出発!
「まぁ敢えて言うなら長官が気にしている地の調査を頼もうかな?」
アルバートは奥の書庫から一枚の大振りの革でつくられた地図を持ってきて広げた。
その地図にはレ=メゾン国を中心にして、円周状に半日ほどの距離あたりまで詳細が記されていた。
しかしその先はもはや判然としていなかった。
載っている地点としては、旧衆首国であったラーディン=ガル国の位置と勢力圏の村落、そして属国のリン=ジェン国のみだけが記されていた。
「アルバートさん、この地図がどうしたのでしょうか?」
「ここを見てね」
と彼は指先で遠く離れた━━五、六日ほどの地点━━詳細が書かれている場所を指差した。
トントンと地図上の地点を叩きながら、彼は続けた、
「何でここだけ印がついているのか分かんなくてね。
レ=メゾン国からの住人の出奔先とかと考えた事もあったけど……、」
「違うのですか?」
「それを君に調べてもらいたい。
あっ長官と一緒に合同の調査だよ。
新人を単身で向かわせるのは、危険な獣はおろか人材もいるからね」
そう会話をしていると二階から長官のルンルン卿と受付嬢のアネシャが降りてきたのか近づいてきていた。
「長官、彼にあの飛び地A地点の調査をお願いしました。
当然長官も同行します」
「随分と行動が早いわねぇ。
私としては整理仕事からしてもらいたかったけど、まっこの際しょうがないかしら?」
「それと、ユマちゃん貴女も一緒にいく?
だって彼の冒険譚を詠うんでしょ?」
ルンルン卿はジラセの隣に控えていた彼の幼馴染に声をかけた。
その言葉で彼女は吃驚したかのような顔をした後、小さく頷いた。
「長官。
人を下手に増やすのは危険だと思いますが……。
目的地は未踏地域に隣接していて、冒険家以外の人材も派遣することはリスクも跳ね上がるような気がしますが」
ルンルン卿はほくそ笑むかの様に顔を動かして、話しを続けながら指先を振った。
「勿論彼が護るわよね?
何せ未来のお嫁さんなんだから!
私は年下男の子にしか興味ないしね」
ルンルン卿は明るく朗らかに宣言している。
その場の空気が何ともいえない感覚に包まれた。
アルバートが一回咳をして、静寂を破った。
「分かりました。
ドーン首領の方にも話しを付けておきます」
溜息が混じるような声で彼は小さく返事をした。
「それじゃ、先ず冒険の為の装備ね!
都市から遠く離れて補給もできなくなるから食糧は当然としても他のも必要だわ。
もっとも、その為の準備は既にしてあるわ!
だからあとは出かけるだけ」
と言いながら、後ろにあった大きな背嚢を彼の前に音を立てて置いた。
二つ持ってきたようで、片方をルンルン卿が持つようであった。
そして背嚢を互いに背負うと三人で連れだって都市レ=メゾンの区域の外へと踏みだした。
天候は雲が多いが合間に太陽の日差しが覗き、旅を行うには絶妙ともいえた。
ジラセは地図を手にしながらルンルン卿へ目的地への道筋を伝えていく。
それを彼女が陸票の確認を行いながら進むという時間のかかる方式であった。
「ルンルン卿、本日の進出距離はえ~と大体この辺りでしょうか?」
ジラセは地図を手にして指をある一点に置いた。
そこは平原のおかげで距離を稼げたのか、それなりに遠い地点であった。
ただ、宵闇が閉じる手前で野営を決めた場所の視界の先には、鬱蒼としげるリィン大森林が広がっている。
その大森林は彼らの母国を覆うように広がっており、前回の女神の大乱令の後でも開拓を阻んでいた理由のひとつに挙げられていた。
「あの大森林は私たちの勢力を阻んで来たけど、逆に言えば自らの本土を護る要にもなってきたの。
しかし、今はある程度の調査は進んでいるわ!
何せもう三十年近く調査が行われているのだから」
ルンルン卿は指を振り振りしながら二人に説いた。
ジラセは了解の顔をして、ユマは少ししか興味を持てない表情。
「つまり、あの奥に秘密が隠れているのですね?」
ルンルン卿は弟子の問を肯定した。




