冒険家就任による送迎宴会
「そっかジラセ君。
遂に就任が決まったのね!
なら折衝部の皆でささやかな、ううん、盛大な宴会を開いてあげようって今私は決めたわ!
といっても私だけの給金からの資金源では高が知れている。
だから、部の皆の協力がいるわ」
そう言ってメメは卓が並んでいる方に振り向いた。
「協力してくれる人は、この巾着袋の中にボキコインを入れて」
ボキコインとは、ボキ女神界の中央王国が発行している共通貨幣である。
貨幣単位としては、安価順に銅貨、次に鉄貨と大鉄貨、そして最も高価な金貨となっていた。
金貨は庶民の間では全く流通していなかった。
貨幣以外にも各国家ごとに基本資源を獲得できる土地も存在しており、女神の大乱令の遠征軍も組織することができていた。
といっても、未踏の地を既知の大地に変える為には二つの情報を得る必要があった。
その内の一つ目がその地を覆う都市霧を発見する必要があること。
もう一つが、その地で暮らす人民と接触する必要があることであった。
部内の職員が立ち上がり順々にメメの袋の中にコインを放り込んでいく。
そして、あっという間に小さな巾着袋が満杯になった。
「さあ、それじゃあ。
ジラセ君の冒険家就任祝いの歓迎式典を開きましょうね?
場所は、そう━━」
メメは折衝部でよく使われていた場所の名を上げた。
其処は、レ=メゾン国の都市域の西方に位置する酒場であった。
そこを選んだ理由を考えたジラセは顔が暗くなった。
「先輩、あそこって確か……とても野性的な店長さんが経営していたような気がするのだけど?」
恐る恐るメメに訊ねたジラセ。
メメは小柄な体躯を存分に生かすような体勢をしつつ、胸を張って答える。
「そりゃー当然よ。
折衝部が開設されてからメンバーが屯している馴染みの酒場よ。
決して無下にはできないわ!
店長さんはとても素敵な夫婦じゃないの」
メメはまるで自分の一族の一員であるかの如くに指を振り振りして答えていた。
ジラセはその様子を眺めながら、一言呟いた。
「えっ何? 聞こえなかったわ」
「別にメメさんの悪口ではないですよ」
彼女は、その言葉を聞いて安心したのか、くるりと長官の方へと顔を向けた。
(本当に単純な女だな。
こんなのが僕の先輩だったなんて……いや、今もそうか)
折衝部の職員である十一名で連れだって、馴染みの酒場である泡繋ぎ亭へと向かった。
そこは音楽班によるバックコーラスを聞きながら優雅に飲食を楽しもうという酒場であった━━そして店の経営方針として、“溢れるような泡”を客として“繋ぐ”という意図であった。
薄暗い夕闇の時刻帯。
夜に鳴く鳥や野生の獣たちの声を背景に都市の住人は家に帰宅している者や、仕事の後追い、そして学業での残りの勉学に励んでいる者の時間帯であった。
「店長~。
ジラセ殿が今度冒険家に就任する。
そこで我が部として送迎会を開くために此処に赴いたからお勧めの酒や肴とかないかしら?」
長官は首を傾げながら訊ねている。
ジラセからみると、人妻といってもその行動は愛嬌たっぷりであり魅了されそうになった。
歳も両親に近いのだけど。
「ならお勧めはこいつだな。
アルコール度数はそれ程高くないが、心の芯から燃え立たせる効能がある」
と言いながら一つの陶製の瓶を奥から取り出して円卓の上に置いた。
瓶には都市で有数の文字の書き手と店長が推す人材による字。
装飾された文字が、飲む者の心も晴れやかにするかの様な字体であった。
ジラセの前にカップが置かれ、メメがそこになみなみと注いだ。
「さて!
ジラセ君の出世祝いと門出を祝して乾杯!」
その場を長官ではなく、平のメメが仕切った。
周りの職員も馴染んでいるのか、それとも彼との付き合いが多かった彼女の立場を尊重しているのか文句は出なかった。
「折衝部の先輩の皆様。
僕は此処で得た技術と知恵を自らの力の糧として先に進んでいきます。
そして、レ=メゾン国の繁栄の未来の為に」




