夜伽の会話
テントの中で三人連なって就寝している夜。
昼間とは違い星星の煌めきのよく見える夜。
ジラセは目を瞑った。
今日一日の行動の様々な様子が脳内を駆け巡っていく。
「あと、四日ぐらいか」
「ジラセ君、しっかりと寝とかないと明日からバテるわよ」
ルンルン卿が彼の方に身体を向けて呟く。
仄かな心地よい香りと共に静かな言葉が聞こえてくる。
彼は誘惑されるかのように自然に手を彼女の頬に伸ばして触った。
「くすぐったいわね。
お返ししちゃう~」
ルンルン卿がジラセの頬ではなく腹を弄繰り回した。
その指先の動きが不思議なのか、彼は感情を抑えられないような気持ちが持ちあがってくる。
(ルンルン卿は年甲斐もなく、やっぱり可愛い方だ。
これなら目的地への冒険も楽しく過ごせそうだな。
ユマと二人だとどうなるかと思ったけど)
ジラセはテントの中で横になりながら天井を見詰めた。
といっても、外の月夜や星━━その全てが別の神界と言われる━━の透けてくる明るさのみであった。
「ねぇ、ジラセ君。
私にはお休みの言葉を掛けて欲しいわ」
不満そうなユマの声が聞こえてきた。
彼は適当に彼女にお休みの科白を伝えると目を閉じた。
意識が静かに落ち窪んでいく。
つまり睡眠に向かっていくのであった。
ジラセは剣を腰に帯びながら、館の中の椅子の上に座っている。
目の前には同じ年頃の女性が、それと二人の中間点のあたりには一人の子が嬉しそうな顔で座っている。
『僕は今日も教導所で先生たちに褒められたよ。
これなら父ちゃん達の求める力を習得できる日も遠くはないよ』
女性は目を瞬かせると子供に抱きついた。
「嬉しい! 私との約束を覚えてくれていたのね。
成績が上位に食い込めればママとデートしようって約束を」
子供は茶色の瞳を素早く閉じてウインクをしたらニヤリと笑った。
幼い頃からの付き合いである両親との絆を、さらに深く出来る機会がそう遠くない日々に備えて何より嬉しかったのだろう。
「夢か」
ジラセは両目を開いてテントの頂点部分側の換気口を見る。
外は暗闇であり、現在まだ陽が上っていない事が分かった。
テントのキャノピーから外に出ると、月や星星の煌めいている明かりで視界が少しばかり見えるようになった。
「眠れないの?
ジラセ君」
急に声を掛けられたので後ろを振り返った。
拳を腰に添えたまま。
「何だユマか、吃驚させるなよ」
星空に照らされてユマの表情はジラセには明るく見えていた。
彼女のスカートが風に煽られて翻る以外にも、葉の擦れる音がしている。
リィン大森林は真っ暗闇に包まれて沈黙している。
「あたしも眠れなくて。
べ、別に樹魔者がいるからでも緊張しているからでもないわ。
何時もと違うベッドの上で寝てるからよ」
「私は吟遊詩人だからね!
冒険は苦手なの!」
唇を尖らせながら懸命に否定した言葉を吐いている。
彼はその様子を眺めていると急に笑いたくなってきた。
「文句あるの?」
彼女は頬を膨らませて抗議している。
「何だか遠い地に旅立っても、故郷と変わらない部分が見れて安心するなって」
とジラセが呟いた。
顔を怒ったように上気させたユマはくるりと身体を回転させるとテントの中に入った。
(何か気分を害したのか?
本当によく分からない奴だな、気難しいってありゃしない)
苦笑した彼はもう一度天空を仰ぎ見た。
星星が輝いてボキ女神界以外の世界も順調に動いている様子を伺いしる事が出来る。
ひとつひとつの世界はチッポケだと伝わっていた。
この世界も、人の脚で最も長大な央道でも二百八十日で歩き抜くことのできる大きさ。
その世界ごとの主要生命体を基準にされた世界の大きさであり、ここでは人間族であった。
女神様を彷彿とさせる容姿らしいから。




