金属の板で葺かれていた。
破風には村の標識である柄が描かれている。
巨大な明るい群青色をした“海”に面した土地柄を表してか、その柄はその色が歪な格好で描かれていた。
「ジラセ君、ここが長の館よ」
メメさんは、腹の底から気合をいれるようにして言葉を言った。
そして、腕を差し出して指を上の方に向けた。
平屋でも、周りの建物物と違ってレンガ造になっていた。
「す、すごく立派な建物です。
ここからこの村の政治が行われていると思うと感慨深いものがあります。
そして、そこに座する長は彼らの信頼を勝ち得ている者だという事が、新たな土地を発掘していくという国是を持つ国の方針と合致する気がします。
大事な実力主義です」
ジラセは彼女に勢いよく語った。
途中で呼吸が詰まりそうになるかの如くであったが、喋り切ることが出来満足した顔になった。
「さぁ、入りましょう」
その建物の中は、規則正しく組まれたレンガが壁を構成していた。
天井は木製の梁がしっかりと屋根を支えているのが分かった。
そして、目の前に窓口があった。
その卓の前に座席があり若い女性、上にはモザイク壁画が掲げられていた。
その題材の絵柄は、昔に挙行された儀式である建立式典の様子が描写されていた。
その題材が選ばれている事自体が、此処で挙行された事を喧伝する目的があることを自ずと明らかにしていた。
そしてメメは渡された書簡を受付嬢に見せると村長に取り次いでもらうように頼んだ。
「メメさん、この書簡を渡しに行きましょう」
ジラセは腰につけていた鞄を軽く叩いた。
まるでこれから人生初の重大な━━勿論とても大事な━━出来事に関われたことによる震えが起きた。
興奮したことによる武者震いともいえた。
「覚悟はできたわね?
なら執務室に向かいましょ!」




