冒険家セクター部
秋前季の一日目。
ジラセは都市の中央部にある首領邸の一角に設けられている冒険家セクター部に赴いた。
そこは、部屋の奥の方に書庫が連なっているのが分かる。
彼は手前の受付に居る女性に声をかけた。
「僕は今度冒険家に就こうと思っているジラセ。
どうやれば、就任出来るのかな?」
彼女は表情を変えずに━━営業用スマイルというのだとジラセは考えたが━━一枚の用紙を彼に渡した。
ジラセは簡単な質問などや名前を署名すると彼女に渡した。
そして椅子から立ち上がって去っていく。
暫くすると一人の女性を伴って戻ってきた。
その女性はジラセの脳内には記憶として保存されていた。
そう、ルンルン卿であった。
「あら?
ジラセ君、遂に御父様から就任が許されたのかしら?」
彼は頷いた。
「知人ですか?」
「いいえ。
一度会ったことのある少年よ。
何だか彼女の前で自己アピールに余念がなかったわ」
「なら話しが早いです。
長官、彼は雇われたいようですが」
「勿論、了承するわ。
今は三人ね。前まで居た爺ちゃんは引退したからね」
「一人引退したことは知りませんでした。
勿論長官の離職の承認を得なければいけませんが━━」
ジラセは同階にある折衝部の方へ視線を向けた。
二人の年上の女性のうちのルンルン卿が彼の肩を叩いた。まるで勇気づけるかのように。
「私も向かうわ。
部の長官の彼女とは、幼少期からの友人でね。
私が貴族に抜擢された時も自分毎の様に酒を奢ってくれたっけ。
べっ別に個人的な交友の為ではないのよ?」
ルンルン卿は彼から視線を逸らせるかの様に顔を動かした。
しかし、その両頬は淡く染まっている事をジラセは発見した。
(はは~ん。
ルンルン卿はもっと気位が高いかと思っていたけど、可愛いところもあるんだね)
ジラセは内心勝ち誇った気持ちを抱きながら大人し目に応対した。
その様子を見て彼女は安心したのか扉を勢いよく開けた。
ルンルン卿は折衝部の扉をノックしてから中に入った。
その中では、ジラセと顔馴染みの数名の職員が卓の前で作業をしている。
一番奥の卓に座った長官が立ちあがった。
「あらあら誰かと想えばジラセ殿。
それに隣にいるのは、ルンルン卿」
長官は二人の姿に視線を向けると、立ったまま彼女に近づいて抱きついた。
その熱意の籠ったように見える抱擁は傍から見ていると照れ臭くなるほどであった。
「ただ私に会いに来たというだけではないわよね?
何かな」
体格の良いルンルン卿は一度咳をする。
腰に片手を当ててもう片方でジラセの肩を掴んで言った。
「彼、ジラセ君は私の冒険家セクター部に配属されたいそうなの。
その為、折衝部からの引き抜きに参ったわ」
折衝部の長官は瞼を伏せると笑顔になった。
まるで彼が最初から去っていく事が既定路線であった事を知っていたかの如くに。
「こちらとしては一つだけ条件がある。
たとえ冒険家セクター部に無事に就任出来ても、私たちの折衝部から籍を抜かない事。
今でも限界スレスレの人員で業務を回しているんだから」
レ=メゾン国では副業を有している者は少数派。それでもジラセは覚悟を決めていた。
二人の女性。
さらには多数の折衝部の人員の視線がジラセに集まった。
彼は人々の視線を感じながら答えた。
「安心してください!
僕はふたつの仕事を器用にやりぬいてみせますよ」
ジラセは未だ十歳という若さが滲み出ないようにしつつ、元気さを感じさせるように言葉を選んだ。
ルンルン卿は満足したような顔と態度で、この場を切り上げる事を伝えると出ていった。
「さてジラセ君。
そうと決まればやる事があるわね。
先ずは業務の割り振りを考える前に、ドーン首領に申告をしないといけない」
彼はしっかりと頷いた。
そのような事は既に考慮済みであり驚くことではならなかったから。
そして胸を叩くと同部門の他の業務員との話しもする為に奥へと向かった。




